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第2話 キャラバン襲撃

 月明りが差し込む宿の一室、抱き合う一組の男女。


 「うぅ、ぐあぁぁ……」


 少年・アルファードは、獣のように呻きながら淡い青色の髪の女性・ジブリールを強く抱きしめていた。

 アルファードは額にジワリと汗で湿っていた。ジブリールはヒヤリとした手でその汗を拭うと、アルからあふれ出ている魔力を吸い取る。

 何かに憑りつかれたように身体を貪っていたアルファードは魔力をジブリールが取り込むことで落ち着きを取り戻し、ジブリールに優しく抱かれ眠りについた。

 翌朝、アルファードが目覚めると横にはジブリールが眠っていた。その姿を見て昨晩の事を思い出す。


「またジルに迷惑掛けちゃったな」


 最近は魔力が暴走する事が減っていたので油断していたら、昨夜に暴走しかけてしまい、ジブリールに魔力を吸って貰って暴走せずに済んだ。

 母国であるグレイス王国が滅んだ時からアルファードは魔力の暴走に怯えながらジブリールと一緒に旅をしてきた。

 魔力の暴走に加え、アルファードには大魔王の魔力デザイアの他に魅了チャームが開眼し、制御が出来ないので常時発動状態になってしまった。ただ、この魅了もジブリールに魔力を吸わせる事で制御可能になった。

 ジブリールは今のアルファードにとって、かけがえのない存在になっていた。


「ん、んん……」


 長いまつ毛の閉じられた瞼がゆっくり開いて目と目が合う。


「おはようございます、アル」

「おはようジル。昨夜は迷惑をかけた」


 ジルは起き上がって姿勢を正す。


「迷惑だなんて思っていません。アルを守るもが私の役目なので」

「そう言ってくれるのはありがたいけど、いい加減堅苦しい言葉遣いは止めてくれないか?」

「アルは私の主君であり、グレイス王国の王子なのですから当然です!」

「今はグレイス王国は滅んだんだから、俺は只の一般人だよ」

「っ! ですが……!?」

「うん、いつかグレイス王国を復興させることが俺の目的だ。だけど、それまではフランクに接して欲しい」

「……分かりました、善処します」

「ああ、頼む」


 宿屋の1階にある食堂で朝食を食べながらこれからの予定を確認する。


「確かカルムの街までのキャラバンに同乗させてくれるんだったよな?」

「はい。旅の商人という事になってます」

「商人か。ならそれっぽい袋でも担いでおこう」


 食事を終えてキャラバンが集まっている町に出入り口に向かう。途中の雑貨屋で大き目の麻袋を買い、適当に中身を詰め込み肩に担いで商人に見える様に偽装した。

 キャラバンの馬車が停まっている場所に近づくと、冒険者の様な身なりの男性に声を掛けられた。


「よぉ、キャラバンの護衛をする冒険者のリーダーのビッツだ」

「商人のアルフレッドと見習いのジブリエットです」


 アルは慣れた感じで偽名を使う。これまでの旅も身元がバレない為に色々な偽名や偽装をしてきたので慣れたものである。


「ああ、アンタがアルフレッドか。確かカルムまで相乗りさせてほしいんだったか?」

「はい」

「なら最後尾の荷馬車に乗ってくれ、もうすぐ出発する」

「分かりました、ありがとうございます」


 ビッツと名乗った冒険者に言われた通り、キャラバンの最後尾の荷馬車に乗り込んだ。商品とおぼしき荷物が所狭しと積まれているので、アルとジルの二人が座るので精いっぱいだ。

 アル達が荷馬車に乗り込んだタイミングでビッツが号令を掛ける。


「よし! 出発するぞー! ただ、最近若い男女の変死体が多数見つかっていることから、途中で魔物に遭遇する可能性もあるが、その時は俺達が対処するので商人の皆さんは馬車でジッとしててくれ! それでは出発する!」


 馬車がゆっくりと走り出し、滞在していた町を出ていく。最後尾で街を見送りながら、アルは気になった事をジルに聞く。


「若い男女の変死体っていうのは本当なのか?」

「昨日町を散策した時には噂程度の物だったと思います」

「もし魔物の仕業だとしたら……」

「噂が本当だったとしても、アルが気に病む事ではありませんよ」

「……ああ」


 アルの心配をよそにキャラバンは順調に進んで行った。途中で野営をしたが魔物が出現する気配はなかった。

 そして町を出て3日目の夜、野営地で狭い荷馬車の中で眠っていると、外が騒がしくて目が覚めた。


「ジル!」

「はい! 恐らく魔物が出たのでしょう」

「俺達も助太刀するぞ!」


 荷台から降りて野営地の中心に行くと、護衛の冒険者や商人達がコウモリの様な翼が生えた女性達に襲われて干からびていた。まるで身体中の血液を抜かれた様に。


「っ! あれは!」


 見知った顔を見つけ駆け寄る。


「ビッツさん! 大丈夫ですか!?」

「ぐぅ、アルか。ここは危険だ早く逃げ──ぐはっ!」

「キヒヒヒ」


 ビッツの背後から翼の生えた女性がビッツの胸を貫いていた。


「アル、伏せて!」


 ジルの声に反応してその場に伏せると、ジルの剣線が頭上を通過し、ビッツを殺した女性を両断した。


「大丈夫ですか!」

「ああ。でもビッツさんや他の人達はもう……」

「それよりも問題はこいつ等です!」

「この人たちは何なんだ?」


 ジルはゴクリとつばを飲み込み、意を決したかのように言葉を発する。


「コイツ等はです」


 悪魔と聞き、アルの鼓動が早くなった。

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