クレアがおどおどしながらジブリールの後をついてアルとナーマが居る場所までやってきた。その時にナーマが一瞬クレアが手に持っているロザリオを
「クレアには悪いことしたな。こんなに教会の中をぐちゃぐちゃにしちゃって」
「い、いえ。アルファードさん達が居なければ私はどうなっていたか分かりませんので……」
「そういって貰えると助かる。というか、襲撃してきた目的は何なんだ? 潜入してたんだろ?」
そう問いかけると、ナーマが待ってましたと言わんばかりに説明しだした。
「今夜この教会を襲撃したのは、そこのシスターが目的ではありませんでしたわ。狙いはアル様でした」
「俺が狙いだったのか!?」
「目的は以前と同じで、アル様の中にある
「なんてこった。俺の
「いえ、アル様だけが原因ではありません。アル様達がダルク教会は何処にあるか聞き込みをしていたでしょう? それが魔術師団の耳に入り、ついでに協会も破壊してしまおうとしていましたの」
アルの抹殺にダルク教会の破壊が襲撃の目的だったと話す。アルからすれば自分が狙われる理由は分かるのだが、ほぼ廃墟同然の教会まで標的にされたのが腑に落ちなかった。この教会は『貧民区』の端にあるので誰も近づこうともしていなかった。なのに毎週税金を取られ、追い打ちで襲撃なんて度が過ぎている。
「なぁ、どうして教会はこんなにも狙われるんだ?」
「それはニブル王がミカエルを恐れているからですわ。正確にはニブル王を操っている悪魔がですが」
「やっぱりニブル王は悪魔に操られていたのか!」
「あら、アル様も操られていると考えていらしたんですね」
「ああ。以前聞いた評判と実際の評判が解離し過ぎてたしな。それにクレアが悪魔に襲われてから圧政が始まったと聞いたからな」
「悪魔に襲われたのに生きてるんですのね?」
そう言いながらチラッとクレアを見ると、その視線に怯えたクレアが言葉を返す。
「こ、このロザリオのお陰で助かりました」
「なるほど。ミカエルの魔力が籠ったロザリオなら、低級悪魔では太刀打ちできませんね」
「あ、あなたは大丈夫そうですね」
「あら?
「あ、はは、そうなんですね……」
ナーマの言葉に冷や汗をダラダラと掻きながら必死にロザリオを握っている。そんなにナーマが怖いのか? と思うアルだが、残念ながらクレアの反応が一般的な反応だろう。
クレアが再びジブリールの後ろに隠れてしまったので、ナーマが話の続きを話し出した。
「結論から言えば、今この国には2体の悪魔が暗躍しています。そして、悪魔は仮面の集団と繋がりがあるようですわ。どうやら仮面の集団のボスが上位の悪魔らしいという情報までは聞き出せましたわ」
「そうか。仮面の集団は上位悪魔の部下みたいなもんなんだな。それよりも、この国に居る悪魔に俺達が勝てると思うか?」
「勝つだけなら簡単ですわ。ただ、ニブル王の洗脳を解いてから出ないと一生ニブル王は正気を失ったままになってしまいます」
「厄介だな。悪魔の居場所は掴んでいるのか?」
「当然ですわ。
「そりゃ助かる」
ナーマのお陰で悪魔の居場所は分かるが、どうやって悪魔が居る場所まで行くのかが問題になってくる。魔術師団がアルを狙っているとなると、正面からは無理だろう。アルもナーマの様に影に
アルがどう潜入するか考えていると、ナーマが重大な秘密を明かした。
「そういえばニブル王の息子で皇太子のフォルクスという人物が牢屋に監禁されていましたわ」
「おいおい、それってかなり重要なんじゃないか?」
「さぁ? 特に催眠等は掛けられていなかったので、邪魔だから監禁されてるといった感じでしたわよ?」
ナーマがあまり興味無さそうに言うと、ジブリールが反応した。
「そのフォルクスという皇太子を上手く使えないでしょうか?」
「皇太子を? どういう事だ?」
「催眠を掛けず、殺さずにいるのは悪魔にとっては邪魔者でしかありません。なのにいまだ生かされているという事は、何か皇太子が悪魔の策略に必要なのではないでしょうか?」
「確かに。という事は、皇太子に接触を試みる必要が出て来たな」
「そうですね。ただ、どうやって王城に忍び込むかですね」
やはり王城へ如何にして忍び込むかが問題になる。ナーマだけを侵入させて警備だけでも片づけて貰うか? と考えるが、相手は悪魔2体に仮面の集団が多数なので、いくらナーマでも危険だと判断する。ここまで考えてアルは一つの案を提示する。
「相手は俺を狙ってるんだよな? だったら俺とジルがナーマに捕まった
ある意味自殺好意に等しい提案にジブリールが待ったをかける。
「それは危険です! 相手はアルの命を狙っているんですよ? 王城に入れたとしても無事では済みません!」
「そこでナーマの出番なんだ。上位悪魔のナーマが
「そんなナーマ任せは危険です! 王城に居る悪魔がナーマの言う事を聞くか分からないじゃありませんか!」
ジブリールはそんな危険なことはしないで、もっと安全策を取ろうという気持ちと、悪魔であるナーマに命を預けるという事に忌避感を持った。
だが、ジブリールの反対の言葉にナーマが応戦する。
「
そう言って大きな胸を強調するかのように胸を張る。一瞬だけアルの視線が胸元へ行ってしまったのは、健全な男子なら仕方のないことだろう。
「ちょっと待て! ナーマに逆らえないなら、ニブル王の催眠を解いてこの国から消えろ! って命令すればいいんじゃないか?」
アルの名案にジブリールも乗っかり、「そうだそうだ!」と拳をブンブンと振っている。よほどナーマに命を預けるのが嫌なのだろう。
盛り上がるアルとジブリールだが、そこにナーマが冷水をぶっ掛ける様な事実をぶつける。
「一度拠点を築いた悪魔には、たとえ上位悪魔からの命令でも拠点からは離れられないんですの。一種の契約のような物ですから」
「そ、そんな!? 本当ですか!」
「こんなことで嘘を言って
「ナーマも
「それを契約魔術で縛り付けたのは貴女本人でわなくて?」
「うぐぅ!」
ナーマに痛い所を突かれ、天使が出してはいけない呻き声をあげて降参する。
ジブリールが言い負かされた事で、アルの提案は間接的に否定された。こうなってしまっては最初に提案した捕虜のフリをする計画を実行するしかない。
「やっぱり俺達がナーマに捕まったフリをするしかないな」
「うぅ、アルがそう言うなら従います……」
「そんなに嫌なのか? ナーマを信じられないなら俺を信じてくれ。ジルは俺が
「あ、アル!」
アルの『俺が護る』という言葉に瞳に涙を浮かべて感動するジブリールを無視して、ナーマが話を進める。
「それではアル様とジブリール、それとそこで怯えているシスターを縄で縛って王城に向かいましょう。あんしんしてください、縄は簡単にほどける様にしておきますので」
「ああ、分かった。夜が明けたら作戦実行しよう!」
作戦が決まり、アル達が細かい作戦を話している横で、自分も捕まるフリ作戦に組み込まれている事にクレアの不安感は頂点に達しようとしていたが、アル達はクレアの異変に気付く事は無かった。