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053 -正面なかなか切れない-


 と、いうわけで。

 別に了承も否定もされなかったけど、返事を待ってる猶予もなく、半ば強制的に四人で教室を離れ。

「わたくしは、帰るとは言っていないのだけど」

「桜条さん、用事あるなら残っていてもいいですよ? 澪ちゃんとは私が帰るので……」

「急ぎでしたら花糸さんこそ、遠慮なさらず帰宅なさいな。わたくしは澪に用があるの」

「まあまあかすみくんも撫子くんも。ここは間を取って私が澪くんと過ごすから」

「「ダメです」」

 人目が減ってきた頃にようやく足を止めて振り返れば、何やら議論が交わされているし。一応ここまでは見逃していたけど。何やらこのままだと不味い気がするので、こほんと一つ、咳払い。

「えっと、……ちょっと、いいですか?」

「うん!」

「何かしら」

「何でも訊いていいよ」

「その、……………………気のせいかもしれないんですけど、……その、昨日から妙に、三人揃ってるなと思って……」

 ここまで露骨で定番化すると、ドッキリの可能性とかも出てくるけど。そういう場合は最後まで気付かないフリで振り回されるのがマナーかもしれないと思いつつ、そんな器用なタイプでもないし。そういうわけじゃない、気もするし。

「えっと、……私の思い違いでなければ、…………なぜか、皆さんそれぞれが、」

 言おうとしてちょっと口籠もる、けど。言わずにいたら始まらない。ふう、と羞恥を呑み込んで。

「……その、私と一緒に過ごそうと、してくれているように思える、というか……」



「……う、うん。私はそうだよ? 澪ちゃん」

「…………それが何かいけないのかしら?」

「親愛の表れだよ。私がそうしたいんだ」



 存外真っ直ぐに答えられて、動揺するけど。

 やっぱりそれは、思い違いじゃないらしい。となると。



「えっと、…………それは、どうして」


 理由を尋ねないと。



「………………」

「………………」

「………………」


 うん?

「えっと、……あれ?」



「え、ええと…………み、澪ちゃん、……聞きたい、の?」

 なぜか。見たことないくらい真っ赤なかすみが、俯き加減でそう言って。

「あのね。いえね? 澪にはそういうところあるわよねとはちょっと思っていたのだけど、さすがにこの状況でそれはあり得ないんじゃないかしら?」

 こちらも頬を染めながらも、なぜかじっとりと睨むような目の撫子さん。

「まあ……うん。あまりこういう状況で、直球に尋ねるものでもないかもね? 澪くんが知りたいなら、二人っきりで……教えるよ」

 何か意味深な笑みを浮かべて、そう返事をする犬伏先輩。



「いや、あの……え?」

 え!? 何か変なことを聞いたつもりはない、のだけど。

「い、いやだって! ちょっと今だとさすがに目立ちすぎますし! それに私一人しかいないので、理由次第でうまく時間を振り分けたりすれば、その、皆さんの要望に応えやすいかなって……!!」

 なぜか責め立てられそうな気がしたから慌ててそう弁明すれば、撫子さんは当然の如く深々と溜め息を吐き出すし、かすみは俯かせる角度を更に大きくて、しかもなぜかちょっと不満げ。犬伏先輩はからからと笑って頷いてるし。

「あはは! それは確かに、尋ねないとわからないよね!」

「あのね……澪あなた、ちょっと澪すぎるでしょう」

「み、澪ちゃん、……あ、あのっ、…………え、と……」

 ぷしゅぷしゅと、煙を吐き出しそうなくらい真っ赤でカタコトのかすみをそっと、撫子さんが止めて。

「……まぁあなたの言う通り、私たちが澪の時間を作ろうとしているのは間違いないけど。それはそれぞれの理由からで、告げるタイミングだってあるから、理由は一旦気にしないで」

「ただまぁ、一緒だと困るのはそうだろうね。どうする? 私たちでメッセージグループでも作って、そこで決めるようにしようか?」

 建設的な提案をしながら、犬伏先輩の声は明らかに笑いを堪えてるものだし。かすみは撫子さんに止められたので何だかほっとしているようで、どうも本当にそのまま尋ねるのはまずかったらしい。

 なんで?



「え、ええっと……じゃあ今日は、……どうしたら」

「……わ、私は、……澪ちゃんと二人で帰りたい」

「わたくしは、あなたにお願いしたいことがあるから、譲るつもりはないけれど」

「さて。理想的には澪くんに誘われることだけど、私から誘っても問題ないよ」

 そうしてぶつかる要請に、三人も三人で互いに顔を見合わせて、頷く。

「……いいわ。ええ。こうなるのは当然だもの。であればやることは簡単よ」

 私は全然わかってないのに、もうすっかり通じ合っているのか撫子さんがそう代表すれば、他二人もこくりと頷いて。


「正々堂々、競い合って誰が澪と過ごすかを決めましょう。方法は、そうね……」



 と。撫子さんが、堂々と告げたそんな時。

 突然、ぴんぽんぱんぽーん、と校内放送が鳴り響いた。



『せ、清正院学園高等部生徒会!! 生徒会の皆さん、大至急――体育館!! 体育館へお集まりくださ――あっ!!』

「……」

「……」

「……」

「……」

『訂正します!! 生徒会の――いえもう会長!! 副会長!! 早く、体育館跡地へ――!!』



 ごごごごご、と唸る響きと共に、窓の外で体育館が――離陸している。



「………………そうね」

 唇の端を引き攣らせながらも、撫子さんはあくまで冷静さを保った声音で呟くと、こくりと一つ頷いた。

「あれを最初に止めた誰かが、澪と過ごせることにしましょう」

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