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第16話 ニブルヘイム王国

 ジブリールの指摘により聖騎士が居ないのは不自然という事で教会へ向かう事にした。

 アルはニブルヘイムに詳しくないので、昔に着た事があるジブリールの案内で、ダルク教の総本山である大聖堂へと向かっていた。

 ニブルヘイムは4つの区画に分けられていた。『商業区』『工業区』『居住区』そして、税金が払えなかった、やそもそもの生活が苦しい人達、そして大国であっても浮浪者や身寄りのない子供も沢山居る。そんな人達が暮らしている区画を『貧民区』と呼んでいる。

 税がるという事は、税を多く収めた者は優遇される。その優遇された者達が住むのは『居住区』の中心に大豪邸を構え、自警団も雇っている者も居る。『貧民区』から出て来た、ならず者や反社会的な存在から身を守る為だ。外聞は良い国と聞いていた分、こんなにも格差がある事にアルは衝撃を隠せなかった。


「それであの中心にあるのが大聖堂ってことか」

「はい。いつも参列者が多いんですよ」


 街の中心にある大聖堂を目印に歩を進める。中心に向かうにつれて豪華な建物が増えていく。きっと貴族や富裕層の家が多いのだろう。宿屋近辺の建物や衛生面などは段違いだ。そのまま歩きつつけると、立派な大聖堂の前にたどり着いた。

 しかし、大聖堂は高い壁に覆われていて出入り口も一つしかない。その出入り口にはおごそかな門が備え付けられていて、門の横には立派な甲冑を着た騎士が悠然と立っている。


「なんかジルの言ってた大聖堂とは違うみたいなんだけど」

「確かに昔はこのような感じではなかったですが、ここが大聖堂で間違いないです!」


 想像していた大聖堂とは大分違ったが、ジブリールが自信満々に胸を張るので、仕方なく門番へ確認する事にした。


「すみませーん」

「何だお前は!」

「ここって大聖堂ですか?」

「大聖堂? 何を言ってるんだお前は。ここはニブル王が住まう王城だぞ!」


 門番がそう答えると、ジブリールがズイッと一歩前に出て門番に食って掛かった。


「そんなはずありません! ここは大聖堂のはずです!」

「なんだお前は! ここは王城だ! 大聖堂などではない!」

「ここが王城だとしたら大聖堂は何処なんですか!?」

「知るか! いや、お前はダルク教信者か?」

「そのような物です!」

「はは、だったら大聖堂はお笑いだな。さびれた協会なら『貧民区』にあるぞ」

「さ、錆びれた協会……? そんなはずは──」

「わかりました! そっちに行ってみますね!」


 まだ食って掛かりそうなジブリールを無理矢理引き剝がし、門前から離れた。途中でもジブリールは納得いっていないのか、色々と文句を言っていた。アルはジブリールに向き直り、落ち着かせるために深呼吸をさせた。


「落ち着いたか?」

「はい……取り乱してすみません」

「でも大聖堂は何で王城に変わったんだろうな」

「そうなんですよ! 以前来たときは間違いなく大聖堂だったんです!」


 ジブリールがここまで言うからには間違いはないのだろう。だが、門番も嘘を吐く必要もないのは確かだ。

 そこでふと疑問に思った事をジブリールに聞いてみた。


「以前にニブルヘイムへ来たって言ってたけど、いつ来たんだ? 俺が生まれてからはずっと一緒だっただろ?」

「え~と、グレイス王国に仕官する前なので100年以上前になりますね」


 ジブリールの言葉を聞いてアルは頭を抱えた。せいぜい2~30年だろうと思っていたら100年以上前だった。それだけの時間があれば国そのものが変わっていても仕方ない。しかし、この変な時間感覚は、やはりジブリールは人間ではなく天使なのだと再確認した。


