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第115話  アオの行方①


「ジェスティード王子の守護精霊ですって……?!」


 確かに目の前にいるその精霊は、小さなフィレンツェアの記憶にあったジェスティード王子の守護精霊そのものだった。ひとつ違うと言えばあの時はやたら警戒されていたけれど、今はしょんぼりと下を向いて覇気のない顔をしているところくらいだろうか。


「なんかねぇ、あの日の帰り道に怪我しててしょぼーんとしてるのをセイレーンが見つけて拾ってきちゃったんだよね。元の場所に戻してきなさいって言ったんだけど、セイレーンが彼を気に入っちゃったみたいで、どうしてもって言うからさぁ。それに、詳しく話を聞いたらフィレンツェア様が興味ありそうなコトを知ってたから……どうせならって連れてきちゃったんだ!あ、念の為に昨日は1日しっかり休ませたらとっても元気だよ!ね?パーフェクトファングクローちゃん」


『……めんぼくねぇ、フィレンツェアお嬢ちゃん。だが俺様は、どうしてもお前さんに言わなきゃいけない事が出来ちまった。俺様は……“青い精霊”にでけぇ借りが出来ちまったんだ』


 そう言って頭を下げたライオン精霊は『ジェス坊の事が気になるだろうが、安心してくれ。俺様はジェス坊の守護精霊をクビになっちまったんだ。だから今は何の繋がりもねぇ。もう、今はその辺にいる野良精霊と同じだからよ』と乾いた笑いをした。よく見れば鬣の中に埋もれている小さくなったセイレーンがしっかりとしがみついている。セイレーンの羽と鬣が絡まって身動きが取れないようにも見えるが、セイレーンのキラキラとした表情を見ればその気持ちは一目瞭然だった。


 お母様の許可を得てルルたちを客間へと通すことにすると、エメリーが眉を顰めている。これまでのルルの所業がどうしても許せないのだろう。すると、ルルがエメリーの前を通りすがる瞬間、エメリーの体がぽわっと光った。


「ハ、ハンダーソンさん?!これは……」


「なぁにぃ?あ、セイレーンが勝手に治癒魔法を使ったみたい!嫌がってたのにごめんね?ほら、精霊って気まぐれだから〜!えーとそれで……あの、フィレンツェア様の悪口いっぱい言ったのは反省してるから、それも……ご、ごめんね?もう言わないし!

 ほら、早く行って公爵家のお茶とお菓子を堪能するよ!セイレーン、パーフェクトファングクローちゃん!」


 少し照れたようにそっぽを向いたルルが早歩きで進んで行くと、エメリーがさらに複雑そうに顔を歪めていた。どうやらルルは、これまでエメリーに嫌な思いをさせたことを謝りたかったようだ。


 そして客間の前で止まり振り返ると「フィレンツェア様も今までごめんねー!」と言ってそそくさと部屋に入ってしまったのだ。……なんで我が家の客間の場所、知ってるのかしら?








***







「それで、今度こそ全部教えてくれるのよね?」


 ルルがよくわからないのは今更ということで、お茶をひと口飲んで気持ちを落ち着けてから目の前のルルに向き直った。部屋の中にはもちろんエメリーとお母様もいる。エメリーの突き刺すような視線も気にせずにクッキーを頬張っているルルの精神はどうなっているのだろうか。


「うん、そのつもり。それに、学園内で話すより公爵家で話した方が安全かなって思ったからここに来たんだもん。でもその前に、パーフェクトファングクローちゃんの話を聞いてあげてくれるかな?」


「えーと、パ、パーフェクトファングクローさん?」


『クロと呼んでくれ。その名前は長くて呼びにくいだろう。それに、ジェス坊の守護精霊を辞めたから本当なら今は名無しなんだ』


「クロね……わかったわ」


 そう言って鋭い爪先で器用に頬を掻いているクロはやはり寂しそうに肩を落としている。それを見てセイレーンが心配そうに跳ねていた。


『実は……』


 そして、クロはあの日何があったのかを教えてくれた。私とルルがカンナシース先生の長い話を聞いている間に、男子の方ではとんでもない事になっていたのだ。


『ジェス坊が無理矢理乗り込んだんだが、その時からずっと“変な気配”は感じていたんだ。だが、よくわからなくてな。ジェス坊は俺様の言うことに耳を貸さないし、結局何ひとつ止められなかった。誰もジェス坊のせいで怪我をしなかったのだけが幸いしたよ。俺様は精霊だし、実体化した時に負った怪我は精霊化すればほとんど無効になる。だが精霊化すると、逆にどうしても精神こころの傷が酷くなっちまってな……さすがにショックが大きくて外をフラフラと彷徨っていたら俺様は何かよくわからない力に吸い込まれそうになったんだ』


 その力はとても強くて、ショックで弱っていたクロは抗えきれなかったのだそうだ。


『怖いと感じる力だった。強い怨念とかそんな感じだ。精霊を捕らえてどうにかしてやろうって悪い気持ちが溢れかえっていて、俺様はその力に負けたんだ。そして、もうダメだと思ったその時……“青い精霊”が助けてくれたんだ』


 姿は見えなかったが、青いオーラの塊がクロを引っ張ってくれたのだと言う。そしてその怖いその何かを跳ね除けたと。


『そいつが言ったんだ……これは“賢者の力”だと。その意味はわからなかったが、どうやら他にもたくさんの精霊が同じように捕まっているらしいんだ。それを、“早くフィレンツェアに教えないと”ってな。だがそいつは今、精神だけの状態で本体が捕まっちまってるらしく、あまり長い間離れられないし、行動範囲が限られているからフィレンツェアお嬢ちゃんのところまでどうしても辿り着けなかったそうだ。お嬢ちゃんを守る為に力は残してきたけれど、それもいつまで保つかわからないって心配もしてたぜ。しかも、俺様を助けるためにも力を使ったからすぐ本体に戻らないといけなくなっちまったんだと。そいつの力がどんなモノかは知らねぇが……なぁ、フィレンツェアお嬢ちゃん。これまで周りに不思議な事は起こってなかったかい?』





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