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第100話  交差する殺意①


※神様視点





 ……なんでかなぁ、ボクって毎回こんな感じなのはどうしてなんだろう?と、ボクはため息をつきたくなるのを我慢して心の中で首を傾げていた。


 それにしても、この体の持ち主……ジュドーはボクが眠っているわずかな間に何をやらかしたんだろうね?ボクは確か〈腐った神〉と久しぶりの再会をしてから色々と話をして、それから────〈腐った神〉率いる例の令嬢たちに無理難題の謎ポーズをとらされ続けたせいでやたらと疲れちゃって、そのまま寝ちゃっただけのはずなんだけどなぁ?……っていうか、ここどこなの?眠る前とは違う部屋だってことはわかるんだけどさ。


 そんな事を考えながら、深い眠りから目が覚めた瞬間にボクは「???」とクエスチョンマークを浮かべる羽目になっていたのである。なにせ身につけている服はボロボロだし、さらになぜか全身がびしょびしょに濡れている。ついでに言えば攻略対象者のひとりである王子……ジェスティード・ガイストと取っ組み合いをしている真っ最中だったのだ。それを認識するまでに数秒はかかったんだけど。


 え……。いや、なんで?と。


 そう言えば直前までジュドーが何か言っていた気がするんだよね、たぶん。……どうやらボクらの意識の入れ替わりはどうにもタイミングが悪いようである。ジュドーの意識は入れ替わった一瞬で眠ってしまったみたいで何も反応がないし、この状況の説明はしてもらえそうには無かった。最初の時はちゃんとジュドーも意識を保っていたはずなのになぁ。うーん、困った。


 まぁ、それもこれもボクの魂が強く影響し過ぎてきたせいでジュドーの魂があんまり意識を保てなくなってきたからなんだけどさ。魂が馴染みすぎるのも考えものだね。



「俺は絶対に、お前らを許さないからなぁぁぁ!!」



 興奮気味に雄叫びを上げているのはボクと同じようにびしょ濡れになっているジェスティード・ガイストだ。ボクの服を掴んでくる様子は勇ましいが、ボクにとっては脅威でもなんでもない。


 ジェスティード・ガイストは、ボクが作った乙女ゲーム〈愛を囁くフェアリーの奇跡〉のメイン攻略対象者である。やっぱり乙女ゲームなんだから登場人物は……特に攻略対象者は人が羨ましくなるくらいに美しい造形にしないといけない。そう思って特に力を入れて作ったキャラクターがこのジェスティードだったんだけど……。なんだか、実際に実物を目の前にすると思ってたのと違うなって肩を落としそうになった。これが所謂、平面と立体の差ってやつなのかなぁ?どこかのパラレルワールドではアニメが“ポリーゴン”ってのになったせいで画像イメージが違ったりするとか言うって他の〈神〉が愚痴ってたくらいだし。……うーん、その“ポリーゴン”?がどんなのかはよくわからないままだったんだけどさ。ボクの管轄するパラレルワールドには無い文化って理解が難しいんだよね。


 まぁ、それはともかく。ボクとしてはジェスティードにはそれなりにこだわりポイントがあったんだ。まず見た目に至っては金髪碧眼なのはまさにデフォルトで、顔だって誰にも負けないように完璧な仕上がりにしたはずだ。けれどキャラクターのパラメーターポイントを容姿にほぼ全振りしたせいなのか、中身がイマイチ(残念)になってしまったようだった。今もやたら綺麗な顔で馬鹿みたいに叫んでいるし……せっかくのイケメンが台無しなんだよなぁ。こんなのボクの理想の攻略対象者王子の姿じゃないんだけど。


 ……あと、実はちょっとだけ身長が低い。これは完璧王子だからこその弱点と言うかコンプレックス的な何かをつけたかったんだけど、すぐに思い付かなかったから“とりあえず”で身長を低くしただけだったんだよね。あとから何か閃いたらパラメーターをまたイジればいいやと思って放置してたんだけど……うんまぁ、バグの修正作業ですっかり忘れてただけなんだけどさ。いや、だって本当にバグだらけで大変だったんだからキャラクターの身長の事なんか(どうでもよくって)忘れちゃうよね。


 ジェスティードは噛み付かんばかりに睨んでくるが、ボクのこの体……ジュドー・アレスターの方が背が高いからどうしても見下ろす形になってしまっているのでどうやらそれも気に入らないようだった。


 と言うか、ジェスティードはまず何をそんなに怒っているのだろうね?さすがに身長の事だけではないと思いたいんだけど。王子なのに心が狭すぎるよ。


 それにしても、はボクが作った乙女ゲームの世界が元になっているから概ねの進行状況ならわかってるつもりなんだけどなぁ。こんな攻略対象者同士が……ジェスティードがやたら怒っててジュドーとケンカするイベントなんて設定した記憶にないんだけど?いくらバグってるとはいえ、この世界のヒロインってば一体どんな攻略してるのさ。ヒロインと良好な関係が築けていればその攻略対象者のパラメーターは必ず上昇するはずなのに……ジェスティードはどうもそのようには見えなかった。


「きさま、聞いているのか────ぐぁっ?!い、いだだだだっ!!?」


「えー?うん。聞いてる、聞いてる……。それにしてもうるさいなぁ……今、考え事してるんだからちょっと静かにしててくれない?」


 興奮し過ぎて鼻の穴を膨らませているジェスティードの腕を軽く捻り上げ、瞬時に床に組み伏せてみた。初めてやってみたけど意外と簡単だったな。これはボクと言うよりジュドーの体が覚えてる的なアレとか、身体能力なんかのおかげかな?


 それにしても、ジェスティードってばメイン攻略対象者で王子なくせに弱っちいよね。あ、そう言えばジュドーのパラメーターの方が基礎体力は上だったっけ?いや、それにしたって弱すぎだ。これだから顔だけの奴は…まぁ、ボクが設定したんだけどさ?


 しかし未だに大人しくせずに暴れるジェスティードに少しイラッとしてしまった。今の状況について考えを纏めたいのにハッキリ言って邪魔でしかない。ボクが作ったキャラクターではあるが、この王子自身に愛着などないのだ。





 どのみちこいつは悪役令嬢を不幸にする存在だし────別に攻略対象者がゲームから退場しても、フィレンツェアはなにも困らないよねぇ……?








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