そんな、〈神〉らしからぬ考えが一瞬脳裏に浮かんだその時。
「そこまでだ!」
ボクの腕は誰かに掴まれ、あっという間に捻り返されてしまったのだ。もちろんジェスティードにではない。ボクから解放された腕を押さえて鼻水を垂らしながらまたもや何か長ったらしい名前のような言葉を叫んでいる。
「ジェスティード王子殿下!今すぐ守護精霊を抑えてください!!」
そう叫んでジェスティードを睨んだのは金髪にライトブラウンの瞳をした長髪の男だった。あぁ、このメガネは……そうそう、グラヴィス・シュヴァリエだ。メガネに長髪に教師で幼馴染み属性と特徴をてんこ盛りに詰め込んで作ったキャラクターだったけれど……あれ?グラヴィスってこんなに強い設定だったかな。どちらかと言うと頭を使うキャラクターにしてたはずなのに……ボクは、何かを大切な事を見逃しているんじゃ────。
「…………っ!」
しかし、それ以上ボクは思考を続けることが出来なかった。何故ならば金色の鬣を持つ大きなライオンのような姿をした精霊が、今まさにボクに牙を向けている事に気付いてしまったからだ。この精霊は強い。それはボクを押さえているグラヴィスからも緊張した雰囲気からも伝わってくるほどだった。
ボクとしたことが、その迫力に驚いて思わず息を飲み込んでしまった。〈神〉だった頃の体ならともかく、今のこの体は生身なのだ。この牙に貫かれればジュドーなんてひとたまりもないだろう。
あー、思い出した。確かこの精霊ってジェスティードの守護精霊だったよね。やっぱりメインだし王子なんだから強くてカッコいいのにしようと思ってライオンの姿を採用したんだった。いくら考え事をしていたからって油断したなぁ……うわ、殺気ヤバ。エグ過ぎて酸素が薄くなってそうなくらいなんだけど。
ジュドーの体がその殺気に本能的に反応したのか冷や汗がジワリと額に浮かぶ。……おっと、これはさすがにボクでも……いや、ジュドーがピンチかも?次に目が覚めた時にとんでもないことになってたらジュドーの奴、やっぱり怒るかなぁ?
「パーフェクトファングクロー!そいつは俺の腕を捻り上げたんだぞ?!王子の俺に対して不敬だ!そんな奴、今すぐ噛み殺してやれ!!」
「ジェスティード王子殿下、なんてことを言うんですか?!ジュドー・アレスターは留学生で隣国の王子なのですよ!そんなことをしたら確実に国同士の戦争になってしまいます!国王陛下が許すはずがありません!!」
「そうですよ、殿下!だいたい、なぜこの部屋にいるんですか?!それに、ここに来るにはレフレクスィオーン先生がいるはずの部屋を通らないとこれないのでは……」
「うるさい、うるさい、うるさぁい!!俺はこの国の王子なんだから、どこで何をしようが全部許されるんだ!それにこいつが……こいつが留学してきた途端にルルの様子が変になったんだ!俺にはわかる!今日も朝から見かけないからと心配になって探していたら衣服の乱れたジュドーと一緒に発見されたと学園中で大騒ぎだ!しかもフィレンツェアまで一緒にいたと言うじゃないか?!絶対にこいつがルルを手に入れるためにフィレンツェアと結託してルルを拐かしたに決まっているだろうがぁ!!フィレンツェアは悪役令嬢どころか悪魔のような最低の女だ!もうあんな女なんかいらない!せっかく側妃にしてやろうと思ってたのに、ルルを傷付けようとするなんて……やっぱり“加護無し”なんて碌でもないんだ!あんな役立たずの“加護無し”なんか今すぐ俺がこの手で消してやりたいくらいだ!!」
もうひとりいたグラヴィスと同じくに教員だろう男に押さえられながらもボクに勘違いも甚だしい暴言を吐き続けるジェスティードに対して一気に嫌悪感でいっぱいになった。元々なんとも思ってなかったけど、自分で作ったキャラクターをこんなに嫌いになるなんて思わなかったよ。やっぱりこいつこそこの世界に必要ないよね……。
それに、なんのつもりでフィレンツェアの悪口なんか言ってるんだ、こいつは……。は?フィレンツェアを側妃にするつもりだったの?そんなエンディング知らないんだけど。それに、確かジェスティードはフィレンツェアの婚約者だったよね?そうゆうゲームだとは言え、ヒロインと浮気してるくせに何様なのさ?
ボクは、悪役令嬢の
「……落ち着くんだ、ジュドー・アレスター。まずはその殺気を抑えなさい」
思わず殺気立ってしまったボクの耳元にグラヴィスの冷静な声が届く。だがボクを野放しにするつもりはないらしく、捻り上げた腕を離してくれそうにはなかった。こっちは今すぐにでもジェスティードの喉を掻っ切ってやりたいくらいムカついてるのにさ。……それにしても、グラヴィスがジュドーに絡むイベントなんかも無かったはずなのに、こいつも邪魔だな。