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第113話  想定外の来客②

「それで皆さん、そのせいで今は上唇だけがパンパンに腫れて真っ赤なタラコのようになっていました。わたしは思わず笑いそうになっても必死に耐えましたが、他の生徒たちには笑われていましたよ。それで、それもこれも全部“加護無し”のせいだとのたまわっているようなんです。“加護無し”を無能だと言い回っていた同じ口で、その“加護無し”のせいで不幸になっているだなんて矛盾もいいところでございますよ!

 もちろん誰もそんなこと信じませんから周りからは全く共感も同情もされていませんでしたけどね!逆に“加護無し”なんかを怖がっているなんてとんだ臆病者だと、さらに笑い者になっていました!あの慌てふためく様子……ふっ……いい気味です!」



 そう言えば、そんな人たちもいたなぁ。と、ぼんやりとした記憶を探る。小さなフィレンツェアもその令嬢たちにはあまり興味がなかったようで、顔すらもよく思い出せないでいた。それって小さなフィレンツェアをイジメてた令嬢たちよね?居たのは覚えてるんだけどなぁ。うーん……まぁ、いいか。


 それにしても水難なんて災難だったわよね、お気の毒に……………………って。いや、待って。水が凍ったって言ったわよね?それって、もしかして────。



 すると、エメリーが「お嬢様、ご安心ください!」と軽く握った拳で自分の胸をぽんと叩いてみせた。私が急にぼんやりしだしたから令嬢たちによるイジメを思い出して落ち込んでいると思ったらしく元気付けようとわざと明るい声を出しているようだった。エメリーだって私の侍女だからってだけで陰湿な嫌がらせをされていただろうに、ずっと私の心配をしてくれているのだ。


「もちろん、そんな愚か者も含めてそのままになんかしておきませんよ、フィレンツェアお嬢様!この不肖エメリー、お嬢様の悪口を言った輩共の顔と名前を全て記憶してきております!ちゃんとリストを作って執事長様にお渡ししておきますので、なんならそいつらの家ごと圧をかけてひねり潰してやりましょう!粛清でございますよ!!旦那様……は、きっとまた気絶してしまいますから、奥様ならすぐに実行してくださると思います!」


 ちょっとハイになっているのか、エメリーの興奮状態がヤバい。栗色の瞳が爛々と輝いている。アオがいなくなったとわかった時もかなり落ち込んでいたし、元気になってくれたのは嬉しいのだけど性格変わってきてないかしら?


「エメリー……ありがとう。でも、今はそこまでしなくていいから少し落ち着いてね?それにほら、あんまり無理すると傷に響くかもしれないわ」


「とんでもないです、このくらいなんでもありませんよ!それに、フィレンツェアお嬢様のお役に立てられると思ったらなんたか怪我も治ってきた気がしますし!だってわたし、お嬢様を馬鹿にする奴らがどうしても許せないんですから!……でも。そうですね、お嬢様がそうおっしゃるのならわかりました。リストは作成するだけにしておきます……。あ、どうせならわたしの守護精霊にお願いして、奴らの弱みとか弱点とか恥ずかしい黒歴史なんかを調べ上げてレポートに纏めましょうか!護衛さんや使用人みんなの守護精霊の中には噂好きの精霊もいるはずですからきっとみんなも協力してくれると思います!ド派手な粛清がお気に召さないのなら、裏から手を回してジワジワと……」 


「あー……、とりあえず実行するのはやめてね。まぁ、調べるだけなら……それでエメリーの気が済むならお願いするわ。くれぐれも無理はしないでね」


「承知いたしました!!」


 こうしてエメリーはとても元気になった。泣かれてばかりよりはいいかもしれないが、やり過ぎないようにエメリーの守護精霊にお願いしておこう……。やっぱり目的があると人間は変わるんだなぁ。と思ったのが昨日の夕方のことである。




「……噂の事は別にいいとして、このままじゃいつまで経ってもルルから話が聞けないのが困ったわ」


 お母様たちにあまり心配はかけたくないが学園に行かないとルルと接触出来ないのだ。こうしている間にも時間ばかりが過ぎてしまい、アオを探す手がかりがひとつも見つからない。そんな状況に私はモヤモヤとしていた。アルバートも絶対に何か知っているようなのに全然教えてくれないし……。小さなフィレンツェアには優しいのに、私には意地悪じゃない?



 そう言えば。と、あの時の事を思い出す。



 ジェスティード王子の乱心ぶりに何があったのか聞いても、グラヴィスからは詳しい調書作りは後日にするからとだけ説明されて帰されてしまったが先生たちの顔には明らかに動揺の色が見えていた。アルバートがこっそりと簡単に説明してくれたが、ジェスティード王子が乱入してきた上にお互いの守護精霊を巻き込んでジュドーと一悶着あったのだと言っていたっけ。先生たちは口を噤んでいるようだがどこからか話が漏れてあんな噂に発展したのだろう。


 確かに違う国の王子同士が言い争いなんてしたら場合によっては笑えない事態になる可能性もあるかもしれない。教師からしたら悩ましい問題には違いないか。


 あれからジュドーとは話が出来るような状態ではなかったが、あの時ジュドーの守護精霊が小さく丸まって震えていたのをよく覚えている。ふたりの喧嘩に巻き込まれたとはいえ、余程怖いものでも見たのか……。


 ……そう言えば、ジェスティード王子の守護精霊はあの場に見かけなかったな。小さなフィレンツェアが「王子の守護精霊は心配性で過保護らしい」と聞いたことがあると、私に記憶を見せてくれた。


 確かライオンの姿をした守護精霊だったはずだ。ジェスティード王子との婚約が決まった時に一度だけ姿を見たことがあるが、“私”の事を妙に警戒していたのを小さなフィレンツェアがはっきりと覚えていた。やっぱり“加護無し”だから精霊にも嫌われているんだと、悲しくなったから忘れられないらしい。あの時の小さなフィレンツェアは、婚約者の守護精霊なら仲良くなれるかもって少しだけ期待していたのよね。でもその期待が見事に外れてしまったのだ。まぁ、実際はアオの気配が周りを威嚇していたから精霊たちに逃げられていたんだけどその時はそんなこと思いもしなかったから。


 私の中にある小さなフィレンツェアと共有している記憶の蓋が開き、その時の感情が流れてきたからか私も少し悲しくなった。


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