「えー?だってあたしは、自分が生きるために出来ることをしただけだもん。それにあたしだって、ジェスティード様には散々酷い目に……は、今はもういいんだけど。でも、フィレンツェア様が婚約破棄したがっていたっていうのにはめちゃくちゃ驚いたかも!だってあんなにジェスティード王子に依存してたのに……うふ、うふふ!
こちらは反省どころか楽しそうにピンクの髪をふわふわと揺らしている。セイレーンはなぜかクロの鬣の束を羽先で器用にくるくると癖をつけていた。そしてうねり具合を確認するとピカッと光らせてストレートに戻してまたくるくる……え?それって治癒?治癒魔法って癖をつけた毛をストレートヘアに出来るの?!治癒魔法の使い方、それで合ってるのかしら??うん、まぁ……クロが何も言わずに好きにさせてるんだから別にいいか。セイレーンが自由過ぎるのはよく知っているし、機嫌も良さそうだしね。それにしても、さっきからルルがしゃべる度にエメリーの血管が切れそうになってるんだけど大丈夫だろうか。
「でも、アオは……このままだとどうなるのかしら?私を守るために力を使ったせいで逃げられなくなっちゃったんでしょう?ねぇ、クロ。アオはほかに何か言っていなかった?捕まっている場所とか、犯人のこととか……」
クロを助けたアオの本体は捕らえられたままだという。それにアオが弱ってるとも。一刻も早く助け出さなくてはアオの身が心配だ。
『さすがに、そこまでは聞けなかったな。アオもあまり詳しくはわからないと言っていた。ただ、人間が“賢者の力”を悪用しているようだとか、もしかしたら強い精霊が関わっているかもしれないと……だから、フィレンツェアお嬢ちゃんに気をつけろと伝えたかったみたいなんだ。だが、その後はすぐに消えちまった。きっと本体に戻ったんだと思ったよ。……そんで、フィレンツェアお嬢ちゃんにどう説明しようかと頭を悩ませていたらセイレーンと出会ったんだ。怪我も治癒魔法で治してくれたし、こうやって仲介もやってくれた……そこは感謝してるんだぜ』
「じゃあ、ジェスティード様のことはもう許してくれる?」
『それとこれとは別物だろうが』
「パーフェクトファングクローちゃんのケチ!」
べーっと、舌を出してから口を尖らせたルルを見て、クロが『クロと呼べって言ってるだろう』と、深いため息をついた。なんだかんだ言ってもルルにそこまで恨み言を言うわけでもないし、あれやこれやと世話焼きな雰囲気を醸し出している気がする。……クロって、神様がなにかで言っていた“おかん属性”ってやつだろうか。
『……ジェス坊、女を見る目が無かったんだなぁ』
そう呟いたクロは、どことなく寂しそうにも見えた。
「もう、パーフェクトファングクローちゃんったら酷いんだから……。まぁ、でも確かにあたしも悪かったしぃ、ここは汚名返上といきますか!なんてったって、フィレンツェア様が1番欲しい情報を持ってるんだらね!」
その言葉に、私とクロの視線が集中する。自信満々のルルはピンク色の瞳を細めてにぃっと笑った。
「ルルさん、それってまさか」
「……精霊を捕まえて悪いことをしようとしてる国、ひとつ知ってるんだぁ。ねぇ、フィレンツェア様……もしもその捕まっちゃってるっていう精霊たちが、誰かの守護精霊だとしたら……その人間はどうなると思う?」
最後のクッキーをパクッと口に放り込み、咀嚼してから残った紅茶を一気に飲み干すと、ルルは空のカップを私に見せた。
「……それって、守護精霊のいなくなった人間……“加護無し”を人為的に作るってことだよね。特に平民が“加護無し”になったら人権なんてほとんどないようなものだもん。悪いことを企んでるヒトたちには魅力的な実験なんじゃない?……隣国のアレスター国がそんな実験をこっそりしてるらしいんだけど、もしかしたらそこにアオちゃんも捕まってるんじゃないかな?」
『ルル嬢ちゃん、どこからそんな情報を……』
「ん~~?それは乙女の秘密ってことで!それに、パーフェクトファングクローちゃんの話を聞いて思い出しただけだからぁ。なんか、教会が怪しいとかね。まぁ、信じるかどうかはお任せするよ」
「ルル・ハンダーソン嬢!これを見て!」
それまで黙っていたお母様がどこからか引っ張り出してきた地図テーブルに広げた。そこにはアレスター国が載っていて、いくつかの場所に赤い丸印が付いていた。
「……実は、最近アレスター国の貴族が裏で不審な動きをしているようだと情報が流れてきたの。あの国には教会があるのは知ってるわね?あいつら、精霊の在り方や“加護無し”の存在について他の国よりも危険な思想を持っているのよね。これは、本当はまだフィレンツェアには聞かせたくなかったけれど……アレスター国で突然守護精霊が失踪して、“加護無し”になった人間が続出しているらしいのよ。それを“厄災”と呼んでいて、教会の奴らがこの国にも“加護無し”狩りに来てるってね……。ブリュード公爵家の力で調べて怪しい場所がいくつかわかったんだけど……わたくしたちは何がなんでもアオちゃんを助けたいのよ!その為なら調べる価値はあるわ。……あなたには詳しい事がわかるのかしら?」
その地図を指でなぞりながら、ルルは「わかるかも〜」とひとつの場所を指差したのだった。
その後はクロも混ざってお母様と意見交換をしていた。意外と気が合うようだ。しかもルルの示した情報はお母様から見ても信憑性があったようだ。アオを助ける手立てが見つかるかもと、私もみんなもそちらに集中していた。
だから、ルルの小さな呟きには誰も気が付かなかったのである。
────────でも、
と。