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禁忌は甘い香りと棘を持っている。薔薇のように 3

 <リアフ>は強められるのだという、そんな考えがあることすら自分には目の覚める思いだったのだ。唯一の方法があったとして、それが自分に思いつけるはずがない。

 慈悲を請い、すがりつく思いで両手をあわせた彼女を見て、サナンはやれやれと言いたげに両手を腰へあてた。


「見かけによらず、あなたもけっこう欲が深かったのね。…………ああ、べつに厭味や皮肉で言ってるわけじゃないのよ。たんなる感想。そうは見えてなかったってだけのこと。それに、それでいいとわたしは思うわ。生涯一度の大事でさえ、なんの努力もしないで『しかたない』の一言で諦めてしまうような人なんていたら、そっちの方がよっぽどわたしには理解不能で、それこそ気味が悪いもの。

 でもね。もう一度考えてみて。あなたが望んでいる事がどれほど罪深いことなのか、ちゃんと理解してから訊いてるの?<リアフ>の質が個々で違うというのは誕生したばかりの聖女でも知ってること。わたしにはわたしの、あなたにはあなたの<リアフ>があって、違ってるのは当然だわ。それに不満を感じ、変えてしまおうだなんてことは、つまりわたしたちをわたしたちとしてこの世に生み出された両月光神の御心に不満を持つのと同じことなのよ?」


 こればかりはどこにあるとも知れない聞き耳を気にして声をひそめたサナンの言葉に、自他ともに認める敬虔な聖女であるマテアが衝撃を受けないはずがなかった。

 両月光神は、月光界の民であるなら崇拝せずにおれない存在だが、両月光神に仕えるために生まれてきた聖女にとって、その存在は他に増して重く、唯一無二の絶対神である。その御心に自分が逆らっているなど、考えたこともなかった。だが考えてみると、サナンの言うことは正しい。自分が今考えていること、つまり今現在の自分に不満を持つというのは、すなわちこうあるべくして生み出された月光神に、不満を持っていることの現れだ。


「あらどうしたの? マテア。急に黙りこんだりして。顔色も悪いわよ。赤くなったり青くなったり、あなたって本当に忙しい人ねぇ」


 自分のしている事の意味を悟り、愕然としているマテアを、サナンはここぞとばかりにくつくつ嗤う。

 聞こえてくるサナンの笑い声に、どうせそれだけの心構えもなかったんでしょう、いくら無理しようとしたところでしょせんそこまでなのよね、優等生のあなたがする決意なんて、との嘲笑を聞いた気がしたマテアは、ぐっと奥歯を噛みしめて面を上げた。

 ここまできて、今さら退ける事ではない。ましてや思い直し、諦めたところで、思っていたという事実がなくなるわけではないのだ。



「教えて、ちょうだい」



 その面から衝撃は冷めていない。敬虔な彼女の心は今、強風にさらされ、切り立った崖の縁に爪先立っているも同然の思いだろうに、それでも強く、挑むような眼差しで自分を見つめてくるマテアに、サナンは唇を横に引くと横の髪を梳き上げ、壁から離れた。


「いいわ。自分のする行為がどんなことか、ちゃんと踏まえた上でなら、ね」

 マテアの肩を抱き寄せ、息がかかるくらい耳元まで唇を近付けると、囁く。その方法を耳にした瞬間、マテアの肩がかすかに反応した。目に見えるほどではない、小さな震え。それを掌で感じとったサナンが不敵な笑みを浮かべたことを、マテアが知るはずもなかった。

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