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第22話 謁見の間の戦闘

 玉座には目がうつろで生気を感じないニブル王が力無く座っていた。

 その横には牢屋に来ていた山羊の仮面を被った男が悠然と立っていた。仮面の男はナーマがアル達を拘束して連れてきた事に驚いた表情を見せた。


「どういう事だナーマ。ソイツ等の処遇はの指示待ちの筈だ」

「どうせ大魔王の魔力デザイアを抽出するのだから、今やってしまっても構わないでしょう?」

「お前とは協力関係を結んだが、勝手な事はするな」

「あら? わたくしに命令するのかしら?」

「そういう訳ではない。ただ、あの方の指示を待った方が良いと言っているのだ」

「そんなものはそちらの都合でしょう」

「なんだと!?」


 ナーマとにらみ合いになり、仮面の男が興奮状態なのは仮面越しでも伝わってくる。仮面の男にとってというのは絶対的な存在の様だ。

 ナーマと仮面の男のにらみ合っている横を、ニブル王の状態を見たアルフが駆け寄ろうとしていた。ナーマが偽装した拘束を破り、走り出す。


「父上!?」


 ニブル王に向かって叫びながら玉座に駆け寄ろうとしたアルフだったが、仮面の集団の一員に横から脇腹に蹴りを入れられ吹き飛んだ。ゴロゴロと床を転がり、苦悶の表情を浮かべるアルフを団員が見下ろしながら、山羊の仮面の男にアイコンタクトを送る。

 アルフが拘束を破った事で、アルとジブリールの拘束も消えてしまい、その事に気づいた団員達がすかさずアル達を囲む。それを確認した山羊の仮面の男がナーマを糾弾する。


「どういう事だナーマ!」

「まったく、若い子は我慢が出来ないのね」

「どういう事だと聞いている!」

「この状況でまだ理解できないおバカさんなのねぇ」

「貴様……!?」


 仮面の男が一足飛びでナーマに接敵し、魔力の籠った拳を繰り出す。ナーマもそれに合わせて拳を繰り出し、両者の拳が激突する。その衝撃の余波が謁見室全体に広がる程の威力だった。これだけでも今までの敵より遥かに強いと分かる。あまりの魔力の奔流に意識を失う者も居たが、アルとジブリールはそんなのお構いなしといった感じで取り囲んでいる団員に切り掛かった。


