朝日が昇り、辺りが朝焼けでオレンジ色の町中を縄で縛られたアルとジブリール、ついでといった感じでクレアがナーマに連れられて歩いていた。『貧民区』から出る時に衛兵から声を掛けられ身分証明を求められたが、ナーマが自分の名前と魔術師団というワードを告げると、衛兵の態度が急変し、ナーマに敬礼をして何の確認も無く『貧民区』から出る事が出来た。同じような感じで『居住区』を通って王城の正門まで難なく辿り着いた。ここまでは作戦通りだが、作戦の本番はここからだった。
このまま通り過ぎようとすると、正門に立っている衛兵に呼び止められた。
「待て! 王城に何用だ!」
「あら?
「っ!? アナタがナーマ殿でしたか! これは失礼致しました。どうぞ御通りください!」
「分かれば良いのよ」
「そ、その、その者達は?」
「例の
「い、いえ! 失礼致しました!」
作戦通り、衛兵はナーマに敬礼してそのまま見送った。王城に入るまで幾人かの衛兵とすれ違ったが、皆ナーマに対して敬礼をする。一体ナーマはどこまで深く潜入したのだろう? と疑問に思うアルだったが、その潜入のお陰で楽々王城に入れたので深く考えるのは止めた。
王城の中を進み、牢屋のある地下へやってきた。牢屋は合計で六つあり、そのうちの一つだけ使われていた。身なりは整っており、貴族の様な身嗜みをしていいる。それに、牢屋に閉じ込められているにも関わらず健康的に見える青年が幽閉されていた。おそらくこの青年がナーマの言っていた皇太子なのだろう。
アル達は皇太子が幽閉されている隣の牢屋へ入れられた。着いてきた魔術師団の団員に突き飛ばされ、アルが体勢を崩して床に倒れる。その姿を見ながらナーマが言葉を発する。
「しばらくここで大人しくしていなさい。変な事は考えない方が見の為よ」
と言いながら視線を皇太子の方へ向け、すぐにアルへ視線を戻す。これはナーマからの合図だと気づいたアルはワザと悪態をついた。
「そうやって威張っていられるのも今の内だ! こっちにはミカエルの友人だったジブリールが居るんだからな!」
「あら? そのジブリールもアナタと一緒に捕まっているじゃないですか」
「だからこそだ! ミカエルが黙っちゃいないぞ!」
「そんな脅しは通じませんよ。せいぜいミカエルに祈っておくことね」
そう言い捨ててナーマは団員を連れて地下から出ていった。ここまでは作戦通りに進んでいる。地下にはアルとジブリールの他には皇太子しか居ない。見張りも付いていないのはナーマが都合よく動いてくれたお陰だろう。ならば、このチャンスを逃すわけにはいかないと、アルが牢屋越しに皇太子へ呼びかけた。
「なぁ、アンタこの国の皇太子なんだろ?」
「っ!?」
見張りが居ないとはいえ、牢屋越しに話しかけられた事へびっくりした反応を見せた皇太子だったが、すぐに落ち着きを取り戻し、アルの呼びかけに応える。
「確かに私は皇太子だが、お前達は何者だ? さっき天使様達の名前を言っていたがダルク教の者なのか?」
「俺達の正体はまだ明かせないが、皇太子さんの味方だと思ってくれ。それと、俺はダルク教徒じゃないが、訳あって天使のジブリールと旅をしている」
「何!? 天使様が今も現存されているのか!」
「疑うんなら本人と話してみればいい」
そう言ってアルはジブリールにバトンを渡す。いきなり話せと言われたジブリールは何を話せばいいか分からないながらも皇太子に自己紹介をする。
「どうも、ジブリールといいます」
「本当に
「はい。といってもこの状況では言葉でしか伝えられませんが信じて頂くしかありません」
「先程ミカエル様の名前も出てきましたが、この件にダルク教は関わっているのですか?」
「いいえ、今回の件は私達の都合で動いていますが、ミカエルが宗教弾圧を受けてこの国から追い出された事は遺憾に思っています」
「それは……返す言葉もありません」
「私も今更どうこうしようとは思っていません。ですが、今のニブル王国を変えたいと思っています」
「天使様
「その事に関しては、私の主であるアルファードから聞いてください」
今度はジブリールからバトンを渡されたアルが皇太子に質問する。
「一つ聞きたいんだが、アンタは何故催眠を掛けられていないんだ?」
「
「どういう事だ?」
「ニブル王である父上を操っていれば大抵の事は自在に動かせる。ただ、父上は身体が弱くてな、いつまで持つか分からないのだ。だからいつ父上が死んでも代わりが利く様に生かされているのさ」
ニブル王の身体が弱っているというのは初耳だったが、次期国王である皇太子が生きていればアルの計画には支障をきたさないと考え、疑問を解消すべく更に質問をする。
「ニブル王の代わりなら、それこそ催眠を掛けておいた方が都合が良いと思うんだがな。催眠を掛けられない事に何か他に心当たりは無いか?」
「そうはいってもな。そういえば私が『貧民街』にあるダルク教会に行っていた事を凄く気にしていたな」
「あの教会に行っていたのか!」
「ああ。私はこの国では少ないダルク教徒なんだ」
過去に宗教弾圧でダルク教を追いだした国の皇太子がダルク教徒だったという事実に驚きを隠せないアルとジブリールは、お互いに顔を見つめ合い、とある可能性に辿り着いた。