「それだけ時間があれば国は変わるんだよ。きっとダルク教の人達も何か理由があって大聖堂をニブルヘイム王に譲ったんじゃないか?」

「あっ! すみません! 人間の時間では100年は長いですよね。確かにそれだけの時間があれば変わっていても不思議じゃありません」

「だろ?」

「ですが、ダルク教は今どうなっているんでしょうか?」

「ん~、門番が『貧民区』に協会があるって言ってたから、そこに行けば何か分かるかもしれないな」

「確かに! では早速協会に向かいましょう!」


 アルの腕を引っ張って前を進むジブリールにこんなポンコツな一面があるとはと感慨にふけりながらアルはジブリールに着いていく。

 しかし、ジブリールは直ぐに足を止めてアルに振り返り質問してきた。


「あの……『貧民区』はどこでしょうか? 以前と街並みが変わってしまっているので……」

「はぁ~、今日はジルの意外な一面が見られて嬉しいよ」

「え! もしかして褒められてます?」

「あ~、はいはい。褒めてますよ~」

「なんか投げやりな感じなんですが」

「気の所為だろ。ほら、街の人へ聞き込みに行くぞ」

「ちょ、待ってくださいよー!」


 焦りながら追いかけてくるジブリールを待ち、一緒に周囲の人に協会が何処にあるのか聞き込みを開始した。『貧民区』の場所は分かったが、誰もが協会の場所までは知らなかった。それも仕方のない事で、今アル達が居る場所は貴族や富裕層が住んでいる『居住区』なのだ。『居住区』に住む人間がはいちいち気にしないし関わろうともしないのだから。

 その事に気づいたアルは、とりあえず『貧民区』まで移動して、そこで情報を集めることにした。


 『貧民区』に入った瞬間から異様な臭いが立ち込めていて、路地の片隅には浮浪者らしき者が座り込んでいた。中には子供も交じっており、先程まで居た『居住区』との格差に顔をしかめた。自分の目的である祖国が再建出来た時には、身分さの無い、皆平等の国にすると誓った。


「すごい場所ですね」

「ああ、胸糞悪い」

「情報収集はどうしますか?」

「もっと奥に行ってみよう。ここは入り口に近すぎるし、見張りも居るようだしな」


 『貧民区』に入る際、入り口に衛兵が立っていた。恐らく『貧民区』から出てくる者の身分確認等をしているのだろう。逆に『貧民区』に入る時には何も言われなかった。この区域に入る人物がどういう身分や経済状況なのか分かり切っているからだろう。実に胸糞悪い話だが、アル達にとっては要らない詮索をされずに済んだ。

 入口から奥へと進むと、小さいながらも商店が並んでいた。その商品は様々で、食料品の他、どこから仕入れたかも分からない装備類や怪しい薬まで扱っていた。

 商店街を抜けると、今度は娼館が並んでいた。窓から半裸の女性が声を掛けてくるが、それをジブリールが遮り、アルの腕を引っ張って足早にその場を離れた。


「こういう場所はアルにはまだ早すぎますね」

「ならもう少し大人になったら良いのか?」

「ダメダメ! ダメに決まってるじゃないですか!」

「冗談だよ、そんなに怒るなって。それより、ちょうど人がまばらになったし情報収集といこうか」


 おそらく住居スペースであろう路地には、人がまばらに歩いている。見た感じでは何か目的が合って歩いている様には見えない。おそらく何もすることが無いから歩いて暇をつぶしているのだろう。

 そんな人達に声を掛け、協会の場所を尋ねると数人目で協会の場所を知っているという人物に当たった。


「協会は何処にあるんですか? ここに来ればあると聞いたんですが」

「協会なら確かにこの『貧民区』にあるが、あそこを『貧民区』と呼んでいいのかさえ分からねぇ」

「『貧民区』でさえない? でも場所は知ってるんですよね? お願いします教えてください」

「教えるのは構わねぇが、行くなら自己責任だからな。文句言うなよ」

「ありがとうございます! 勿論文句なんて言いません!」

「協会はこの路地を左に真っ直ぐ進むと壁がある。その壁伝いに右に真っ直ぐいくとぽっかりとした広場があるんだが、その奥に古い教会があるらしい。俺も人から聞いたから確かじゃねぇがこれでいいか?」

「十分です。ありがとうございます!」


 アルはお礼にと銅貨2枚を渡す。すると男は「ありがとよ。これでしばらく食いつなげる」と言って立ち去ってしまった。

 男を見送った後、男の言う通りの道順で歩いていくと、急に周囲ががらんとした場所へ出た。男の助言通りに更に奥に進むと、今にも倒壊しそうな協会が姿を現した。


「ジル、協会はあれで合ってるのか?」

「はい、間違いありません。ダルク教のシンボルが建っているので」

「そうか、なら思い切って尋ねてみよう」


 歪んだ扉をノックする。だが誰も出てこない。もしかして誰もいないのでは? と思い、失礼ながら扉を開けると同時に中から人が出てきてぶつかってしまった。どうやら扉を開けるタイミングががぶさっていたようだ。


「いてて、大丈夫ですか?」

「はい、大丈……好きです!」

「へ? あ! 突然だったから目を合わせちゃった」

「どこのどなたか存じませんが、私と子作りしましょう!」

「うわ!?」


 シスターの格好をした女性が魅了チャームに掛かって自我を失ってしまい、アルを押し倒した。

 その光景を目の当たりにしたジブリールが激昂した。


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