「それは……」
考えれば、それはたくさんある。きっと私が知らないだけできっともっとあるのだろう。そしてやっと、セイレーンが私に言った言葉の意味を知ることができたのである。
「アオは……どこかに捕まっているのね?」
『アオ……そうか、あいつはアオというのか。まぁ、そうらしいな。そのアオが言うには、自分もショックな事があって外に飛び出した時に不意打ちで捕まっちまったんだと。だから咄嗟に公爵家とフィレンツェアお嬢ちゃんに保護の魔法を使ったんだそうだ。だが、下手に力を使い過ぎたのがいけなかったんだろうな。たぶん、闇の魔法に捕らえられて本体の時間を止められているんだ。だから姿を消したり体を小さくして逃げ出す事が出来ねぇ。だが、精神だけを抜け出させてなんとかしようとしているようだったぜ。さっきも言った通り少ししか抜け出せないから、情報を集めるのも一苦労みたいだけどな。もしも俺様が捕まっていたらたぶん精神だけ抜け出すなんてそんな無茶なこと出来なかった……俺様は、あんなに強い精神力を持つ精霊なんて初めて会ったんだよ。だから俺様は、アオに約束したんだ。お前さんが戻ってくるまでフィレンツェアお嬢ちゃんを俺様が必ず守るってな。いや、別に契約してくれとかそんなんじゃねぇんだ。臨時の護衛だと思って側に置いてくれりゃいい』
そしてクロは『アオにも、頼むって言われたんだ。受けた恩は返さねぇとな』と笑った。
「フィレンツェア様ってどっか鈍いもんね!あんなに粘着質なオーラに守られてるのに全然気付かないし、自分でも“視える”はずなのに意識しないと“視ない”んだもん!しかもそのオーラ、フィレンツェア様に悪意を向けた相手に自動で飛散される仕組みみたいだし……案外あっちこっちでその“不思議なこと”が起こりまくってたんじゃない?まぁ、あたしも最初はセイレーンに言われるまでわからなかったあんまり人のこと言えないんだけどね。あ、あと防衛本能的な感じもついてるっぽいよ!フィレンツェア様が心底嫌がったら発動するみたいね?あたしもね、パーフェクトファングクローちゃんの話を聞いてやっとわかったの。“加護無し”なはずなのに、ずっと変だと思ってたんだぁ。……フィレンツェア様はちゃんと精霊に愛されていたんだね。守護精霊がいるって、早くみんなに言えば良かったのに!そうすれば“加護無し”だなんて差別受けなくてよかったんじゃないの?」
「それは……」
ルルにそう言われて、その理由をクロに聞かせていいものかわからなくて言葉を濁してしまった。すると、クロが小さく息を吐いたのだ。
『ジェス坊のせい、だろ?ジェス坊のフィレンツェアお嬢ちゃんに対する態度は俺様から見ても酷いもんだった。きっと婚約破棄するために隠してたんだろうな……。もし守護精霊が出来たなんて王家に知られたら婚約破棄なんてひっくり返っても無理だろうし、だからといってジェス坊の態度が今更良くなるとも思えねぇ。あいつは、フィレンツェアお嬢ちゃんを蔑むことで自分のプライドを保っていたからな。こう言っちゃなんだが、結婚したら今よりもっと酷くなっちまうだろうな……きっとフィレンツェアお嬢ちゃんには地獄だったろうよ。それなら“加護無し”のままの方がまだ婚約破棄のチャンスがある……そう思っても仕方がねぇ。それもこれも、全部俺様が最初の顔合わせの時にフィレンツェアお嬢ちゃんを警戒なんかしたせいだ。ほんとにすまねぇことをした』
深々と頭を下げるクロの姿に、私は「いいの」と答えた。
「あの時はアオの事を知らなかったから本当に“加護無し”だったし、私も無理矢理ジェスティード王子の婚約者になろうとして酷かったから警戒されてもしょうがなかったもの。私の方こそ、勝手に婚約者になって勝手に婚約破棄したいなんてわがままよね。心配かけてごめんなさい、クロ。でも、そんなジェスティード王子の守護精霊を辞めたって……クロは大丈夫なの?」
『……フィレンツェアお嬢ちゃんは懐がでけぇな。しかし、それを差し引いてもお嬢ちゃんを婚約者に認めたのは国王で、ジェス坊の父親だ。王家に生まれたら政略結婚は当たり前のこと……なにより自分のための政略結婚だってことをジェス坊がちゃんと理解していたらこんなことにはなってなかったのに、ジェス坊は人として言っちゃならねぇことまで口にしていた。ジェス坊にはがっかりしたんだよ。……もう俺様には、ジェス坊が何を考えているのかわからなくなっちまったんだ。お手上げってやつだ。……だから、フィレンツェアお嬢ちゃんが自由になっても俺様が誰にも文句は言わせねぇさ。
それに、俺様のことなんかもういらねぇって先に言ったのはジェス坊の方だからな。俺様は最後にその願いを叶えただけさ。精霊にだって“気持ち”っつうもんがあるんだから、信頼関係が無くなったらもうダメなんだ。どんなに大切だったにせよ、心が折れちまったらどうしたって戻せないんだよ。なんでも新しい守護精霊候補は山ほどいるらしいから、どうとでもするだろうさ。確かに、王家の魂なら興味を持つ精霊もいるかも知れないからな。もうジェス坊の好きにしたらいいさ……。
まぁ後はなんというか、……今回手を貸してくれたことには感謝してるが、俺様がこんなことになったのはルル嬢ちゃんにだってちょいとくらいは責任があると思わねぇかい?その辺はどう考えてるのか聞かせてもらいたいんだがなぁ』
そうして、クロは物言いたげな視線でチラリとルルの方を見た。確かにジェスティード王子が暴走した原因はルルなのだから、クロからしたら複雑な心境なのだろう。