煌びやかなドレスを着て丁寧に挨拶した人物がダルク教会のシスターであるクレアと似ていた。いや、似ているというより同一人物といっても過言ではないだろう。背格好や声色までが消えたクレアと同じなのだから。
アル達が困惑していると、アルフがクレアに似た人物へ話しかけた。
「わざわざ出迎えありがとう」
「とんでもありませんわ、王国を救ってくれた方達なんですから」
「それもそうか。それより地下室はちゃんとアル達は見つけてくれたよ」
「そうですか。やっぱりアル様は特別なんですね」
アルフとクレア? はアル達をほったらかしにして盛り上がる。
そしてアルはついつい突っ込んでしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! そこの女性はクレアで間違いないか?」
アルの質問にアルフと女性が顔を合わせた後、アルフが質問に答えた。
「彼女はクレアで間違いないよ。そして私の妹で第一王女だ」
「お、王女!?」
王城で待ち構えていた事からうっすらとその可能性を考えていたが、実際に聞かされると驚かざるを得ない。
「改めて自己紹介をします。ニブル王国第一王女クラウディア・ヴィクトール・ニブルヘイムと申します」
「クレアって名前は偽名だったのか?」
「偽名というよりも愛称ですね」
「ダルク教のシスターというのは?」
「その事についてはお父様を交えて説明致しますので、謁見の間までご一緒願います」
「ああ、わかった」
クレア……クラウディアを先頭に王城の中へ入り、ニブル王が待っているという謁見の間へ向かう。道中、騎士何名かとすれ違ったが皆クラウディアに敬礼をしているのを見て、クレアは本当に王女だったと実感させられた。
そして謁見の間へ着くと、ニブル王が自ら立ち上がりアル達を歓迎した。アルフとクラウディアはその両隣へと移動し、ニブル王と共にアル達を迎え入れた。
「よくぞ来てくれた。昨日の今日で呼び立ててすまない」
「いえ、問題ありません」
「それと、クラウディアのことで驚かせてしまってすまなかった。教会に出入りしている事は知っていたが、まさか既に知り合っていたとは思わなんだ」
「それについては私も驚きました。まさか教会のシスターが王女様だったとは」
そう言いながらアルが視線をクラウディアに移すと、彼女はいたずらが成功した子供の様に笑っていた。
「今日はそのクラウディアの事で呼び出したのだ」
「と言いますと?」
「我が娘クラウディアも君達の旅に同行させて貰えないだろうか?」
「クラウディア姫を!?」
急な呼び出しだったので何か問題でもあったのかと身構えていたが、まさかこんな形で裏切られるとは思っていなかった。
王女であるクラウディアをアル達の旅に同行させたいと言ってきた。ニブル王が何を考えて提案したかは分からないが、おいそれと了承する訳にはいかない。
アルの旅の目的は母国であるグレイス王国復建であり、
「お言葉ですがニブル王。私の旅は命の危険もあります。とても了承できる内容ではありません」
「それは分かっておる。ふむ、詳しい話はクラウディアから話してもらおう」
そう言われ、クラウディアが一歩前に出るとアルと
「もうお気づきかも知れませんが、昨夜私の姿が
「ああ。だからこそ何か手がかりがないか教会へ行ったんだ」
「教会へ行ったのは流石ですね」
「というと?」
「私が姿を消した──消されたのはこのロザリアの影響なのです」
クラウディアが胸元から金色に輝くロザリオを取り出して見せた。
「昨夜、王城に侵入した直後、このロザリオがまばゆいばかりの光を発しました。すると、私の存在を周囲が認識できなくなったのです」
「ちょっと待ってくれ! それだけの輝きだったなら俺達も気づくはずだ!」
「おそらく光そのものが認識阻害していたのかもしれません」
確かに光そのものを認識できなければ光っていた事を知らなくても無理はない。
「すみません、続きをどうぞ」
「光に包まれた私が混乱していると、頭の中に声が響いたのです。『このままアルファード達の様子を見届ける様に』と」
「その声というのに心当たりは?」
「声の主はミカエルと名乗りました。そこに
ミカエルの名前が出たことでジブリールがバッとクラウディアを見つめる。クラウディアはその視線に気づくと、ニコッと軽く微笑んだ。
「そして私は昨夜の死闘を見届けました。アル様達が王城を後にした後、私を包んでいた光が消え、事の一部始終を父と兄に話して聞かせました」
「そういう事だったのですね。それと俺の旅に同行したいというのがどう結びつくんですか?」
クレアの姿が消えた謎は解消されたが、それだけで度に同行するなんて言い出す訳がない。だとすると、考えられる可能性が一つだけあった。
「今朝、夢の中にミカエル様が現れました。そしてこう言ったのです。『アルファードの旅に同行しなさい。そしてゆくゆくは彼と子をつくりなさい』と」
「やはりミカエルが絡んでいましたか……って! 子を作る!?」
「はい。私達の子供が世界平和の礎になると
顔を赤くしてもじもじするクラウディア王女。アルとの子作りと聞いて動揺を隠せないでいるジブリール。ナーマは普段と変わらず冷静だが、口元がニヤけている。頼みの綱とばかりにニブル王を見ると真剣な顔で頷いている。ならば兄であるアルフならばとアルフの方へ視線を送ると、何故かウィンクで返された。
アルは何処かに逃げ道はないかと必死に思考を巡らせるのだった。