ジブリールとナーマがあれこれ言っている横で、アルは布団に
確かに昨日、
なので、本当に自分に聖魔力がるのかどうか確かめる為に手のひらの上に魔力を練ってみた。しかし、練られる魔力は
アルは布団から飛び起きて、練った魔力を二人に見せつけた。
「見ろ! 今魔力を練ってみたけど聖魔力なんて出現しなかったぞ!」
どうだ! と見せつけるアルに対して、二人の反応は薄かった。そしてジブリールがポツリと言う。
「それはそうでしょう。今練っている魔力は
「だ・か・ら! 魔力を練っても闇魔力しか練れないんだって!」
「アル、闇魔力と聖魔力の練り方や運用はそれぞれ違うんです。アルが聖魔力を練れる訳ないでしょう」
「はあぁ?」
ジブリールの言っている事が正しいのであれば、さっきまでアルのことを大天使ルシフェルだ! と騒いでいたのは何だったのかという事になる。
「だからこそ昨日アルが
「でも、さっき俺が大天使ルシフェルに似てるとか言ってたじゃないか」
「ええ。昨日の魔力はルシフェルに似ていました。そして先程も言った様に大魔王サタンと大天使ルシフェルは同一人物でした。なのでアルが命の危機に聖魔力を発揮したことにも納得がいくという話です」
「じゃあ結局俺は聖魔力は使えないのか?」
散々大魔王サタンだ! 大天使ルシフェルだ! と騒がれたが、聖魔力を扱えないのであればアルとしては少し残念という気持ちがあった。
だが、聖魔力を扱えないというのであれば、アルが大魔王サタン自身という最悪な状況からは脱せられると少し安堵していたが、そこにジブリールが水を差す。
「扱えないのなら扱えるようにするだけです。ほら、ナーマから魔力操作を教えて貰ったでしょう? それの聖魔力バージョンを私が教えます」
「え? じゃあ俺は聖魔力を扱えるのか?」
「はい。なので頑張って訓練しましょう!」
なんということだ。これではナーマとジブリールが言っていた大魔王サタンそのものに近づいてしまうではないか! と落胆するアルにナーマが優しく声を掛ける。
「安心してくださいまし。サタン様はサタン様。アル様はアル様ですわ」
「そ、そうだよな。ありがとうナーマ」
ナーマの言う通り、アルはアルの道を進めば良いだけなのだ。その過程で
そう考えを一新してこれからどうするか二人に質問する。
「私はしばらく宿で休みますわ」
「王城からの使者がいつ来るか分からない以上宿から動けませんね」
「それでしたら使者が来た時は私の使い魔を影移動でアル様の元へ送りますから、アル様は自由に行動していても大丈夫ですわ」
「ならば私はアルと一緒に行動しようと思います」
ナーマだけ宿に残すのは忍びないと思ったが、昨日の戦闘の疲れもあるのだろうと察し、ナーマの提案に甘える事にした。
「それじゃあ俺達は街の様子でも見てくるか。ニブル王を奪還はしたが住民達の反応が気になるからな」
「そうですね。それと『貧民区』にあるダルク教会に顔を出しませんか? クレアがどうしているか気になりま……っ!?」
ジブリールが言葉の途中である事に気づいた。クレアは昨夜自分たちと一緒に王城へ潜入した。そこで知り合ったアルフと一緒に謁見の間へ行き、ニブル王を奪還する事が出来た。
だが、そこにクレアの姿は無かった。まさか敵に連れ去られたのでは? という考えが脳裏を
「どうしたんだジル。急に怖い顔をして」
「アル! 昨夜牢屋から出る時にクレアは一緒でしたか?」
「それは……いや、ちょっと待て! そもそもクレアは一緒に牢屋に居なかったよな? 王城へ侵入するまでは一緒だった記憶だが、いつの間にか居なくなっていた!」
「た、確かに! 言われてみれば!」
王城への侵入はナーマの先導で行った。牢屋までもそうだ。だが、牢屋にはクレアの姿が無かった。ここまで考えてアルの中で一つの疑惑が浮かんだ。
「なぁ、ナーマ。クレアって悪魔だったりしないか?」
そう。クレアが悪魔なら姿を消した理由にも納得がいく。そして同族であるナーマがひっそりと逃がしたに違いない。そう考えてナーマに質問をぶつけたのだが、ナーマの返答はアルの予想を裏切るものだった。
「何を
「なら、俺達を牢屋に入れる時に何でクレアが居ない事に気付かなかったんだ?」
「それは
「クレアがどうしてそんな事を……」
「さぁ? 人間の考える事に興味はありませんわ」
そう言ってナーマは「私はもうひと眠り致しますわ」と言って自分の部屋へ戻って行った。
残されたジブリールと目を合わせてこの後の予定を大きく変更する事にした。
「とりあえずダルク教会に行ってみよう。何か手がかりがあるかもしれない」
「そうですね。ミカエルの祝福を受けている人間ですし、どうしてこのような事をしたのかも気になります」
突如として消えたクレアの手掛かりを求めて、アルとジブリールはダルク教会を目指して宿屋を飛び出した。