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第9話 新しい仲間

 ナーマが私利私欲的に罪のない人々を襲っていたという事実にアルは怒りをあらわにする。


「お前は罪のない人々を襲って何も感じないのか?」

「嫌ですわアル様、アル様だって食事をする時に何も思わないでしょう? それと同じですわ」

「チッ! やっぱりお前は悪魔だよ」

「ですが、一つだけ解決策がありますわ」

「なんだ?」

「アル様が定期的に魔力を分けて頂ければ人間を襲わなくて済みますわ」


 そう言ってナーマは蠱惑的に唇を舐める。

 それを無視してアルは考える。ナーマは大魔王の魔力デザイアを吸魔してもジルの様に体に害は無い。加えて魔力暴走をした時にナーマが居ればジルの負担も減る。それに罪のない人々が襲われる事も無くなる。


「なるほど、俺が魔力を提供すればお互いに利があるって訳か」

「そういう事ですわ」


 これからの旅、いつ魔力暴走が起きるか分からない。それに今回の様にアルの命を狙う敵と戦う時に戦力は多い方が良い。と、ここまで考えて先程ナーマが言っていた魔力の事を思い出す。


「さっきジルに何故魔力の事を教えなかったのか? って聞いたよな?」

「ええ。魔力を自在に操れなければ危険ですから」

「お前は魔力操作を俺に教える気はあるか?」

「ふふ、むしろわたくし以外に適任は居ませんわ」

「ジブリールじゃダメなのか?」

「なら彼女に聞いてみましょう」


 そう言ってナーマとアルはジブリールを見る。するとジブリールは悔しそうに口にする。


「私では大魔王の魔力デザイアの魔力操作は出来ません……。だから今までアルに魔力操作を教えなかったのです」


 そう言いながらジブリールは拳を強く握る。自分の力の無さを自覚する様に……。

 アルはジブリールの悔しそうな姿を見て、優しく声を掛ける。


「ジルは悪くないよ。そんなに気にすることはない」

「アル……」

「俺はさ、ジルが吸魔出来るだけで従者にした訳じゃないから」

「っ!? ありがとうございます!」


 アルの心優しい言葉にジルの瞳に涙が浮かぶ。アルも気恥ずかしいのか、ふいっと顔を逸らす。逸らした先にナーマがニヤニヤしながら見ていた。


わたくしとあんなに熱い口づけをしておいて、妬いてしまいますわ」

「茶化すな! それには緊急事態だったし、お前から無理矢理してきたんだろ」

「ふふふ、そうでしたね。ご馳走さまでした」

「ぐぬぬ……」


 ナーマに軽くあしらわれてしまい、悔しく思うが、ここで感情的になってしまっては相手の思い通りになってしまうと考え、言い返したい気持ちを押し殺した。


「で? 魔力操作は教えてくれるのか?」

「ええ、手取り足取りお教えしますわ」

「普通に教えてくれ」

「あら、釣れないわねぇ」

「バカ言え。じゃあナーマにはこれからの旅に同行して貰う事になるけど良いか?」

「問題ありませんわ」

「じゃあこれからよろし──」

「問題だらけです!?」


 よろしくと言おうとすると、血相を変えたジブリールが割って入った。


「ど、どうしたジル?」

「その女の同行は認められません!」

「どうしてだ? ナーマが居れば魔力操作を覚えられるんだぞ?」

「そうですが……ナーマは悪魔ですよ! 何を企んでいるか分かりません!」


 フーッフーッと呼吸を荒くして反論するジブリールにナーマは冷静に反応する。


「企むなんて心外だわぁ。わたくしはただ大魔王の魔力ア ルが欲しいだけですわ」

「ほら! 彼女の狙いはアルなんですよ! 考え直してください!」


 ほらほら! とナーマを指さしてアルに抗議をするジブリール。その姿は天使とは到底思えない程少女じみていた。そんなジブリールにアルは安堵する。彼女にもこんな女の子らしい一面があったんだなと。


「まぁまぁ、落ち着けよジル。あれはきっとナーマの冗談だよ。そうだろ?」

「さぁ、どうかしら。アル様が魅力的な殿方だと思っているのは本当ですわ」


 その言葉にジブリールは「ほらほら! やっぱり危険です!」とアルの身体をガクガクと揺さぶる。だが、アルは既にナーマを旅に同行させる事は決定事項だった。


「ジル、落ち着けって。そんなに取り乱したらナーマの思う壺だぞ」

「うっ! それは悔しいです」

「なら、落ち着いて状況を確認しよう。まず、ジルでは魔力操作を教えられない。次に、ナーマならリスク無しで吸魔が出来る。ここまでは俺達に不利益は無いだろ?」

「それはそうですが……」

「で、最後にナーマには魔術で契約してもらう。これなら俺達を裏切れないだろ?」

「……そうですね」


 アルは諭すように言葉を並べてジブリールを説得する。こちらにも利益が有り、不利益は無いと。そしてダメ押しで魔術的な契約を施すことで裏切れなくするので問題は無いと。


「という訳だから、ナーマには魔術で契約して貰うけど問題ないな?」

「ええ。契約の内容はどういたします?」

「ん~、そうだなぁ」


 考えた末に、アルが提示した契約内容は次の四つだ。


 一 これからは人間の生気を奪わないこと。活動に必要なエネルギーならアルが分け与える。


 二 これから先、今回のような暴走があった時にナーマが対応すること。


 三 アルに魔術を教えること。報酬の代わりに魔力を吸ってよい。


 四 アルとジブリールを裏切らないこと。


「この内容で問題ないか?」

「ええ」

「じゃあジル、契約魔術を頼む」


 アルに言われジブリールは羊皮紙に魔方陣を描き、契約内容を書き込む。


「では二人の血判をお願いします」


 ジブリールの指示通り、アルとナーマが血判を押す。すると羊皮紙が淡い青色に光り輝くと二つに分かれ、それぞれがナーマとアルの胸の中に消えていった。


「これで契約完了です。ふふふ、これで裏切れば心臓が潰されて死に至りますよナーマ」

「別に問題ないわぁ。裏切る気なんてないものぉ」

「ふふふふ」

「うふふふ」


 笑顔で笑いあう二人だが、何故か不穏な空気が漂っている。下手に関わるとヤバイと感じ取ったアルは話題を変える。


「話はまとまったし、早くここから離れよう」

「そうですね、疲れましたし」


 広場を後にして泊まっていた宿屋の前まで帰ってきた。宿屋に入ろうとして、ふと気になり振り返った。その先にはナーマが居る。


「そういえばナーマは何処に泊まるんだ?」

「アル様と同じ部屋ですわ」

「そうか、同じ宿に泊まってるんだな」


 ナーマの言葉をスルーして宿屋に入り、自分の部屋へ入ろうとしてもナーマは着いてきた。


「なぁ、さっき言ってたのって本気なのか?」

「あら、本気に決まってるじゃないですか」


 真面目に返答しながらすり寄ってくるナーマに身の危険を感じたアルは思わずジブリールの名前を叫んだ。


「ジブリール!」

「アル、どうしました……か……」


 ナーマがアルにすり寄っている姿を確認すると、電光石火でナーマの首根っこを掴んで引きはがす。


「何をしてるんですかアナタは!」

「だって寝る場所が無いんですもの」

「だったら私の部屋で寝なさい! 今日は特別に泊めてあげますから!」

「えぇ~、それならアル様の部屋でもいいじゃないの」

「よくありません! ほら行きますよ!」


 ナーマがジブリールにズルズルと引きずられていく姿を見て、これからの苦労を考え溜息を吐くアルだった。


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