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第15話 魔術師団

 リーダーの合図により、酒場中に魔法師団の団員が素早く行動し、客のテーブルひとつひとつを取り囲むように位置取った。アル達のテーブルにも二人の団員が逃げ場を塞ぐようにテーブルを囲まれた。全てのテーブルに団員が付いた事を確認したリーダーが口を開いた。


「お前達はこの酒を飲むのに税金を払っていない。よって、王への反逆罪として捕縛する!」


 リーダーがそう宣言すると、各テーブルに付いていた団員が各々客の腕をひねり上げ、行動できない様にする。アルはこの程度の拘束なら難なく解けるが、しばらく様子を見ようとジブリールとナーマに視線を送り、相手のなすがままに応じる。


「店主は誰だ!」


 そう叫びながらリーダーが店内を見回すと、カウンターの奥から店主らしき中年男性がおずおずと店の中央へ出て来た。


「私がこの店の店主です」

「お前は税を納める事を拒否する事を見逃した罪で、投獄の後に罰が決定するだろう」

「そんな! お酒に関して税は掛かっていなかったはずです!」


 店主はそう言って必死に食い下がるが、リーダーはそれを嘲笑いながら言い放った。


「今日の昼まではな。午後に王が思いついたそうだ」

「そ、そんな……」

「だが、俺達も鬼じゃない。この場の全員が今すぐに税分の金を払えば見逃してやる」


 そう言ってリーダーは店の中を見まわす。そして団員に手で何やら合図を送ると、拘束が解かれた。そのタイミングで再びリーダーが店中に響き渡る様な大きな声で、客に向かい指示を出す。


「金を払う者は近くの団員に金を渡せ! 金額は1杯銅貨2枚だ。但し、ワインは1杯小銀貨1枚になる。嘘の申告をしても無駄だという事は忘れるな! さぁ、金を渡せ!」


 客達はしぶしぶといった感じで近くの団員に金を渡しだす。ここで渋っても碌なことにならないとの判断なのだろう。アルも近くの団員を呼び寄せて金を払おうと懐に手を入れるが、その手が止まった。それを見た団員が急かそうとアルの顔を覗き込む。


「どうした! 早く金を出せ!」

「……もう払いましたよ」

「そうだったな。もう座っていいぞ」


 団員の指示に従って椅子に座るが、当然アルはお金を払ってはいない。その事に関してジブリールとナーマは何も言わない。何故なら、団員がアルと目を合わせたことで魅了チャームに掛かったと理解していたからだ。

 アルはなるべく金銭を騙すような事に嫌悪している魅了チャームを使わないと決めていたが、今回は少し事情が違う。

 昼間まで税金の掛かっていなかったお酒に、王の思い付きでその日の夜から急に税を搾り取るという行為が本当にニブル王の意志なのかがわからない。それに、魔法師団の連中はこの店に入ってきてから無駄な動きが無かった。そのことから。今回の件だけではなく、ほぼ日常的にこういった無法行為が行われているのではないかと予測したのだった。


「よし、全員分集まったな。投獄されたくなければ、これからはキチンと税を納めることだな!」


 リーダーはそう言い残して店から出て行った。他の団員もリーダーの後に続いて店から出ていく。

 そして、団員全員が店から出ていくと、客達の大きな溜め息と共にあちこちから愚痴がこぼれた。


「まったく、今度は酒に税金かよ」

「思い付きで政策されちゃかなわねぇ」

「ニブルヘイムももう終わりかもしれねぇな」


 そんなニブル王への愚痴が聞こえてくる。今までアルが耳にしたニブル王の評判とは真逆だった。嗜好品である酒にまで税を課してしまったら、市民の娯楽が減り、不満が増えていつか暴動が起きてしまうのではないか? と考えてしまう。

 そこまで考えて、いくらここで思考を巡らせても真相にたたどり着けないだろうと、一旦考えるのを止め、ジブリールとナーマを引き連れて酒場を後にした。


「しかし、おかしいですね」

「ジルもそう思うか? ニブル王の噂は良い物ばかりだったからな」

「いえ、そうではなくてですね……」

「ん? どうした?」


 ジブリールが立ち止まり、疑問に思った事を口にする。


「ニブルヘイムでは聖騎士団が街の治安を守っていたはずなんです。それが、魔法師団という粗暴な集団が幅を利かせているのが気になるんです」


 ジブリールの指摘に、アルも納得した。以前聞いた話では王都には聖騎士団が常駐していて、小さな悪事も許さず、とても平和な国であると。

 それがどうしてこうも変わってしまったのか? その答えはきっとニブル王の変貌と何かしら関係があるのは間違いないだろうと考える。


「ニブル王に謁見する理由が増えたな」

「そうですね。ニブル王がどうしてあんな圧政を敷いているのか気になります」

「万が一だけど、俺達が聞いた噂話が嘘って可能性も考えとかないとな」

「嘘ですか」

「例えば国の悪評を広めたら罰せられるとか、箝口令かんこうれいが敷かれていた場合も考えられるだろ?」

「たしかに」

「まぁ、全てはニブル王に会ってからだな」


 宿屋を探しつつ話を纏めていると、ナーマが居ない事に気づいた。


「あれ? ナーマは?」

「そういえば! 何処に行ったのでしょうか。酒場を出るまでは一緒だったのですが……」

「まぁ、ナーマなら俺の魔力を探って後で宿屋で合流できるだろう」

「そうですね。契約もあるので悪さも出来ないと思いますし」


 二人がそう結論付けると、丁度良く安めの宿屋の目の前に来ていた。今日はこの宿屋で泊まる事にして、ニブル王への謁見は明日考えるという事になり、アルは一応ナーマの分の部屋を取ると、ジブリールと別れそれぞれの部屋へ入りそのまま一晩が過ぎた。

 翌朝、いつも通りにジブリールがアルを起こしに部屋へやってきたが、どこか様子がおかしい。


「アル、起きてください!」

「ん~、おはようジル」

「おはようございます。昨日の話は覚えてますか?」

「昨日の話?」

「はい。聖騎士団の事です!」

「ああ、覚えてるよ。何かあったのか?」


 アルが瞼をこすりながらジブリールに尋ねる。


「聖騎士団は何処の所属か知っていますか?」

「ん? 王直属じゃないのか?」

「いえ、王直属は近衛兵が別に居ます。聖騎士団は協会の騎士なんですよ!」

「あ! そうか、ニブルヘイムはダルク教の総本山だったな」

「そうなんですよ! なのに聖騎士を見かけないのは不自然なんです!」

「確かに。これは王より先にダルク教の教会で聞き込みした方が良さそうだな」


 そうと決まればと、アルは素早く顔を洗い身支度を整える。が、その間に不安がよぎった。


「いきなり俺達が行って話を聞いて貰えるのかな?」


 アルのごく自然な疑問に、ジブリールは「任せてください!」と言いながら胸を叩く。


「ダルク教の教皇は私と同じ天使で、昔からの知り合いですから!」


 ジブリールから初耳のとんでも発言で、まだ眠気が残っていたアルだったが、突然のカミングアウトで完全に目を覚ました。

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