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第25話 闇と聖

 朝日が昇ると同時にジブリールが目を覚ます。素早く身支度を済ませ、アルを起こすべくアルの部屋へ向かう。この一連の行動はグレイス王国を出て旅に出てから毎日行っているルーティーンの様なものだ。今日もアルを起こすべく部屋へ入ると、衝撃的な光景がジブリールの目に飛び込んできた。

 寝ているアルの上に馬乗りになり、今にもキスができそうな程顔を近づけていたナーマと目が合う。


「あら、見られてしまいましたね」

「な、な、朝から何をしているんですか!」

「何ってナニよ。見てわからない?」

「そういうことを言ってるんじゃありません!」


 前にもアルを襲った前科があったが、その時は深夜だった。それから深夜には注意を払っていたのだが、まさか寝起きを襲うとは裏をかかれた形になってしまった。しかし、未然に発見できたことは不幸中の幸いだった。まだアルが襲われていない事に安堵していると、二人の言い合いの声でアルが目を覚ました。


「おわっ!? 何してんだナーマ!」

「ナニって、昨日約束したじゃありませんか」

「こんな事約束してないぞ!」

「吸魔をさせてくれると言ったじゃありませんか」

「吸魔! 確かにそれは約束したけど……」

「ですよね。なら早速……」

「いやいや、なんで上に乗ってるんだよ! 降りてくれ!」

「あら、反応しちゃいましたか?」

「いいから降りろ!」


 ナーマの揶揄からかいに顔を真っ赤にして拒絶するアル。ナーマは「仕方がないですねぇ」といってベッドの横に移動する。

 その間にジブリールも部屋に入りアルが寝ているベッド脇まで移動し、ナーマの腕をガッチリとホールドする。


「ちょっと、腕を離してくださる?」

「では何もしないと約束しますか?」

「貴女は話を聞いていませんでしたの? 吸魔は昨日アル様とちゃんと約束した事なんですのよ?」


 そう言い切るナーマから視線をアルに移して本当か確かめる。


「本当に約束したんですか!」

「あ、ああ。ブラックホールを使う代わりに吸魔をさせてくれってたのまれて」

「なんてことを!」

「今回はナーマのお陰でニブル王奪還がスムーズに行ったし、魔力不足になったからって」

「た、たしかに今回の働きは助かりましたが……だったら私も吸魔させてください!」

「え!?」

「私だってアルフを守ったりで魔力をつかったので! いいですよね? それともナーマとしっぽりとシたいんですか!」

「なんだよしっぽりって! わかったよ! ジルにも吸魔お願いするよ!」

「それでいいんです! ナーマだけ特別扱いはさせませんから!」

「べつに特別扱いしてるわけじゃ……」

「なんですか?」

「いえ、なんでもありません」


 なかば無理矢理にジブリールも吸魔の約束を取り次いだが、これは仕方のない事だと自分に言い聞かせる。アルフを守る為に魔術を使ったのは本当の事で、実際ジブリールの魔力も減っている。それを差し引いてもナーマと二人きりの吸魔は避けたかった。ナーマはジブリールから見てもアルを主人としてだけではなく、一人の男として好意があることが分かるからだ。そうなると、今自分が抱いている感情がそれを許す訳にはいかなかったのだ。

 しかし、長年の主従関係によってあからさまな態度に出ると不自然に思われる可能性がある為、少し強引ではあるがナーマに乗っかる形で吸魔をする形を選んだのだった。


「ムッツリさんは放っておいてキスしましょうアル様」

「吸魔! 吸魔だから! 変な言い方するな!」

「いいではないですか。では……」

「ちょっ……ん……んあ」



 ナーマとジブリール、二人の吸魔が終わり、魔力を吸われ続けたアルがぐったりしている横でジブリールが怪訝な顔をしていた。


「やっぱりアル本来の魔力が聖魔力に変わっていますね」

「なるほど、それで貴女の吸魔が激しかったのね」

「は、激しくなんかありません! 普通です普通!」

「はいはい。で、その聖魔力がどうしたわけ?」

「今アルの中には大魔王の魔力デザイアの闇魔力と謎の聖魔力、両方存在してるんですよ」


 昨日アルが聖なる障壁ホーリーバリアを展開してから、アルにもともと備わっていた魔力が聖魔力に変化していた。最初こそ魔力が外に溢れだしていたが、いつのまにか落ち着いていたので元に戻ったのかと思っていたが、今吸魔をして元に戻っていない事が分かった。だが、どうしてアルの魔力が聖魔力に変化したのかが分からないでいた。闇と聖、両方の魔力を持ち合わせる存在となると一人しか思い浮かばなかったが、そんな訳ないと考えを切り替える。


「なぁ、俺が聖魔力に目覚めたらマズイのか?」

「いえ、マズイと言いますか、ありえないのです」

「そうなのか?」

「アルには既に大魔王の魔力デザイアを有しているので」

「あ! 闇と聖は相いれないみたいな感じか?」

「それもありますが、アルの場合は根本的にあり得ないんです」

「どうして?」

「大魔王の魔力はサタンの物だからです」

「んん? つまりどういう事なんだ?」


 ジブリールの言っている事が理解できず首を捻るアルに、ナーマが付け足して説明する。


「アル様の聖魔力はとある人物の魔力と似ているんですの」

「とある人物?」

「大天使ルシフェルですわ」

「その大天使と似てる事は何であり得ないんだ?」

「大天使ルシフェル、またの名が大魔王サタンだからですわ」

「え? ちょっとまってくれ、理解が追い付かない」


 眉間にしわを寄せて言われた事を自分なりに咀嚼して考えるが、やはり理解が難しい。大天使と大魔王が同一人物と言われてもピンと来ない。考えすぎて知恵熱が出そうになる。

 しかし、ジブリールが手を叩き、納得した表情を見せた。


「やはりアルの聖魔力はサタンの物で間違いないと思います」

「やはりと言われても、大天使と大魔王が同一人物という事に納得してないんだが?」

「ああ、それは簡単です。サタンも闇と聖、両方の魔力を有していたんです。悪魔達からは大魔王サタンと呼ばれていて、天使からは大天使ルシフェルと呼ばれていたんです」

「え~っと、簡単に言えば今の俺と同じような存在だったって認識でいいのか?」

「そうですね、大まかにはその認識で合ってます」

「で? 結局俺の魔力の原因は?」

「アルは降魔の儀式によって大魔王サタンそのものを身体に宿しました。なのでサタンそのものならば聖魔力を扱えても不思議ではないということです」


 ジブリールがえっへんと胸を張って言い切る。ナーマに視線を向けると「やはりそうでしたか」と言って納得している。二人の言っている事を合わせて考えると、アルは大魔王サタンであり大天使ルシフェルという事になる。


「な、なぁ、俺って凄い存在になっちゃったんじゃないか?」

「大丈夫です! どんなアルでも私は従者として着いていきます!」

「やはりアル様は神界の王に相応しいですわ!」


 アルの不安を余所よそに盛り上がる二人。ナーマに至っては神界の王などと言い出し、まるで本当のあるじを見た時の様な敬意の籠った眼差しを向けている。

 そんな二人からの視線を避ける様にアルは再び布団に潜った。そしてこれからの自分の立場を考え、頭を抱えるのだった。


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