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第32話 魔力維持

 ジブリールの提案で聖魔力の特訓をする事になった。アルとしては未だに自分の中に聖魔力が宿っている事に半信半疑だったが、ジブリールのやる気を削ぐ訳にもいかないので渋々了承する。

 すると、特訓の話を聞いたクレアが割って入ってきた。


「その特訓、ワタシも混ぜてくれませんか?」


 その言葉にジブリールが反応する。


「貴女がですか?」

「はい。普通の魔術は使えますが癒しの魔術も覚えたいんです。それに……何故だかそれが自分の使命なんじゃないかとも思うんです」

「う~ん、そうですね。貴女はミカエル直々に命を助けた人物ですから、もしかしたら何かあるのかもしれません。いいでしょう! クレアも特訓に参加してください」

「っ!? ありがとうございます!」


 クレアが突然特訓に参加したいと言い出した時はどういう考えなのか想像も出来なかったが、ジブリールの言う通りミカエルが力添えする程の人間なら何か隠された力があるかもしれないというのは納得のいく話だった。

 こうしてアルとクレアはジブリールの特訓を受ける事になったのだが、まだ特訓の内容を知らされていない。ナーマの時はひたすら魔術を維持するという単純だが高難度な物だったが、今回の特訓ではどういった事をやらされるのか気になっていた。


「ジル。特訓って具体的には何をするんだ?」

「まずは精神統一をして身体の中にある聖魔力を感じ取るところからでしょうか」

「精神統一か。それって歩きながら出来るものなのか?」

「あっ……」


 精神統一はアルのイメージでは座禅を組んで煩悩などを振り払い、自分自身と見つめ合うというものだった。ただ、今は村に向けて歩いている最中なのでそれは難しいのでは? と思いジブリールに質問したのだが、どうやらジブリール自身も今は旅の途中でゆっくりしている暇はないという事に気づいたようだ。


「その様子だと無理っぽいな」

「そそ、そんな事ありませんよ! 精神統一は野営の時、寝る前にすればいいのです! それまでは今の魔力を高める訓練をしましょう!」

「どうやって?」

「魔力の循環を良くするんです! 循環が良くなれば、より高度な魔術も扱えるようになります!」

「なるほど。威力の高い魔術が使える様になるのはありがたいな」

「そうでしょう!」

「で? どういう訓練をすればいいんだ?」

「そ、それは……」


 訓練方法を聞くとジブリールがもごもごと口ごもる。そんなに厳しい訓練なのかと考えていると、話を聞いていたナーマが口を挟んできた。


「魔術を行使してそれを維持し続けるというものですわ」

「え? それって前にナーマに教わったやり方だよな?」

「そうですわね。ですが、魔力の循環を良くする方法としてはこのやり方が一番効果的なんですのよ」

「そうなのか」


 ナーマが説明すると、ジブリールは「うぅ、折角アルの役に立てると思ったのに」と小さく呟いた。アルが訓練方法を聞いた時に口ごもったのは、やり方がナーマと一緒だったから言いにくかったのだろう。

 だが、ジブリールの役に立ちたいという想いは素直に有難いと思ったアルが助け舟を出す。


「移動中は魔術維持をやって、夜は精神統一すればいいじゃないか。上手くすれば聖魔力も向上するかもしれないだろ?」

「うぅ、そうですかね?」

「ジルがそんな弱気でどうするんだよ。俺とクレアの先生なんだからもっと胸を張れって」

「は、はい! がんばります!」

「うん、それでこそジルだ!」


 なんとかジブリールの機嫌が直りホッとしていると、ナーマが小さく「面倒臭い性格ですわね」とアルにだけ聞こえる様に言った。それを聞いたアルは特別ナーマに対して何も言わず、ポンッとナーマの背中を叩いた。ナーマはそれで万足したのか、それ以上何も言わなくなった。

 元気を取り戻したジブリールが早速特訓しましょうと提案してきた。


「それじゃあ今夜の野営地までは魔術維持をするでいいんだよな?」

「はい。野営の時に改めて精神統一について説明しますが、それまで魔術を維持してください」

「わかった」


 アルは言われた通り手のひらに水球を作り出し、それを維持する事に集中する。

 しかし、この訓練が初めてのクレアは戸惑っていた。魔術を行使してそれを維持するなんていう発想が今まで無かったからだ。

 アルの見よう見まねでやってみるが、アルの様に上手く維持できなく直ぐに魔術が霧散してしまう。自分には才能が無いのかと思っていると、ジブリールから声を掛けられた。


「最初は誰でもそのようなものですよ。アルも今でこそ長い時間維持出来る様になりましたが、最初の内はクレアと変わりませんでした。いえ、クレア以下だったと思います。ですがアルは強くなりたいという想いで必死に訓練しました。クレアもめげずに訓練すれば少しずつですが成長していきますよ」

「アルさんがワタシ以下だったなんて信じられないです」

「本当ですよ。クレアも聞いたでしょう? アルの中には大魔王の魔力デザイアがあると。その所為せいでアルは魔力操作が上手く出来なかったんですよ」

「それなのに今はあそこまでの魔力維持を!」

「はい。なのでクレアも頑張ってください」

「はい! アルさんに負けない様に頑張ります!」


 アルには大魔王の魔力デザイアというハンデがありながら、それに屈することなく努力している事を聞かされたクレアにはもう才能がどうとか言う言い訳は無くなっていた。それよりも大きなハンデにも負けないで努力するアルへの尊敬の想いでいっぱいだった。

 その日の夕暮れ、野営場所に着いた頃にはクレアも魔術維持を少しだけ出来る様になっていた。

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