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異邦の民は苦役を強いる 2

 こんなに人がいるのに、吹きすさぶ外の風の音しかしないだなんて。あまりに静かすぎる。一度そう考えるとそれが頭から離れず、気になって心がおちつかない。


 周りに少しでも月光の波動があったなら、それを用いて背の布壁を破ることも可能だった。けれど雪の闇は深く、風は強すぎて、地上に届く前に月光の波動はすべて蹴散らされてしまっているようで、切れ端すらマテアの知覚に触れてこない。


 もっとも、たとえ外へ出れたとしても、あきらかに小屋へ入る前より強まっているこの風雪の中を再び歩き出すのは無謀な気がした。雲間から月の光も見えないのでは、どちらが南西なのかもわからない。


 夜が明けるまで堪えるしかない。


 しぶしぶながらそう結論して、布壁に深くよりかかって目を閉じる。鼻の先に膝がつくほど足を抱きこみ、マテアが寝に入った途端、それを待ちかねていたようにぼそぼそと天幕の至る所で話し声が起きはじめた。薄目を明けて盗み見ると、とても好意的とは思えない目をして自分を見ているのがわかる。話題が自分についてであるのはまず間違いないだろう。


 言葉が通じない――それは、小屋の一件でとうに理解していた。


 あの小屋で、マテアには少女や男たちの口にしていた一切の言葉が、単なる<音>にしか聞こえなかったのだ。


 世界が違うのだから用いられている言語が違うのもあたりまえなのだろうが、それにしてもなんと歯切れの悪い、長く耳にぬるぬるとした感覚の残る<音>か。くすんだ語尾も気持ち悪い。月光界一の悪声と言われているマエアシシロマダラガエルだってあんなにひどい印象を与えはしないだろう。


 視線や表情の変化を見ていれば、言葉が通じなくともある程度意味は理解できるものだ。特に悪意ある言葉は。けれどマテアはそれを読みとる努力も放棄した。目を固く閉じ直して、瞼を膝にすりつける。


 地上界の女たちが自分のことを何と言っているのか、知りたいとは思わなかった。むしろ、できるものなら耳に飛びこんでくるこの不快な音をすべて自分の中から叩き出し、耳を封してしまいたい思いにかられる。


 通じない言葉、理解しがたい行動。


 ここは異世界で、自分以外の者はただの一人も月光界人ではないのだというのをあらためて思い知らされた気がして、雪原を歩いていた頃よりも心細かった。

 なぜ自分はこんな所に押しこまれてしまっているのか、これからどうなってしまうのか。何もわからない。でも、できるならどうか、あの野蛮な男たちには二度と会わなくてすみますように……。


 布壁に身をすり寄せ、風の音に耳をすましながら眠りにつくまでの一時、マテアは胸中に浮かべた月光神と月光母の御姿に向かってそればかりを祈る。しかしそれが叶わぬ願いだというのは、彼女自身わかっていた。

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