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第109話  失ってしまったモノの大きさは①


※ジェスティード視点




 あの後、城から3人の兵士たちが学園に俺を迎えきた。いや、連行しに来たというべきか。それにしたって、そのあまりの行動の早さには驚きしかない。ルルの存在の確認が出来たからか、あれから少し冷静になった俺はこの対応に不満を感じていた。


 たぶん、あの場にいた教師共が父上に告げ口でもしたんだろう。確かにあの時の俺は正気を失っていたように見えたかもしれないが、第二王子である俺をまるで罪人かののように拘束するなんてやり過ぎではないのか。こんな時、パーフェクトファングクローがいればこんな奴らすぐに蹴散らして……いや、あんな裏切り者とはもう絶交したんだった。しばらく顔も見たくない。それに、俺の守護精霊になりたい精霊なんて山ほどいるのだから、すぐにパーフェクトファングクローより格好良くて強い精霊を守護精霊にしてパーフェクトファングクローに見せびらかしてやるんだ!そして俺を裏切った事を後悔して、それで、もし謝ってくるなら……。


「さぁ第二王子殿下、国王陛下がいらっしゃるまではこの部屋でお過ごし下さい」


 そう言って俺の手の拘束を解くことも無く、兵士たちは椅子のひとつすらもない質素な部屋に俺を押し込んだ。口調こそ丁寧だがその態度に俺への敬意は欠片も感じられない。扱い方も雑だし、どう考えてもわざとやっているように思えてきて俺の苛立ちはおさまらなかった。


 なら、俺がこんな扱いをされていたらどこからともなくパーフェクトファングクローが姿を現して俺を助けてくれたのに!それにこいつらだって、この間まで俺と一緒に“加護無し”を馬鹿にして笑っていたくせにフィレンツェアへの暴言だけは許せないとでも言うつもりか?この偽善者どもめ!それに、パーフェクトファングクローのような守護精霊のいる俺はすごい人間だって散々褒めちぎっていたじゃないか!?命をかけて俺に仕えるとも!そんな俺にこんな事をするなんて決して許さないし、絶対にパーフェクトファングクローが黙っていないぞ!!


「お前たち!俺にこんなことをして、後で後悔しても知らないぞ……!うわっ?!」


 俺の腕を掴む兵士たちの手を振りほどこうと勢いをつけて体を大きく捩った。すると足がよろけてしまい無様にその場に尻もちをついてしまったのだ。何もないからこそケガなどはしなかったが、それを見ていた兵士たちは床に転がる俺に手を差し出すどころか冷たい視線で見下ろしてくる始末である。


 お前らなんか、つまらない守護精霊しかいないような雑魚のくせに偉そうにしやがって!


「くっそぉ……!おい、パーフェクトファングクロー!早く俺をたすけ……あ、」



 ……そうだ、パーフェクトファングクローとは絶交したんだった。そう思い出して、いつものクセでパーフェクトファングクローの名を呼んだことを気不味く感じてしまう。たぶん、いつものようにパーフェクトファングクローは姿を消して俺の側にいるはずだ。どこか近くでこの滑稽な姿を見て笑っているだろうか。それともあんな喧嘩をした手前、すぐに手助けをするのはいかがなものかと悩んで心配しているだろうか。


 しかし、これではまるで俺がパーフェクトファングクローにおんぶに抱っこと甘えているみたいじゃないか。そりゃあ、小さい頃はよく実体化してもらって背中に乗せてくれとせがんだりもしたが……。これじゃあとんだ黒歴史だ。と、だんだん恥ずかしくもなった。





 すると、そんな俺を黙ってみていた兵士のひとりがポツリと呟いたのだ。




「……パーフェクトファングクロー様、現れませんね」と。




「…………は?何を言って…………」


「いえ、なにも。では、我々は退出させていただきます。明日には陛下との面会が許可されると思いますのでそれまでお静かにお願いしますよ。それとも、そんなこともお出来になりませんか?これだから……」


「なっ!?不敬だぞ、お前たち!!だいたいこんな碌に明かりも無い部屋で一晩過ごせというのか?!今すぐ水を持ってこい!食事は?!寝具は?!なによりも、まずはこの拘束を外さないか!」


「「「…………」」」


 3人が無言のまま冷たい視線で俺を一瞥すると、そのまま静かに扉が閉められた。外からはガチャガチャと施錠する音が響くが部屋には窓もなく、隙間無く閉められた扉からも光が漏れることもない。一気に真っ暗になった部屋の中で、俺は尻もちをついたままの格好で途方に暮れるしか無かった。


 こんな所で一晩もどう過ごせばいいのか。せっかくルルに会えたのにすぐに引き離されてしまったし、パーフェクトファングクローとは喧嘩してしまうし……。ルルの無事は確かめられたが、あの時ルルの近くにはフィレンツェアがいたはずだ。あれからまたルルが虐められていないか心配だった。いっそ、パーフェクトファングクローに頼んで様子を見てきてもらうとか……いや、それだと俺から謝らないと頼み事など出来ないじゃないか。それでは格好が悪い。


 ふん、俺は謝らないぞ!!俺は決して悪くない。絶対に悪くないんだ……!



 そんな事を考えている間に、いつの間にか俺は眠っていてしまったようだった。硬い床に押し付けていた体の節々が痛かったが、人間とはこんな状況でも眠れるのだなと、妙に感心してしまう。そして実はこっそり毛布がかけられているんじゃないかとか、目立たない場所にパンと水が差し入れとして置かれているかもしれないなどと期待して辺りをキョロキョロと見回したが誰かが侵入した形跡はどこにもなかった。あれから何時間経ったのかは不明だが、それなりに時間は経過しているはずなのに。誰かが様子を見に来た気配すらもないなんて。


 ……パーフェクトファングクローはまだ怒っているのか。せっかく俺に恩を着せる事のできるチャンスだったのにそれを棒に振るなど愚かな守護精霊だ。お前がちゃんと反省してくれれば、俺だって……。


「…………パーフェクトファングクローのわからず屋め……」






「パーフェクトファングクロー殿が、どうしたと言うのだ?」








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