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第6話 暗躍する者達

 アルが仮面の人物を倒して広場に戻ろうと踵を返すと、遅れてきたジブリールとナーマが駆けつけてきた。二人が目にしたのは、身体を真っ二つにされ、血だまりに倒れている仮面の人物だった。

 今までのアルからは考えられない程の残虐性であったため、ジブリールは恐る恐るアルに尋ねる。


「倒したのですか?」

「ああ」


 アルはジブリールの問いに短く答える。

 そして、今の胸中を吐露した。


「殴り飛ばされた時は俺では勝てないと思ったけど、何故か身体が軽くなって、一撃で倒せた。一体どうしてこうなったのか分からない」


 急激な力の上昇に困惑して、それが恐怖になり、アルの身体は小さく震えていた。そんなアルの姿を見たナーマが口を開いた。


「それは大魔王の魔力デザイアの影響ですわ」


 その可能性も考えていたアルだったが、腑に落ちる事は無かった。なぜなら、今までも魔力暴走は起こしてきた。けれども、今回の様に魔力や身体能力が向上するといった現象は起こらなかったからだ。


「確かに俺は魔力暴走を起こしたけど、今まで大魔王の魔力デザイアをコントロールできたことなんてないんだ」

「そうでしょうね。今の貴方の力は、いわば大魔王の魔力デザイア残滓ざんしを使っている状態ですわ」

「残滓……」


 ナーマの言う残滓という事象は初めてだが、アルは妙に納得できた。

 というのも、先程まで感じていた身体能力や魔力の上昇が薄れていっているのを感じていた。


「それよりも、そこに倒れている仮面の人物の正体ですわ」

「正体が分かったのか!?」

「それをこれから確認するんですの」


 そう言ってナーマは真っ二つになった人物の仮面を剥ぎ取った。普通の人間なら血の匂いや死体の状態を直視できないだろう。だが、悪魔であるナーマにとって、こんな状態などでは微塵も動揺等しない。

 そして、ナーマが口にする。


「コイツは悪魔ですわ」


 仮面の人物の正体を聞いたアルとジブリールの反応はそれぞれ違かった。


「悪魔がなんでこんなところに!」

「やはりそうでしたか」


 ジブリールは神 聖 光 線ディバインレインで大ダメージを受けたことから、仮面の人物の正体が悪魔なのでは? と予想していた。

 その反対にアルはナーマに続いてまた悪魔が関わっていた事に驚いた。今の世界は魔力が枯渇しているので、悪魔にとって生きづらい世界だからだ。ナーマの様に人間から生 気エネルギーを得ているのなら別だが。

 アルはナーマの横に移動して確認すると、悪魔特有の赤い瞳をしていた。

 ナーマ以外の悪魔に命を狙われたことに衝撃を受けたが、悪魔のひたいに刻まれた刻印を見て更に驚愕した。


「この刻印、俺の刻印とソックリだ……」


 アルの発言にジブリールが反応し、ジブリールも悪魔に刻まれた刻印を見る。そこには、昨夜アルに現れた刻印と酷似していた。

 ジブリールはナーマの両肩を強く掴み、激情を露わに詰め寄る。


「これは一体どういう事ですか!? この刻印は昨夜貴女がアルに影響を与えた時に現れた刻印と同じではないですか!? やはり貴女の策略だったのですか!?」

「ちょっとちょっと、落ち着きなさいよぉ。さっきも言ったけど、今回の騒動にわたくしは関与していないわ」

「本当ですか? もし嘘だった場合容赦しませんよ!」


 ジブリールは剣の柄を握りながらナーマを睨む。

 しかし、ナーマはそれに臆することなく、態度は飄々ひょうひょうとしていた。

 しかし、突然真面目な表情に切り替わり、アルを指さしながら口を開いた。


「それなら、アナタの主のアルに誓ってもいいわ」


 アルに誓って関係ないと言うナーマに、ジブリールは一旦は信じることにした。主であるアルに誓われたら自分が前に出ることはできない。だが、その誓いが偽りだった場合は、全力でナーマを排除しよう。と、心の中で静かに誓う。

 ジブリールがナーマから離れると、今度はアルが食い気味にナーマに質問した。


「ナーマはこの刻印の事を知ってるのか?」


 ナーマはアルの質問に薄く笑うと、踵を返した。


「その質問に答える前に、広場で倒れてる他の仮面の奴等の素性を確認しましょう?」

「そうか! アイツも悪魔の可能性もあるのか!」


 ナーマの提案にアルは素直に従った。目の前に倒れている悪魔だけではなく、他の悪魔も関連している可能性があるからだ。

 ナーマの後ろをアルとジブリールが大人しく着いていく。

 ジブリールはまだ警戒している様だが、アルは何故かナーマを信じていた。

 母国を滅ぼした大魔王の眷属なので、悪魔には敵対心しか抱いていなかったはずなのに……。


 広場まで戻ってくると、あちらこちらに仮面の集団である構成員が倒れていた。ひとまず倒した仮面の集団を一か所に集めて、一人ひとり仮面を外していく。予想通り、構成員達の額には、アルと同じ刻印が彫られていた。しかし、アルと違って、人為的に刻まれている。そうなると、この者達も悪魔なのではないか? という疑問が生じるのは当たり前のことだろう。


「ナーマ、コイツ等も悪魔なのか?」


 アルの質問にナーマは出会って初めて真剣な表情で答える。


「こいつ等は悪魔ではありませんわ。只の人間ですわ」

「そんな!?」


 リーダーであろう人物が悪魔だった事に加えて、自分の命を狙っていた事から、他の構成員も悪魔だと思っていた。でなければ命を狙われるような心当たりは無い。しかし、今目の前に倒れている者たちは人間だという。

 悪魔と人間、その両方から狙われたという事実がアルを混乱させる。

 アルが頭の整理をしていると、ジブリールが一番気になる事をナーマに尋ねた。


「この者達は皆、アルと同じ刻印を刻んでいます。ナーマ、何か知っているんじゃありませんか?」


 ジブリールの刺すような視線を受けて、ナーマは観念したかのようにジブリールの質問に答えた。

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