見渡す限り荒れ果てた地平線。空に浮かぶ雲は自由に流れているようでその色は重々しい鉛色。吹く風は乾いていて、硝煙の香りを纏っており、目を覆いたくなるほどの砂埃を立ち昇らせている。唯一の救いと言えば日は傾き、暁の空のおかげで荒野にしては気温が落ち着いていた。
荒野の果てには一人の男が両手に短剣を握り立っていた。
男は振り返らず静かに呟く。
「この生き方に意味はない」
――どうして?
誰かが問うた。
「誰も求めていなかったからだ。求めたのは私だけ。自己満足、エゴでしかなかった」
――本当に?
「ああ。私はただ正義のヒーローになりたかったんだ」
男は寂しげな表情を浮かべて双剣を地に刺す。
「君は何かに憧れたことはあるか?」
――ある。
「私はその憧れを実現するためにこれだけの犠牲を払った。しかし、手にしたのは虚しさだけだった」
男を中心に広がる荒野にはありとあらゆる武器が散乱していた。それでも男はまだ足りないとばかりに、犠牲にしてしまったものたちへの手向けのために武器を作り続けた。空いた手に光が灯るや新たな剣が生成され地面に深々と突き刺す。地面から伝わった衝撃のせいかあるものは砕け、あるものは黄金の輝きを放つもその光には綻びが生じていた。
「問おう。君はそれでも歩み続けられるのか」
男は新たな剣を作り出し、問うてくる人物に突きつける。
問い掛けた者は答えようと口を開けるが声が出ない。どんどん男との距離が離れ、いつしか豆粒のように小さくなっていた。そして、最後に広がったのは全て暗黒に侵された世界だった。
その瞬間、全身に鳥肌が立った。世界を侵した暗黒が身体を浸食し始めたのだ。すぐさま踵を返して逃げようとするが、暗黒が速いのかそれとも吸い寄せられているのか、全く距離が開かない。
このままでは呑まれてしまう。
そう思った時、目の前に一筋の光が差した。それはとても暖かく、優しく包み込んでくれるような声が聞こえた。
誰かが呼んでいる。
誰かを呼んでいる。
「……と、く……あ……と……くん!」
――誰だ? 誰が俺を呼んでいるんだ。
「綾斗くん! 戻って来なさい!」
☆☆☆☆☆☆
その昔強大な魔力を持った魔法使いがいた。彼はあらゆる魔法を生み出し、またあらゆる災害、天変地異から人々を守ってきた。しかし、そんな彼も元は人間。当然死期も迫ってくる。そのため死して尚、人間を守ることが出来るように強力な魔導具を作り出した。だが、その魔導具はあまりにも危険で且つ最高峰の魔法が込められた物であった。作り出した魔法使いでさえ、自分以外に扱える者が存在しないと判断し封印することにしたのだ。
魔導具の名はタロット。現代で知られているタロットカードの原点たるものである。そのカードたちには独自の意思があり、姿と魔法を魔法使いに与えられた。
そして、魔法使いは死に際にあることを言い残した。
「タロットカードの封印はいずれ破れる。その時、この世に災いが訪れるであろう」
その言葉は奇しくも現実となった。
最初の犠牲者は、魔法とは一切関わりのない谷坂という一般家庭である。両親は息子と娘を残して他界し、息子である谷坂綾斗は心臓を失い、代わりにタロットをその身に宿すこととなった。
これは夢を追い、追い求めた者たちの物語である。