アルの
「アル! 一体何をしてるんですか!?」
「ちょ、え!? なんでジルは怒ってるの!」
「そんなに胸の大きい女性が好きなんですか!」
「お前は何を言ってるんだ! この女性は
アルは必死に自分の
アルの必死な弁明で
吸魔で
「あわわわ、ワタシとした事がとんでもない醜態を晒してしまい申し訳ございません!」
と慌てて、床にゴンッと額をこすりつける様に何度も頭を下げた。
「そんなに謝らないでください。俺も気を付けなきゃいけなかったので」
「こんなワタシを許して下さるんですか!」
「……はい」
バッと顔を上げたシスターが真っ直ぐな瞳でアルの顔を見ようとするが、アルは目が合わない様に顔を背けて返事をする。それがシスターからすればまだ許されていないと感じてしまうのは仕方のない事だろう。
「やっぱり許せないですよね……こうなればワタシも覚悟を決めます!」
そう言いながら修道服に手を掛けて脱ぎだそうとした。それを見たジブリールが目にも留まらぬ速さでそれを止めた。
「シスターが何をしてるんですか! もっと自分を大切にしてください!」
ジブリールがシスターに
突然の出来事にアルとジブリールが戸惑っていると、祈りを終えたシスターが閉じていた目を開き、ジブリールを見つめながら言葉を発した。
「ああ、遂にワタシは天使様にお会い出来ました」
「え? 私が天使だと分かるんですか?」
「何を言ってるんですか。ここまで神々しいお力をお持ちなんですから、教会に仕える身としては当然です」
キラキラとした目でジブリールを見つめるシスターに若干ジブリールが引いていると、アルが横から割って入った。
「ちょっといいですか? あなたはこの教会のシスターでいいんですよね?」
「はい、ダルク教教会ニブルヘイム支部のシスターで間違いありません。ですが、どうしてワタシの目を見てくれないのですか?」
「それには深い訳がありまして。失礼だと思いますがこのままでお願いします」
「なるほど、訳アリという事ですね。大丈夫ですよ、ダルク教は皆さんの味方ですから」
「ありがとうございます。俺はアルファードといいます」
「ワタシはクレアと申します。そちらの天使様は?」
クレアからの質問に答える。自分はジブリールといってアルの従者をしている事等を話した。
「ジブリール様ですか。たしか教典にミカエル様のご友人と書かれていましたが?」
「はい、ミカエルとは古い友人です。この教会に尋ねたのもその事なのです」
「そうなのですね。どういった用事でしょうか?」
ジブリールはニブルヘイムが今と昔では全く別の国になってしまっている事や、ミカエルが教皇を務めるダルク教の大聖堂が王城に変わってしまっていること、そしてこの国に多く居た信者達は何処に行ってしまったのかを聞いた。
「失礼ですが、以前この国に来られたのは何年前ですか?」
「100年以上前になります」
「なるほど。それでしたら宗教弾圧以前になりますね」
「宗教弾圧?」
「80年程前にミカエル様を筆頭に、天使に信仰する者を迫害するという出来事がありました。迫害を受けた信者達を救うべくミカエル様は大聖堂を当時のニブルヘイム王へ明け渡し、ミカエル様とその信者達は他の地に移り住みました」
80年前の迫害と聞いて、ジブリールは当時の事を思い出した。当時のグレイス王の護衛をしていた時に、大国で信仰者が迫害を受けているらしいという情報があった。その当時は色々な宗教が弾圧されていたのでその中の一つに過ぎないと歯牙にも掛けなかった。友人が教皇を務めるダルク教が迫害されていたとは露ほども思わなかった。
しかし、現実は甘く無い。クレアのいう事が本当ならば、当時の自分が動いていれば何か変わったかもしれないという罪悪感に襲われた。
不安げな表情を見て取ったアルがジブリールに語り掛ける。
「その当時はもうグレイス王国に仕官してたんだから、ジルが気に病む事じゃないよ」
「そう言って頂けると助かります。ご心配かけてすみません」
アルが責任を感じさせない様に優しく諭していると、クレアが今度はアルの方へ向き直り、こちらを伺う様に質問してきた。
「あの、グレイス王国というのは悪魔に滅ぼされた国ですよね?」
「ああ」
「それと、その国の第三王子の名前がアルファードだったと記憶しているのですが……」
最初に自分からアルファードと名乗ってしまったし、ジブリールがグレイス王国に仕官していた事も知られてしまった。ここまで情報が揃えば正体に気づくのは仕方ないかとアルは諦めたように肯定する。
「俺がその第三王子のアルファードだ。今はある目的の為に素性を隠して旅をしている」
その一言でクレアは何かを察したのか、それ以上踏み込んでは来なかった。こういうところはシスターらしさが垣間見られた。
空気を読んだジブリールがすかさず話題を変える。
「それにしてもどうしてこの教会はこんなに廃れているんですか?」
「あ、それはやはりダルク教だからだと思います」
「そんなにもこの国では嫌われているのですか?」
「嫌われているといいますか、恐れているんだと思います。80年前まではダルク教が統治していたので、再びダルク教が力を付けないようにしているんだと思います」
「ミカエルはそんな事しないと思いますが、やはり人間からすれば畏怖の対象にもなってしまうんですね」
クレアの話を聞いて少し気分が下がったジブリールだったが、すぐに気持ちを切り替えて情報収集に頭を切り替える。
「今のニブルヘイムでは魔術師団と名乗る集団が街の警備等をしているんですか?」
「はい。魔術師団はニブル王直属の私兵団なので、警備といいながらやりたい放題やっているのが現状です」
「昨夜私達も酒場で情報収集をしていたら急に酒場に入ってきて税金を取られそうになりました」
「それは
クレアは埃をかぶったテーブルを撫でながら俯いてしまった。どの程度の金額を要求されているかは分からないが、クレアだけでも生きていくのがやっとといった感じだろう。
アルもどう声を掛けたらいいか考えていると、クレアが思い出したように顔を上げ話し出した。
「そういえば、まだニブル王が圧政を敷く前だった頃に悪魔に襲われたんです!」
悪魔というワードにアルとジブリールが顔を向き合わせて反応する。
「その悪魔っていうのはどんな悪魔だったんだ?」
「見た目は人間の中年男性と変わらなかったのですが、耳が若干尖っていたのと、纏っている雰囲気というか……多分あれが魔力だと思ったんですが、その魔力からは不快感しか感じられなかったのです」
「なるほど、魔力か。それで何をされたんだ?」
アルがそう聞くと、クレアは手を修道服の胸元に突っ込むと、金色に輝くロザリオを取り出した。
そのロザリオを見たジブリールが目を見開いて驚いた。