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第27話 クレアの行方

 消えたクレアの痕跡を探る為に『貧民区』にあるダルク教会に向かう道中、昨日まで我が物顔で歩いていた魔術師団を一人も見かけなかった。おそらくニブル王が迅速に動いたのだろう。

 魔術師団が突然街から居なくなった事に驚いている住民は見られたが、まだニブル王に何があったのかまでは住民まで伝わっていないようだった。

 そして、昨日は『貧民区』の入り口に立っていた衛兵も姿を消していた。これもニブル王の仕業だろうと考え、そのまま『貧民区』へ入り、ダルク教会に辿り着いた。


「外観は昨日のままだな」

「そうですね。中を捜索しましょう」


 壊れかけの扉の隙間から中を覗き、誰も居ないことを確認してから扉を開けて中に入る。教会の中は昨日の戦闘の跡でボロボロになってしまっていたが、それでも何か手がかりはないかと内部を探索する。

 すると、ジブリールが何かを見つけたのかアルを呼び寄せる。


「何か見つかったのか? ん? この部屋はクレアの部屋だったな」

「はい。ここを見てください。床に何かを引きずった跡があります。おそらくは横にある本棚を動かした跡だと思います」

「隠し部屋か。とりあえず入ってみよう」


 ベッドの横にある本棚を横にズラすと、地下への階段があらわれた。どうして教会にこんな物が? という疑問はあったが、今は目の前の現実だけを知ろうと階段を下りる。

 階段を下りた先にはまた扉が待ち構えていた。扉に耳を当て、中の気配を探るが人は居ないようだ。

 ジブリールとアイコンタクトを取り、勢いよく扉を開けると、そこには等身大であろう天使像が祭られていた。


「これは……」

「ミカエルを模した像ですね」

「そんな物がどうしてこんなところに?」

「おそらくですが、宗教弾圧から逃れる為だと」

「なるほど、そういう事か」


 ミカエルを模した彫像からは聖魔力を感じる。昨日仮面の集団が襲ってきた目的はこの像の破壊だったのかもしれない。

 そう考えを纏めていると、コツコツと階段を下りる足音が響いた。アルとジブリールは咄嗟に物陰に隠れ、この場所へやってきた人物を確かめた。

 その人物はミカエル像の前まで来るとひざまずいて祈りをささげている。その熱心な祈り姿に向かってアルが声を掛ける。


「随分熱心だな。こんな所に居ていいのか? アルフ」

「奇遇だねアル」


 謎の人物の正体はニブル王国の皇太子であるアルフ・ヴィクトール・ニブルヘイムだった。アルフとは昨夜一緒にニブル王奪還作戦を決行した仲でもあるが、ニブル王が正気に戻った今、こんな所で油を売っている暇はないはずなのだ。だが、目の前の人物は間違いなくアルフ本人であり、何かを企んでいる様子もない。

 アルがあれこれと思考を巡らせていると、アルフが先に口を開いた。


「アル達ならきっとこの場所に来ると思っていたよ」

「そうか。それで、お前はここで何をしてるんだ?」

「可笑しなことを言うね。お祈りに決まっているじゃないか」


 飄々ひょうひょうとした雰囲気と言葉で確信に迫れない。ならば、とアルは直球で質問をぶつけた。


「クレアは何処にいる?」


 アルの直球の質問に対してもアルフは眉ひとつ動かさないまま答える。


「彼女なら王城に居るよ。それを伝えに来たんだ」

「王城に? どういう事だ?」


 アルがアルフの発言の意味を考えていると、ジブリールが突然剣を抜き放ち、アルに警戒するように呼び掛ける。


「アル、気を付けてください。悪魔の気配がします」

「なんだと!」


 部屋の中をぐるりと見まわしてもそれらしき影はなかったが、ジブリールがアルの足元の影を指さして叫ぶ。


「足元の影です!」

「くっ!?」


 ジブリールの指摘と同時にアルが後ろへ飛びのくと、アルの影だけがその場に残った。


「なんだアレは!」

「あの影から気配がします!」

「アルフは俺達の後ろに隠れていてくれ!」


 長年のコンビネーションですかさず陣形を取ると、影が膨らんで人の形を形成していく。そして、形成が終わり現れたのは以前アルを襲ったリリスという低級悪魔だった。

 臨戦態勢を崩さないまま様子を伺っていると、リリスはなんとアルに跪いたのだ。

 その光景にアルとジブリールが面食らっていると、リリスが言葉を発した。


「アル様、ナーマ様より言伝ことづてです。王城より使者が参り、今すぐ王城に来て欲しいとのことです」

「わかった。ナーマには王城の前で合流しようと伝えてくれ」

「かしこまりました。では失礼いたします」


 そう言ってリリスは再び影の中へ消えていった。そして、リリスが居なくなったからなのか、リリスが潜んでいた影は通常通りアルの足元へ戻った。

 アルはジブリールとアルフへ向き直り、今後の予定を告げる。


「聞いた通り今から王城へ向かう。アルフはどうする?」

「私も一緒に行くよ。クレアの件もあるからね」

「そうだったな。王城に着いたらちゃんと説明してくれるんだよな?」

「ああ、勿論だとも」

「よし。それじゃあ王城に向かおう」


 来た時とは違い、アルフを連れて地下室から出て王城へと向かう。教会の外へ出るとアルフの付き人等が居るかと思ったが誰も居なかった。一国の皇太子が教会とはいえ『貧民区』へ行くのに一人で行かせるのはどうなのだろう? と考えたが、以前から教会に通っていたと言っていたので王城の人も慣れっこなのだろう。と強引に結論付けた。

 王城前の門の近くまで行くと、門の前でナーマが待っていた。


「遅いですわ」

「これでも急いだんだけどな。というかリリスを送るなら先に行っておいてくれ。敵だと思って無駄な警戒をしたじゃないか」

「それは申し訳ありませんでしたわ。因みに、今もアル様の影の中に潜んでいますのでご了承ください。アル様の身の安全が第一なので」

「ああ、わかったよ」


 ナーマとのやり取りを済ませ、門番に名前を告げると、大きな門が明けられた。

 門が開くときらびやかなドレスに身を包んだ人物が立っていた。


「この度は急な呼び出し申し訳ありませんでした」


 そう深々と頭を下げた女性の顔を見てアルフ以外の全員が驚いた。

 アル達を出迎えた女性はクレアだったのだ。

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