「長い間お世話になりました。本当にありがとうございました」
翌日、東京へと帰る瑛璃は行きと同じく伯父に駅まで送ってもらうことになっていた。
伯父が用意してくれた三脚と大きなデジタルカメラで、昨日話していた「家族写真」を撮ったあと。
まずは航に促されて、伯母と二人で従兄のスマートフォンのシャッター音を聞く。
航や瑛璃が策を弄するまでもなく、当然のように伯母が「じゃあ次はあんたが瑛璃ちゃんとね」とスマートフォンを受け取るために息子に手を差し出した。
それに乗じて、瑛璃のスマートフォンでも航と撮影してもらう。
伯母から返された端末に切望した画像の重みを感じるのは、単なる気のせいだと理解していた。
それでも、両手で大切に包み込む。
カメラで撮影した画像はPCにデータを移す必要があるという。
今すぐ編集するという航を、落ち着いてからゆっくり送ってくれればいいと止めた。
さらには、伯母から「お土産だ」と渡されたあれこれで結局もう一つバッグが増えてしまった。航が使っていないからと提供してくれた大きな旅行用ボストン。
「またいつでも来てね。ここが瑛璃ちゃんの『田舎』だと思ってくれたらいいのよ」
涙声の伯母に改めて頭を下げた。
この人の明るさにも、瑛璃は確かに救われていたと感じている。
航とは互いに無言で視線だけ合わせた。二人のお別れは、もう昨夜に済ませていたからだ。
口を開いたら泣いてしまいそうで怖かった。これが永遠の別れではないのだから、航との間に涙はいらない。
数時間後には瑛璃は生まれ育った、これからも変わらず暮らすだろう東京の街に降り立つ。
親友の朱音に会ったら、聴いて欲しい、話したいことが身体から溢れそうだ。
通話やメッセージではとても伝えきれる気がせずに、「従兄が優しい、一緒に出掛けた」程度しか知らせていなかった。
きっと彼女は、会わずにいた間の意外な展開に驚くはずだ。
海の見える町で過ごした夏が、終わりを迎えた。
瑛璃にとって一生の思い出になった、この夏。
最初に描いていた「ひと夏限り」には違いないけれど、決してそれだけではない。
途中で覚悟したように、ここは他に行き場がなくて仕方なく選ぶ場所でもなくなった。
夏が終わっても、伯父と伯母は瑛璃の大切な「家族」だ。そしてそれ以上に大切なもの。
──航くんとは、きっとここから
~END~