「アルフ、今の内だ! ニブル王を助けろ!」

「げほっ、すまない!」


 アルとジブリールが大立ち回りをしている隙にニブル王を助けるよう指示を出す。アルフは団員に蹴られた脇腹を抑えながらニブル王の元へと駆け出す。

 アルフの邪魔をしようとする団員を優先的に倒していく。すると、団員の後方から火炎魔術が飛んできた。


「我ら魔術師団も居ることを忘れないことだな!」

「ちっ! 魔術は厄介だな」


 魔術師団が放つ火炎魔術を交わしつつ仮面の団員を切り伏せるが、魔術師団の援護もあり、なかなかに苦戦を強いられる。

 そんな中、ナーマと仮面の男の戦いも激しさを増していた。お互いに魔術を打ち合い、魔術同士が衝突し爆炎を上げる。


「上位悪魔といってもこの程度か!」

「ふん! まだまだ本気は出していなくてよ!」


 ナーマの言葉と同時に影の拘束シャドウバインドを唱え、黒い弦の様な物が仮面の男を縛り上げる。


「あら? この程度も避けられないのかしら?」

「ぐぐっ、舐めるなぁー!?」


 仮面の男の魔力が膨れ上がり、影の拘束シャドウバインドを引きちぎる。それと同時に両手に魔力が集中し、両手を前に突き出して魔術を行使する。


闇の砲撃ダーク・ブラスト!!」


 黒い光線がナーマ目掛けて発射された。その魔術は見るだけで凄まじい破壊力と絶望を内包しているのが分かる。

 しかし、ナーマは表情一つ変えずにその光線を弾き飛ばす。その光景を見た仮面の男が驚愕する。


「今のを弾くだと! そんな馬鹿な!」

「何をそんなに驚いているんですの? あんな魔術が上位の存在に通じる訳ないでしょう」

「何が上位の存在だ! ただのマグレで図に乗るなぁ!」


 仮面の男が次々と闇の砲撃ダーク・ブラストを打ち出す。しかしその光線がナーマの身体を傷付ける事はなかった。

 ナーマと仮面の男の戦闘を横目で見ていたアルはホッしていた。ナーマの実力は本物の上位悪魔と言えるだろう。そんな存在が自分の味方である事に安堵する。悪魔なので何を考えているか分からないが、今は契約魔術で契約しているのでアルを裏切るような行動は出来ない。契約魔術を過信し過ぎるのも問題だが、今は頼れる仲間だと言えよう。


「あっちは大丈夫そうだな。こっちは魔術師団が問題だ」


 仮面の集団と魔術師団の連携が意外と出来ていて、アルはなかなか攻め込めずにいた。

 ジブリールはアルの背後を守っていたが、アルフがニブル王へ駆け寄ろうとするのを邪魔しようとしている団員を蹴散らす方にシフトした。仮面の集団程度の戦闘力なら、今のアルの敵ではないと判断したからだ。だが、予想していなかった魔術師団の登場でジブリールがアルの助けに入るか悩む。数舜悩んだ結果、アルフを無事ニブル王の元へ行けるように援護する事に決めた。

 魔術師団が使っている魔術はそこまで強力な物ではなかった為、アルなら一人でも大丈夫だろうという判断だった。


「アル! 私はアルフを守ります! アルは目の前の敵にだけ集中してください!」

「すまない!」


 ジブリールがアルフを守るなら、アルフの心配はしなくて良さそうだ。

 アルは目の前の敵に集中できるが、やはり魔術師団の魔術が厄介だった。


「くそ! 魔術を何とかしないと攻め込めない」

「アル様! 魔術の訓練を思い出してください! 今のアル様ならその程度の魔術かき消す事は容易いですわ!」


 ナーマは怒り狂った仮面の男の光線を避けながらアルに助言をする。その余裕ぶりが仮面の男の怒りを倍増させた。


「さっきからちょこまかと避けてばかりじゃないか! もしかして本当は避けるだけで精一杯なんじゃないか?」

「どう思おうとアナタの勝手ですわ!」

「どこまでもふざけやがって!」


 更に二人の戦闘が激化する一方で、アルはナーマの助言を聞いて魔力を手のひらに集中させていた。魔力を溜めている間も仮面の集団や魔術師団の攻撃は止まない。しかし、アルはその攻撃のことごとくを躱し、魔力を溜め続けた。

 そして、魔力が溜まり、特訓の時と同じように魔術を行使する。


水 の 砲 撃ウォーター・ブラスト!」


 突き出した両手から水の柱が噴き出す。その威力は特訓の時に使用した水よ猛れウォーターとは桁違いの水量と威力を誇っていた。

 ウォーター・ブラストは仮面の集団はおろか、魔術師団もろとも圧倒的な水流に飲まれ、そのまま壁に叩きつけられた。あまりの威力に仮面の悪魔もナーマを攻撃する手が止まり驚愕している。だが、一番驚いていたのは魔術を行使した本人だった。


「おお! 俺があんな魔術使えるなんて!」


 と言いながら自分の両手を眺めて感動している。

 だが、その油断を仮面の男は見逃さなかった。未だに両手を眺めているアルに向かって全身全霊の闇 の 砲 撃ダーク・ブラストを放った。

 その行動まで予測出来なかったナーマがアルの名前を叫ぶ。


「アル様! 避けてください!」

「え?」


 アルがナーマの声に振り返った時には既に光線が目の前まで迫ってきており、避けるタイミングが無かった。そして激しい爆音と爆炎をまき散らしてアルの姿が燃え盛る炎の中に消えてしまった。

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