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第35話 荒くれ冒険者

 冒険者と揉めていた村人に話を聞こうとアル達は走り出す。その姿を見た村人がげんなりとした表情を浮かべたのをアルは見逃さなかった。恐らく自分達も先程の冒険者と同じように思われたのだろう。だが、さっきの揉め具合ではそう思われても仕方ないことだと割り切った。


「すみませーん、お話いいですか?」


 そう呼びかけながら村人の所まで行く。村人は話をしてくれるのかその場から動かなかった。

 村人の近くまで行くと、村人の方から話しかけてきた。


「アンタらも依頼を受けた冒険者か?」

「いえ、俺達は旅の商人をしてまして神聖ダルク法王国を目指している途中なんです」


 いつもの様に商人を偽装するアル。だが、アルが冒険者じゃないと知って村人の表情が少し柔らかくなった。


「商人か。悪いが何も買ってやれないよ」

「それは残念です。つかぬことをお聞きしますが先程男性と揉めていた様ですが何か問題でもあったんですか?」

「ああ、さっきの男は冒険者だ。最近村と村の間の通り道で魔物を見た奴が居てな。それでニブルヘイムの冒険者ギルドに討伐依頼を出したんだが、あんな奴が来るんならダルク法王国の方に依頼を出すんだったよ」

「なるほど、それで何が問題だったんですか?」

「この村は見ての通り小さくて農業を生業にしてるんだ。だから旅人とかも滅多に来ないから宿屋が無い。それをあの男に伝えたら待遇が悪いだの言いだしたのさ」

「それは心中お察しします」

「ありがとよ」


 そう言って村人は村の中へ消えていった。

 村人の話を総合すると、今この村では魔物が出て困っている。討伐依頼を出したら横暴な冒険者が来て言い争いになった。

 纏めれば簡単な話なのだろうが、問題は冒険者にありそうだ。今までの旅でも横暴な冒険者は居た。基本的に魔物等を倒すのが冒険者の仕事なのだが、中には「俺達がお前たちを守ってやってるんだから感謝しろ!」といった思い違いをしている者も居る。今回の冒険者もそのたぐいなのだろう。

 宿屋は無いらしいので何処で休むか考えていると、先程の村人が戻ってきた。


「そういえば空き家が一軒あるんだがそこで良かったら使ってくれて構わないぞ」

「いいんですか! でも冒険者は?」

「アンタ等なら何かしでかすって事は無さそうだしな。冒険者は自業自得さ」

「ありがとうございます!」

「いいってことよ。空き家はあの家だから好きに使ってくれ」


 そう言うと村人は自分の家に入って行った。宿ではないので食事やらは自分達で用意しなければならないが、それでも雨風がしのげるだけでも有難い。

 早速アル達は空き家に向かい中に入った。


「家具もそろっているし少し掃除すれば使えそうだな」

「では手分けして軽く掃除しましょう。それと夕食の準備もしてしまいますね」


 ジブリールとクレアが夕食の準備、アルとナーマが部屋の掃除にわかれた。


「まったく、何でわたくしが掃除しなくてわならないの? 別に少しくらい汚れていても気にしませんわ」

「そう言うなよ。部屋を貸してくれたんだから掃除くらいして恩返しをしよう」

「まぁアル様がそう仰るのなら仕方ありませんわね」


 文句を言いつつもアルの言う事には逆らわずに黙々と掃除をするナーマを微笑ましく思いながらアルもテキパキと掃除を続ける。

 黙々と掃除をしていると、家の扉が開きジブリールが帰ってきた。


「只今戻りました」

「おかえり。あれ? その野菜はどうしたんだ?」

「これはさっきの男性から頂きました」

「そうか、明日ちゃんとお礼言わないとな」

「そうですね」

「それでクレアは何をしてるんだ?」

「彼女は井戸で水を汲んでます。手伝うと言ったのですが断られてしまいました」

「そっか。クレアもクレアなりに俺達の力になりたいと思っての事だろうからジルもそれは汲んでやってくれ」

「はい、わかってます」


 ひととおり話した後はまた別々に作業をする。

 しばらくたってアルとナーマの掃除が終わり、あとはジブリールが夕飯を作るだけなのだが、肝心の水係であるクレアが戻って来ていなかった。


「クレア遅いな」

「水汲みだけにこれだけ時間が掛かるとは思えないのですが何かあったのでしょうか?」

「ちょっと様子を見てくる」

「それなら私も一緒に行きます。ナーマは留守をお願いします」

「分かったわぁ」


 ナーマに留守番を頼んで二人で井戸まで来たがクレアの姿が見当たらなかった。帰る家が分からなくなって迷子になっているのかと思い村の中を探していると、遠くからクレアの声が聞こえた。その声の聞こえた方向へ向かうと村はずれの空き地の様な場所で男性三人とクレアが揉めているのを発見した。


「やめてください!」

「いいじゃねぇか、お酌してくれるだけでいいんだよ」

「無理矢理ここまで連れてきておいて信じられるわけありません!」

「ひでぇ言いようだな。俺達は冒険者だぜ? 今この村は魔物の脅威があるんだ。その魔物から助けてやるんだから少しは俺達を楽しませろよ」

「冒険者だろうがなんだろうがこんな事はミカエル様が許しませんよ!」

「はは、残念だったな!この村はニブルヘイムとダルク法王国の境界線上にあるからどちらにも属していないんだよ。つまりミカエルなんか怖くもなんともないんで~す」

「くっ、不敬な!」


 どうやらクレアは村の入り口で見た荒くれ冒険者に無理矢理連れて来られたらしい。クレアはにじり寄ってくる男達に向かって必死に言葉を投げかけて抵抗しているが、恐怖の所為せいか足が震えていた。

 その光景を目にしたアルは怒りで頭に血が上り、男達に向かって走り出していた。

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