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第31話 初めての旅

 新しく仲間に加わったクレアと共にニブルヘイムを出発し、いつもの様にジブリールが地図を見て道案内をする。ナーマはいつも通りジブリールにちょっかいをかけながら歩いている。そんな二人のやり取りを眺めながらアルが歩いていると、テンションの高いクレアに話しかけられた。


「凄い凄い! 草木がいっぱい生えてますよ!」

「そうだな。ってかテンション高いな」

「はっ!? す、すみません。王都から出るのは初めてなので興奮してしまいました」

「そうだったのか。ならしょうがないな。分からない事があったら何でも聞いてくれ」

「はい!」


 元気に返事を返したクレアはトコトコと走り出し、街道の脇に生えていた花をじっくり観察しだした。それを終えると、次はそこそこ大きな木を見上げて「すごく、大きいです……」と呟いていた。

 そんなクレアの姿を見ていると、アルも初めて旅に出た日の事を思い出す。目にする物全てが新鮮に映っていた。きっとクレアもあの時のアルと同じなのだろう。

 草木に夢中になっているクレアを横目にアルはジブリールに話しかける。


「神聖ダルク法王国まではどの位かかりそうだ?」

「そうですね、途中でアルト山脈を越えなければならないので結構な日数が掛かると思います。アルト山脈までは、途中にある村をいくつか経由しますが、最初の村までは2日といったところでしょうか」

「2日か。クレアには野営に慣れて貰わないとな」

「そうですね。その辺は私がしっかり教育します」


 ジブリールと話していると、トコトコとクレアが走り寄ってきた。


「何を話しているんですか?」

「神聖ダルク法王国までの道順を確認してたんだ。途中野営しなくちゃならないから覚悟しておけよ」

「野営! ワクワクします!」

「ワクワクできるのも今の内だぞ。色々準備しなきゃならないし、見張りとかもあるからな」

「そうなんですね!」


 野営は盗賊や魔物にも気を付けなければならないが、それを言ってもクレアのワクワクが増すだけだった。

 そして、話している最中に思い出したのが魔術だった。ニブルヘイムは魔術が使える王国として有名だった。その証拠に魔術師団なんていう物まであり、そこの団員は皆魔術を使っていた。ならば王族であるクレアはどうなのだろうか?


「クレアは魔術を使えるのか?」

「はい、使えますよ。皆さん程ではないですが」

「ちょっと見せて貰っていいか?」

「わかりました。ではあそこの岩目掛けて打ちますね」


 そう言ってクレアが一歩前へ出ると魔力を練り始め、魔力が高まったところで魔術を行使する。


「『水 球ウォーターボール』」

「『火 球ファイアボール』」


 放たれた魔術は岩を目掛けて真っ直ぐ飛び出し着弾する。煙が晴れるとそこにあった岩は粉々に砕け散っていた。


「どうですか?」

「凄いな。しかも違う属性の魔術を連発できるなんて」

「褒めて頂きありがとうございます」

「魔術師団の奴等でも一発ずつだったのに本当に凄いよ」

「あっ、魔術師団の事なのですが……」


 クレアが言いにくそうに口をもごもごしている。もしかして魔術師団の事は秘密だったのか? と考えていると、クレアが口を開き説明してくれた。


「本来、ニブルヘイムには魔術師団という物は存在していませんでした。全てあの悪魔が作ったのです」

「そうだったのか。それでもあれだけ魔術を使える人材が居るってだけで他の国からしたら脅威だろう」

「その人材もです。ニブルヘイムの国民は別に魔術を使える訳ではありません。私達王族のみが代々魔力を持って生まれるのです。これは先日兄から聞かされたのですが、あの悪魔は一般兵に魔力を注ぎ込み魔術師に変えていたようなのです」

「魔力を注ぎ込む!」

「はい。それだけでは魔術を扱えるようにはならないのですが、悪魔は何らかの方法で魔術師を作ったんだと思います」

「魔力操作なんて簡単に覚えられるような物じゃないもんな。改めてあの悪魔はなんだったのかが気になるよ」

「そうですね……」


 一般人を無理矢理魔術師に変えてしまう方法があるという情報はありがたい。だが、今回の様な悪魔が各国に現れ、魔術を使える様にしていってしまえば大きな戦争の火種になってしまう。できればあの様な悪魔が他に居ない事を祈るアルだった。

 クレアと話していると、ジブリールが嬉しそうな顔でにじり寄ってきた。


「どうしたんだよそんな嬉しそうな顔して」

「ふふふ、アルに聖魔術の訓練をして貰います!」

「今は聖魔力を感じないぞ?」

「それは聖魔力がアルの中で小さくなっているからです。鍛えれば感じられるようになれます」

「そうなのか? というかそれで何でジルはそんなに嬉しそうなんだよ」

「前回はナーマに良い所を持ってかれましたからね。今回は私の番なのです!」

「なんだよ、ただナーマに対抗意識持ってるだけじゃないか」

「そんな事はありません! アルが強くなるのが一番だと思っています!」


 そういって胸を張るジブリールだが、まだ顔がニヤけている。

 本当に自分の中に聖魔力があるのか疑問だったが、こんなに嬉しそうなジブリールを無下にも出来ないので、しばらくジブリールの言う特訓に付き合う事にした。


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