燃え盛る炎と煙に包まれ、アルの姿が確認できない。ナーマとジブリールが爆炎に向かってアルの名前を叫ぶが返事がない。二人が最悪の状況を思い浮かべる中、仮面の男だけが笑っていた。
「くははは! 俺様を舐めてるからこうなるんだ! ざんねんだったなぁナーマ! 仲間一人も守れないザコ上位悪魔さんよぉ!」
仮面の男は今までの
「なに! 何処に行きや──ぐはぁ!」
「アナタ、本気で
消えたと思ったナーマが次の瞬間には仮面の男の背後に回っていた。そしてさっきまでとは比べるのもバカらしい程の濃密な魔力を纏った拳が仮面の男の顔面を打ち抜き、男は謁見の間の端から端まで吹き飛んだ。
仮面の男を殴り飛ばしたナーマは、そのままの勢いで燃え盛る炎に向かい方向転換をすると、ある事に気づいた。
ナーマが気付いたのと同時にジブリールも何かに反応する。
「こ、この魔力は……」
「あら、貴女ではないようですわね」
「こんなに大きな魔力は
「だとすれば、もしかすると……」
ナーマとジブリールが魔力の発生源である燃え盛る炎を固唾をのんで見つめていると、だんだんと炎と煙が弱まり、魔力の正体が明らかになった。
「アル様!」
「あ、あれは!」
傷一つないアルの姿に驚く二人。特に驚いたのはジブリールだった。その原因はアルの前に展開されいた魔術にあった。
「まさかあれは
「驚く事じゃあないわ。アル様からあふれ出ている聖魔力が分からないの?」
「っ!? 確かに。しかし何でアルから聖魔力が?」
「そんなこと
「それもそうですね。とにかく今は仮面の悪魔を倒す方が先決ですね」
「そのことなのだけれど、仮面の悪魔は
「わかったわ!」
それぞれの役割分担を決め、ナーマは仮面の男の始末に向かい、ジブリールは未だ状況を理解できていないアルの元へ向かった。
アルは目の前に展開されている
「ど、どうして俺が聖魔力を
「安心してください! 私も理解できていません!」
「それのどこに安心する要素があるんだよ!」
ジブリールの斜め上の方向からの擁護に思わずツッコミを入れてしまう。しかし、ジブリールはそのツッコミを無視して話題を変える。
「それよりも今はニブル王救出が先です! 走れますか?」
「そうだったな。聖魔力に関しては後からじっくり考えるとしよう。俺ならバリアのお陰で無傷だからまだまだ大丈夫だ!」
「なら、ニブル王とアルフの元へ急ぎましょう!」
「ああ」
アルとジブリールがニブル王の元へ向かっている中、ナーマは瓦礫の中から這い出てきた仮面の男の前に立っていた。仮面の男は身体中傷だらけになっており、肩で呼吸をしながらナーマに向かって叫ぶ。
「貴様は一体なんなんだ! それにその赤い瞳は!?」
「
「で、大魔王の魔力だと!? ホントにお前は何者なんだ!」
「これから死ぬ者に教える意味はありませんわ」
「く、くそーー!?」
ナーマは魔力が込められたパンチを軽々と躱すと、態勢が崩れた所に魔術を打ち込む。
「冥途の土産に本物の闇を教えてあげますわ。
詠唱と同時に仮面の男が黒い炎に包まれる。その炎は夜の闇より深く、何もかもを吸い込みそうな程に暗かった。その炎は仮面の男の断末魔さえ焼き尽くし、音もなく仮面の男は燃え尽きた。
「アル様を危険にさらした報いですわ。……あら?」
ナーマの身体がよろけて倒れそうになったが、なんとか踏ん張り、倒れるのを回避した。
「やはり今の状態で
そう独り言ちて、ナーマはその場に座り込み、そのまま眠りについた。
アル達がニブル王とアルフの元へ合流すると、アルフが悲壮な表情を浮かべてアル達に事情を話した。
「私が使える回復魔術を試したが、父の正気が戻らないんだ」
そう聞いてニブル王の様子を診る。意識はあるようだが、何を言っても返答がない。目は虚ろで、口からは
「ジル、どうにかできないか?」
「これは契約魔術の影響だと思います。契約主である仮面の男が契約解除するか、死ぬかしない限り私の力でもどうしようもありません」
「という事はナーマが仮面の男を倒してくれればなんとかなるのか?」
「はい」
ナーマに加勢して一刻も早く仮面の男を倒す必要がありそうだと考え、その場を離れようとした瞬間、ニブル王の身体が淡い光に包まれた。
「この光は!」
「ナーマが仮面の男を倒したのでしょう。契約解除の光です」
「本当か! なら父は助かったのか?」
「いえ、まだ完全に洗脳が解けていません。なので私の浄化魔術で洗脳を解きます!」
そう言ってジブリールが魔力を練り始めた。その様子をアルフは祈る様に眺めている。やがて魔力を練り終わったジブリールがニブル王の頭に手を置き、浄化の魔術を行使する。
「邪悪なる意思よ退け!
青く淡い光がニブル王を包み込む。その光は春の日差しの様な温かさがあり、見ている者ですら心が休まるような、そんな光だった。そして、その光に包まれたニブル王から黒い影の様な物が浮き出て、夏の日差しに照らされた氷の様に溶けて消え去った。
すると、ニブル王の虚ろだった瞳に光が宿り、まるで
「
正気に戻ったニブル王にアルフが涙ながらに声を掛ける。
「お帰りなさいませ、父上!」
そう言ってニブル王を抱きしめた。
アルとジブリールは色々と聞きたい事はあったが、今は親子の再開を喜ぶことにした。