「なるほど、妹さんを……」
森の中を歩きながら、俺はレイラさんから旅をする事情を聞いていた。
レイラさんはハーフエルフなのだそうだ。
エルフは人間と恋仲になるのを快く思わない関係で、両親は双子の姉妹を産んですぐに引き離されたらしい。
それぞれ、姉妹の片割れを引き取って。
そのうち人間の親に育てられたのがレイラさんらしい。
レイラさんは十五歳になって成人すると同時に冒険者となって、妹を探す旅をしているのだと言う。
「なにか手掛かりはあるのかい?」
「はい。この右耳につけてる耳飾り。これは生まれる姉妹のために作られたものだそうです。母親の気が変わってなければ、妹もこれをつけてるはず」
「なるほどな」
やはり同じだ、と俺は思った。
昔、TRPGで作ったキャラクター、レイラ。
まさに同じ設定で作ったのを覚えている。
だが、と俺は考える。
レイラと今の自キャラ「ヴァージル」を遊んだのは、それぞれシステムが違う、と。
システムとはTRPGと言うジャンルの中にあるゲームソフトの事だと考えればいい。
レイラもヴァージルも同じファンタジーもののTRPGで作ったキャラクターではあるが、有名なファンタジーRPGと言われた時、きっと一人一人答えが違うように、ファンタジーTRPGにも幾つかの種類が存在する。
当然ながらそれぞれ世界観も異なる。
だからもし、レイラとヴァージルが同じシステムのキャラクターであれば、そこから世界観を類推することが出来るはずだった。
ところが、実際にはレイラとヴァージルは違うシステムのキャラクター。言うなれば、それぞれ違う世界の出身のはずなのだ。
にも関わらず、この両者が同じ世界にいる。これは奇妙なことだと思う。
(いや、まだ分からないよな、ヴァージルは異世界人、とかって可能性もまだ消えてない)
そう考えつつも、とはいえ、とチラリと隣を歩くレイラを盗み見て、俺は思う。
(ちょっとだけ役得、かも)
俺は基本的に、自分好みの女の子を自キャラとして作ってロールプレイする癖がある。
ヴァージルは例外的に他の連中が女の子ばかり使うものだから、たまには、と男キャラを作ったのだが、普段は、自分好みの女の子を作る。
つまり、レイラは俺の好みドストライクなのだ。
好みドストライクの女の子と一緒に旅をしている、これを役得と言わずしてどうしようか。
「なぁ、レイラさん、よかったら……」
街についてからも一緒に冒険させてもらえないか、と、そう続けようとした直後。
近くで剣と剣がぶつかり合う音が聞こえた。
「ヴァージルさん!」
「あぁ、行ってみよう」
もしかしたら、レイラさんのようにゴブリンに襲われた人かもしれない。
だが、結論から言うとそれは杞憂だった。
金髪ボブカットの少女がクラシカルな魔法の杖を持って戦っていた。
その杖の先端からは藍色の刃が出現しており、それを素早く振るって、ゴブリンソードマンを切り裂いていく。
「大丈夫か!」
俺が松明を掲げ、ファイア・ボルトを唱えようとするが。
「手出し無用!」
鋭い拒絶の言葉が少女から放たれる。
「なんだって?」
まぁ確かに俺達は普通のゴブリンでさえ苦戦してたのに、この子はゴブリンソードマンを容易く打ち倒している様子ではあるんだが。
「あんたらにお礼に払う金はないのよ」
「払う金はないって……」
待てよ。杖から藍色の刃、金髪のボブカット、金に汚い……?
「まさか、マキラか?」
「へぇ、私のこと知ってるんだ」
思わず呟いた言葉に、少女が反応する。
お金に汚い闇の魔法少女マキラ。反応したことから考えても間違いない。現代ファンタジーものTRPGで俺が使っていたキャラクターだ。
そう話している間にも、マキラはゴブリンソードマンを切り刻んでいく。
その素早い動きは自己
時間にして一分もかかっていないだろう。気がつけば、戦いは終わり、マキラは杖の刃を消失……させなかった。
「それで、次はあなた達?」
「えぇ!?」
思わぬマキラの言葉にレイラさんが驚きの声を上げる。
「待て待て、マキラさん。俺達はあなたと戦う意志はない。戦利品を他人から奪い取るような趣味もないしな」
「ふん、どうだか」
あぁ〜、本当にマキラだ。かわいいなぁ。ドストライクだぁ。
え? レイラと全然違うじゃないかって? 好みのタイプがいろんな種類いて何が悪いんだ。
「行こう、レイラさん。ここにいると戦利品泥棒を疑われる」
「は、はい……」
俺がマキラに背中を向けると、レイラさんが俺とマキラをキョロキョロと見回し。
「あ、あの、マキラさん? は次どこにいくんですか? プレミアの街にいくのなら、私たちと一緒に……」
「レイラさん、それは……」
俺もそう出来たら嬉しいけど!
「確かに私の目的地もプレミアの街よ。けどね、貴方達と一緒はごめんよ。そっちの彼は私の噂を知ってるみたいだし、事情は分かるんじゃない?」
「あ、あぁ。マキラ……失礼、マキラさんは、お金を払わないと一緒に行動さえしてくれない、そうだろ?」
「そういうこと、理解が早くて助かるわ。私は高いわよ。貴方達、持ち合わせはどうなの?」
俺は黙って首を横に振る。レイラさんもしょんぼりとした様子で、肩を落とした。
「行きなさい。どうせ、プレミアの街まではもうすぐでしょ」
その言葉を背中から浴びながら、俺達二人はマキラの元を去った。
一緒に旅が出来ないのは残念だ。
それにしても。
本来現代ファンタジー作品出身のキャラクターであるはずのマキラがいるとなると、いよいよ世界観が分からないな。
「到着しました! ここが、プレミアの街ですよ。ヴァージルさんとはここでお別れですね」
そう言って、レイラさんが微笑む。
「あ、あの、レイラさん。そのことなんだけど、俺の旅の目的は純粋に精霊との仲を高めるため、言うなれば単に強くなるためで、旅自体に目的はないんだ。良かったら……」
「え、も、もしかして、これからも一緒に旅をしてくれるんですか?」
俺の言葉を遮るように、食い気味にレイラが顔を寄せてくる。
「あ、あぁ。ダメだろうか?」
「ダメだなんてそんな! 後衛がいてくれれば助かります! これからよろしくお願いします、ヴァージルさん!」
「あぁ、よろしく、レイラさん」
俺は飛び上がって喜びたいのを我慢して、レイラさんと握手をする。
レイラさんと旅が出来るなら、この異世界も楽しいかもしれない。
最初にゴブリンに殺されかけた恐怖も忘れて、俺はそう思いかけていた。