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第112話  想定外の来客①


 あの騒ぎからすでに2日。あの後、午後の授業を受けずにすぐに帰宅すると、いつものごとく公爵家は大騒ぎになっていた。密偵から私がジュドーやルルに絡まれて教師に連行されたようだとの報告を受けてまさに今から学園に抗議をしに行こうとしていたのだと言うではないか。


 もちろん即座に止めましたとも。これ以上話を大きくしたらグラヴィスの胃に穴が空いてしまうかもしれない。それに、使用人たちまでめちゃくちゃ殺気立っていて、雰囲気がまるで聖女時代に見たことのある市民たちの起こしていた一揆そのものだったんだもの。あれは食べ物や薬を求めての事だったけれど、学園に乗り込むのをあれほど躊躇していたお母様までその気になっていたからかなり危険だと思ったのだ。まさに危機一髪である。アオが姿を消してから屋敷全体がピリピリしていたから余計だろうか。


 そして案の定お父様はお母様の足元で気絶していた。気絶する前に是非お母様を止めておいて欲しかったが、やっぱり無理かな……。


 さらに、一息つく暇もなく侍女のエメリーには「わたしがご一緒していれば!」と散々泣かれてしまった。でもエメリーはまだ怪我が治りきっていなくて療養中だし、リハビリの為に屋敷内で簡単な仕事はしているけれど学園に登校するのはまだ無理なはずである。勉強自体は執事長がそれなりに教えてくれるから授業に遅れることはなさそうだけど、やはりエメリーの体が心配なのだ。そう言えば余談だが、あの護衛がエメリーの事をすっごく心配して気遣っているらしいと他の侍女たちやメイドが言っていたのを思い出した。こんなところにも神様の好きそうなラブロマンスは散りばめられているようである。小さなフィレンツェアも大喜びだ。


 まぁ、そんなわけで騒動に巻き込まれた事を知った両親や使用人たちからの強い要望によって私は学園を翌日から数日お休みすることになり、自室でこれからどうしたものかと頭を悩ませているわけである。最近は悩んでばかりな気がしてきた。1日目はさすがに大人しくしていたが、私がお母様によってベッドに軟禁されている間になんとエメリーが学園に偵察に行ったらしく情報を仕入れてきたと意気揚々と顔を見せてきたのには驚いたが。なんでも変装までして私の侍女だとバレないようには聞き込みをしてきたのだとか。本人は「これもリハビリの一環です!」と堂々と胸を張っていた。



 なんと、学園ではすごい勢いでたくさんの噂が流れていると言うのだ。どうやらあの時のメンバーの私以外のみんなも学園を休んでいるらしく、残された生徒たちによって尾ヒレ背ビレをつけ無責任な憶測の加わった噂が勢いよく広がっているらしいのだ。もしジェスティード王子が聞いたら怒り狂いそうな内容が多かったあたり、普段の不満が窺い知ることができそうだった。ジェスティード王子ってば、意外と恨みを買っていたようだ。


 1番わかりやすいのは、ルルとジェスティード王子の間にジュドーが横恋慕していたとかなんとか。まぁ、ジェスティード王子が婚約者を蔑ろにしてルルに夢中になっているのは周知の事実だし、そこに女好きだと囁かれているジュドーが割り込んできたとしても不思議ではないと思ったのだろう。そして私がそれに(二人の王子がルルを取り合っている構図に)嫉妬してハンカチを噛みながら地団駄を踏んでいるとか。ついでに悪役令嬢である私はみんなに「“加護無し”のくせに調子に乗るからだ。ざまぁみろ!」と笑われているようだと、エメリーが苦虫を噛み潰したような顔をして言った。


「あんな王子なんかに嫉妬なんてするはずありませんのに、まだお嬢様が王子にぞっこんだと思い込んでいる愚か者が多すぎます!早く婚約破棄を叩きつけてやりたいです!」


「まぁまぁ……」


 その他には、ジュドーが他の女子留学生集団を侍らせていてそこにルルを加えたがっている。だったかしら?女子生徒たちを制覇してすぐにルルを迎えに行った先が私たちと遭遇したあの場所だったとか。そう言えばあの時のジュドーは乱れた服装をしていたけれど……この噂はあながち嘘ではないのかもしれない。サイテーだ。とにかくサイテーだ。やっぱり女なら誰でもいいんだわ。私にも抱きついてきたものね。


 それから……実はジェスティード王子とジュドーにはそっちの趣味があって、地味なアルバートが二人から狙われていたとか。アルバートってば、他の噂では影も形も出てこないのに、この噂でだけは容姿について色々と囁かれているらしい。だが、誰もアルバートの見た目をハッキリ思い出せないのだとか。黒髪なんて目立つはずなのに、どうしてこんなに認識されていないのだろうか?エメリーも「髪色はわかるのですが、なぜか誰かに聞かれると急にお顔が思い出せなくなってしまって……」と首を傾げて呟いていた。


 あのアルバートのことだ、きっと何かしているのだろう。小さなフィレンツェアの、あの“隠された記憶”の中で見たアルバートの秘密。それは、彼が守護精霊以外の“精霊の力”を持っていると言うことだ。人間に複数の守護精霊がいたなんて聞いたことがない。つまりあの力はアルバート自身の力……。瞳の色といい、謎が多すぎない?小さなフィレンツェアは気にしていないみたいだけど。



 まぁ、それはともかく……つまりは婚約者の私が全く相手にされないのはで、ルルに至ってはカモフラージュの為に連れ回しているだけらしい。ですって。これは私を隠れ蓑にしてルルに嫌がらせをしていたどこぞの令嬢たちが言っていたと。……そっちって、どっちだろう?



「その他にもみんな、ここぞとばかりに好き勝手に言っていましたよ。ご本人たちが一斉に休まれているし、先生方も口を閉ざしているので余計にございますね。お嬢様たちが連れて行かれた建物内では怪しい儀式をしていたとか、そこで王子殿下の守護精霊が暴れていたとか……。それから、お嬢様の悪口を言うと不幸になるって話も聞きましたよ。いつもお嬢様に陰口を言っていたあの令嬢たちはここ数日、どうも水難に遭っているそうなんです」


「え?す、水難?」


「はい!近くの噴水の水が突然その令嬢に向かって噴き出してきたり、足元がなぜか濡れていて滑って転けたり、飲水がいきなり凍って唇がグラスに張り付いて上唇が凍傷で腫れてしまったんだとか。でも周りには誰もいなくて、その令嬢たちが自分の守護精霊に聞いても目を逸らされたり知らんぷりされるんだそうですよ」


 エメリーは「もしかしたら、いつも誰かの悪口を言っている令嬢たちに付き合ってられないと思ったのかもしれません。精霊は気まぐれですからね!」と肩を竦めてみせた。







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