えーと、名前は……パー……ナントカかんとかクロー?だったかしら?やたら長かったし、ジェスティード王子からちゃんと紹介されたたわけじゃなく呼ばれている名前を聞いただけだったからそこらへんは曖昧なのだ。私から聞ける雰囲気でもなかっし。ジェスティード王子は最初からあからさまに私を嫌っていたし、“加護無し”だと散々馬鹿にしていたから、自分の守護精霊の警戒した様子に紹介するに値しないとでも思ったのだろう。
ただ、自分の守護精霊は鬣が美しい金色でかっこいいからすごいんだとか、めちゃくちゃ強くて賢くって、そんな守護精霊に選ばれた自分はもっとすごいのだとか、全く中身の無い自慢話だけはやたらしつこくされて「おっと、お前には守護精霊がいないからこんな事言ってもわからないよな」と鼻の穴を膨らませながら笑われたんだっけ。
そして私に向かって、そんな自分が王様になるための踏み台なのだから有り難く従っていればいいとか……。所詮、“加護無し”の利用価値なんて爵位と金くらいしかないとか……。あー、嫌なことを思い出しちゃったわ。小さなフィレンツェアが動揺しちゃったせいで、どんどん記憶が流れてくるのを止められなくなってる。ジェスティード王子の自分語りをしている記憶なんていらないんだけど……でもこうなったら小さなフィレンツェアが落ち着くまで私には止められない。かなり馴染んだとはいえ、やっぱりまだ小さなフィレンツェアの方が私より強い証拠だ。
小さなフィレンツェアも、せっかく色々と吹っ切れたはずなのにどうしても過去のトラウマが消えないみたいなのよね。
ああ、それにしても……今更言っても仕方がないんだけど、小さなフィレンツェアはほんとになんであんなクソ王子なんかに縋り付いていたのかしら。たぶん、追い詰められて視野が狭くなっていたのよね。でも少し視点を変えられれば全然大丈夫だったのに。
もう少し早くそれに気付いていれば、私が転生してこなくったって小さなフィレンツェアの人生は何か違っていたはずだと思うともどかしい気持ちでいっぱいになった。今から考えると、神様ってばフィレンツェアに恨みでもあったのかってくらい酷い設定である。
「ああ、もう!」
雑念を追い払おうとブンブンと頭を振った。どうしても小さなフィレンツェアの気持ちに引っ張られてしまうせいで思考がめちゃくちゃになってしまう。
とにかく、今はアオを見つけるのが先決なのだ。やっぱり家でジッとしていても何も解決しない。どうせ何もしなくても悪役令嬢だと罵られるなら、いっそルルの所へ乗り込んででも話を聞かないと先へ進めない気がした。
「よし、行こう!」
思い立ったが吉日。神様が教えてくれた色々な言葉の中にそんなのがあったのを思い出した。決意したらすぐに行動のが結局1番良いのだとか。
そう思って、部屋着を着替えようと服のボタンに手をかけた時。勢い良く部屋の扉がノックされた。
「どうしたの?」
「フィレンツェアお嬢様、大変でございます!」
「エメリーさんが……!」
慌てたメイドたちの言葉に、一瞬エメリーがまた怪我をしたのかと嫌な考えがよぎった。メイドたちは余程慌てていたのか乱れた息を整えながら報告を始めた。
「れ、例の男爵令嬢が乗り込んできたんです!フィレンツェアお嬢様に会わせろって言ってきて、エメリーさんが追い返そうとしたんですが……」
「その、大切な話があるからって……フィレンツェアお嬢様に伝えてくれたらすぐわかると言われ、エメリーさんは玄関先で男爵令嬢と睨み合いをしていますので代わりにわたしどもが伝言を預かってきました!」
「伝言?」
するとふたりは大きく息を吸い、はっきりとこう言ったのである。
「「“青い精霊”がピンチみたいだよ。と」」
「それって、もしかしてアオ様のことでは……?!」
「なんでこの男爵令嬢がそんなことを知っているのかはわかりませんが、我々の守護精霊たちが総出で行方を探しても見つからなかったアオ様の手がかりになるんじゃないかと思って……!そうしたら、エメリーさんが早くお嬢様にお伝えするようにと……!」
「……!」
私が急いで玄関先へ向かうと、確かにそこにはルルがいた。モップを持って仁王立ちしているエメリーとの間には火花が散っているかのようだ。
「エメリーちゃん、いつもに増して怒ってるね。こわーい」
「あなたが嫌いだからです。気安く名前を呼ばないでください」
「怪我してるの?治してあげようか?」
「結構です。それより知っている情報を全部白状なさい」
「クラスメイトなのに冷たーい。うふふ、どうしよっかなぁ〜」
あ、エメリーの額に青筋が……。もう、なにこのバッチバチ状態。ルルに至ってはわざとエメリーを煽っているようだけど、一体何がしたいのか。早く止めないと、エメリーの血管が切れちゃうわ。あ、お母様が離れた場所で様子を見てる!使用人たちみんなも遠巻きに見ていないで、誰か止めてよ!
「……ちょっと、ルルさん?!」
私が慌ててふたりの間に入ろうとすると、エメリーが「お嬢様、危険ですからハンダーソンさんに近寄ってはいけません!」と私を庇うように前に出た。それを見てルルがピンク色の瞳を細めて笑っている。
そうだ。ルルに感じる妙な違和感……それは、ルルのこの態度だ。
まるで、“違いを確かめている”かのようなこの瞳の輝き。
ルルの
そして私と目が合うと、ルルはご機嫌そうに手を振った。
「フィレンツェア様!あたしとお話、しーまーしょ♡今日はすっごいお土産も連れてきたんだよ♪」
「お、お土産って……あなた、何を考えて「うふふ♡まぁ、いいから見てよ」え」
私の言葉を遮り、ルルが「ほら」と自分の隣を指差す。すると、何もなかったその場に金色の鬣を持つライオンが……精霊が姿を現したのだ。
「その精霊は……」
「じゃーん!なんとジェスティード様の守護精霊