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第34話 魔力纏の訓練

 翌日の朝、期待とワクワクで寝付くのが遅くなったアルがまだ熟睡していると、アルの身体を揺さぶる人物によって強制的に覚醒させられた。


「起きてくださいアル」

「ん~、……おはよう」

「はい、おはようございます」


 まだ寝ぼけまなこをこすりながらアルを起こしてくれたジブリールに挨拶をする。こうして毎日彼女が起こしてくれるのが旅を始めてからの習慣になっていた。

 顔を軽く叩き完全に目を覚ましてから寝床を片づけて焚火後に行くと、アル以外のメンバーが既に全員揃っていた。

 アルが挨拶をしようとすると、クレアが駆け寄ってきて深々と頭を下げながら挨拶をしてきた。


「おはようございます!」

「おはよう。元気だな」

「はい! 外で寝るなんて初めてだったので興奮してしまいました」

「はは、そうか。でもこれから沢山する事になるから、早く慣れた方がいいぞ」

「そうですね、いつまでも呑気ではいられませんもんね」

「そういうこと」


 野営でテンションを上げるクレアに昔の自分を重ね、少し懐かしさを感じながらナーマとジブリールにも挨拶を済ませる。

 挨拶が終わると早速目的地までの旅路が始まった。

 アルはナーマの横を歩き、昨夜話した魔力纏まりょくてんの訓練について質問をする。


「昨日話してた魔力纏の訓練ってどうやるんだ?」

「魔力維持とあまり変わらないですわ。魔力維持は手のひらの魔力をずっと維持しつづけますでしょ? それの全身版ですわ」

「全身版? 身体から魔術を出すのか?」

「魔術ではなく魔力ですわ。体内にある魔力を身体全体から放出してまとうんですの」

「ということは全身に意識を集中させなきゃならないって事か」

「慣れれば無意識に出来る様になりますわ」

「慣れればねぇ……」


 ナーマは簡単な様に言うが、手のひらに集めた魔力を維持するだけでも相当苦労した。それが全身となればとてつもない集中力が要求されるだろうと考える。

 試しに意識を体内の魔力へ向けて纏うイメージをしてみたが、まったく出来なかった。


「なぁ、コツとかないか?」

「まずは全身から魔力を出せなければなりません。イメージとしては身体中の毛穴から魔力を出すイメージが近いですわね」

「毛穴から……、なんか汚いイメージだな」

「それはアル様の責任でしてよ」


 ナーマからコツを教わり、毛穴から魔力を出すイメージで集中する。体内の魔力に深く働きかけるのでどうしても意識がそちらに向いてしまう。


「あぶない!」


 ジブリールの呼びかけも空しく、魔力に集中していたアルが落ちていた木の枝を踏んでしまい盛大に転んでしまった。

 転んでからアルの意識が周囲に向き、自分が転んだことに気づいた。


「悪いジル。しかし魔力に集中すると他の事が疎かになっちゃうな」


 今回は転んだだけで済んだが、これが崖や盗賊等に襲われていたら大惨事だ。

 ジブリールもそう考えたのか、アルに提案する。


「魔力纏の訓練は夜だけにした方が良いと思います。このまま訓練を続けながら歩くのは危険です」


 一刻も早く強くなりたいアルからすれば、少しの時間も無駄に出来ないと考えているが、ジブリールの言う通り訓練をしながらでは危険もともなう。魔力纏の訓練は夜だけという提案は妥当だろう。


「わかった、魔力纏の訓練は夜だけにするよ。ただ、昼の時間がもったいないから、昼間は今まで通り魔力維持の訓練はしていいだろう?」

「はい、それだったら問題ありません」

「よし、それで行こう! 時間取らせて悪かった。今日中に次の村へ行くぞ」

「はい!」


 気持ちと訓練を切り替えて再び歩き出す。途中途中で出てくる野生動物は先頭を歩いているジブリールが追い払ってくれるので、想定よりも早く進むことが出来た。

 先頭のジブリールが道案内と野生動物の対処、その後ろでアルが魔力維持の訓練、その後ろではクレアも魔力維持の訓練をしている。まだまだ維持が難しいのだろう、時折魔術が空に向かって放たれている。殿しんがりを務めるのがナーマで、パーティー全体に異常がないか見てくれている。たまにクレアに質問されそれに答えるといった事もしていた。

 そうこうしている間に日が傾き、目的の村が見えてきた。


「アル、村が見えてきました」

「お、ホントだ。でもあの村の大きさじゃ宿屋は無さそうだな」

「それは最悪野営で済ませましょう。それより食料等を調達したいです」


 そんな話をしながら村へ近づくと、何やら怒鳴り声が聞こえてきた。


「俺たちゃ冒険者だぞ! 宿も無いなんて聞いてないぞ!」

「そんな事知るか! この村だって自分達が食っていくだけで精一杯なんだ!」

「ったく、魔物を退治しにやってきてやったのにこんな扱いを受けるなんてな」

「それは済まないと思うが、俺達にも暮らしがあるんだ!」

「そうかよ。俺たちゃ村の端で野営すっから。あばよ」


 という捨て台詞を吐いて冒険者らしき男が村の奥に消えていった。

 どうやら冒険者と村人が言い合っているらしい。しかも冒険者は魔物退治に来たという。

 詳しい話を聞くべくアル達は言い争っていた村人の元へ向かった。

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