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第106話  厄災の起こった日①


『────正確にはぁ、“青い精霊の気配”が怒り狂ってる感じがするからぁ、早くどうにかしないと大変な事が起こるわよぉう?ってことぉ』


「……えっ?」


 突然のその言葉に私が驚きを隠せないでいると、大変な事が起こると言いながらもセイレーンはにんまりと口の端をつり上げて楽しそうに鼻歌を歌っている。そんなセイレーンを横目で見つつ、“青い精霊”と言われて私の脳裏にはすぐさまアオの姿が浮かんでしまっていた。



「……ね、ねぇ!それってどういうい『だからぁ、ルルの事はわたくしが守るからいいんだけどぉ〜他の人間はどうなっても関係ないし知らないんだからぁ。んふふ!わたくしはとぉっても優しいからぁ、ちゃあんと教えてあげたわよぉ?今度はどんなハプニングがあるのか今から楽しみだわぁ〜』あっ!ちょっと待って、もっと詳しく教えてよ!?」


 慌ててその体を掴もうと手を出したが間に合うことはなく、自分の言いたい事だけを口にするとセイレーンは再び姿を消してしまったのだ。


「もう!教えてくれるならちゃんと全部教えてよ!しかもオーラの方については結局はぐらかされたし……。それにしても……“青い精霊”が怒ってるって、やっぱりアオの身になにかあったのかしら……?」


 アオがいなくなってたったの一晩だが、その間に何があったというのか。アオが危険な目に遭っているのかもしれないと思うと心配でたまらなくなった。アオは強いし、普通の精霊ともちょっぴり違う存在だ。だから、滅多なことなんてないと思うけれど……。


「アオ……」


 前方を歩くルルとカンナシース先生にはバレないように小さくため息をついていると、足を止めたルルがこちらを振り返った。


「フィレンツェア様、ついたみたいですよ!来たときとは通る道が違っていて、なんだか迷路みたいでしたね!カンナシース先生がいなかったら迷っちゃいそう〜……先生の服、掴んどいた方がいいかなぁ」



「さぁ、この部屋ですよ。ハンダーソンさん、ブリュードさん。ふふっ、驚いたでしょう?実はこの建物の内部には学園長先生の精霊魔法によって侵入者防止のための魔法が施されているんです。ですから毎回通り道は違う仕様になるように変化するし、さらには教員の許可がなくては行きたい部屋に辿り着けないようにもなっているんですよ。下手に忍び込んだらそのままゴールの無い迷宮に閉じ込められてしまうとっても恐ろしい場所ですからね。まぁ、優秀な守護精霊がいればそのうち出られるとは思いますけれど……あらやだ、守護精霊のいないブリュードさんだったら死ぬまで出られなくなってしまうわ!面白半分で入ったら終わりよ、本当に気を付けてね?!」


 またもや、はっ!とした顔でカンナシース先生が慌てて私の手を握ってきた。たぶん、本気で私のことを心配しているのだとは……思うけれど。やっぱり何かチクチクと言われている気がするのも気の所為ではないだろう。


「……ええ、わかっていますわ。私だって自分が“加護無し”であることはちゃんと自覚していますから、大丈夫です。早く部屋に入りましょう、カンナシース先生」


 反論しても長引くだけだと察して、にこりと笑みを浮かべながら目の前の扉へと促すとカンナシース先生「そうね、そうだわ。あらやだ、わたしったら!ブリュードさんだってそこまで愚かではないわよね!だって生まれたときから“加護無し”なんですもの、誰にも守ってもらえないってじゅうぶんわかっているわよね!」と軽く握った拳でコツンと自分のおでこを小突いた。


「あ、でもわたしはブリュードさんの味方ですからね!」


「ありがとうございます」


 私の返事に満足したのかそこからのカンナシース先生は饒舌だった。チラリとルルの方に視線を向ければ「ここから長いよ〜」とジェスチャーと口パクでお知らせされてしまった。たぶん、本当に長いのだろう。


「さぁ、いいですか?この部屋の中には教師たちの統括をしていて学年主任でもあるレフレクスィオーン先生が待っておられますから、ちゃんと挨拶をしてくださいね!なんといってもレフレクスィオーン先生は国王の遠縁であり学園長の知り合いでもあるとても偉い先生ですから、決して失礼のないようにするんですよ?くれぐれも髭が邪魔そうだとか、頭部が寒そうだとかなんて口にしてはいけませんからね?人の見た目を悪く言ったりするのは最低の人間のすることです。確かにレフレクスィオーン先生は性格も見た目も醜悪で酷いものですが、立派な守護精霊がいらっしゃるんですから!それに、あなたたちが下手に逆らって機嫌を損ねてしまったらここまで連れてきたわたしにも被害が及んでしまうかもしれないし、もちろん“加護無し”の担任であるシュヴァリエ先生にもご迷惑がかかってしまうわ。それに、もしもそれが原因でシュヴァリエ先生と離れ離れにされてしまったらと考えるだけで耐えられないの……。だから、誰かに迷惑をかけるような……自分で責任の取れない事はしてはいけませんよ?」


 私とルルが黙っていると、それを肯定と捉えたのかカンナシース先生はにっこりと貼り付けた笑みを見せて「先生との約束よ」と笑った。



「それじゃあ、中に入るわよ。さぁ、ちゃんと淑女らしく素敵な挨拶をしてちょうだいね!


 レフレクスィオーン先生、お待たせしまし────あら?絶対に部屋でふんぞり返っていると思ったのに、どこへ行ってしまったのかしら……?!も、もしかしてシュヴァリエ先生に何かあったんじゃ……!」


 開いた扉の中をキョロキョロと見渡し、首を傾げた後にカンナシース先生の顔色がサッと変わった。


「先生、どぉしたの〜?」


 ルルが無邪気な雰囲気のままカンナシース先生の横から部屋を覗き込むと「誰もいませんねぇ。あ、椅子が転がってるぅ」と中に向かって指をさしている。


 そして「ほら、フィレンツェア様も早く見て〜!ね?椅子が転がってるでしょぉ?」と、慌てた様子で部屋に入ろうとするカンナシース先生の袖を掴みながら私に振り返った。何で急に椅子に固執してるのかわからなかった。








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