『……ふぅーん────ああ、そうよねぇ。そう言えばあなたは“加護無し”って呼ばれてたんだったわぁ。まぁ、いいわぁ……そうそう、それでねぇ?ルルったら、実はこの学園に来てからはそれまでとは別人みたいに性格が変わっちゃったのぉ。これから始まる新しい生活に心を躍らせていた何も知らないような女の子だったはずなのにぃ、ある日突然ぜぇんぶ悟ったような顔つきになるもんだから驚いたわぁ』
私の答えが気に入らなかったのか真珠色の瞳が真偽を確かめるかのようにこちらを見つめてきたが、すぐに興味なさげとばかりに視線は前方を歩くルルへと向けられる。そして愚痴(?)とも取れる内容の話がそのまま続けられた。
『それからねぇ?その日の前日までは自分だけの王子様が現れるかもぉ〜とか、セイレーンの魔法はみんなの幸せの為に使わなきゃ〜とか、みんなと仲良くなれるといいなぁ〜とか、守護精霊だからって無理に自分の側にいなくてもいいからセイレーンだって自由にしていいんだよぉ〜とか言ってたわけぇ。昔っから夢見心地で危険な事になんかも遭ったことなくて、まるで
どんどんと私ににじり寄るようにして近寄ってくるセイレーンの言葉に耳がキーンと痛くなる。たぶん、セイレーンの強い感情が言葉に込められたのだろうか。
「わかったから、耳の側で騒がないで欲しいんだけど……」
『あらぁ、別にいいじゃなぁい。もしも鼓膜が破裂したってぇ、わたくしが治してあげるわぁ……気が向いたらねぇん』
セイレーンは気まぐれな精霊らしくにっこりと口角を吊り上げると、今度は耳から遠ざかるように体勢を変えて器用に羽を折り曲げて頬杖をついた。一応私の言うことも聞いてくれるつもりはあるようだ。どこまでがおふざけなのかはわからないが、気晴らしにとばかりに私の首筋を尾ヒレでベシベシと叩いている姿は少し楽しそうでもある。
そして、真珠色の瞳を細めると遠くを見つめるように再び息を吐く。楽しそうだった姿は今度は萎れたように項垂れている。どうやらセイレーンは感情の起伏が激しい精霊らしい。
『────でもねぇ、
それからぁ、急にそれまで言ってた事とは全然態度が違っちゃってぇ……わたくしには魅了魔法をいっぱい使っていいって言い出したりぃ、学園では絶対に離れちゃダメとかぁ。それにぃ、カンナシースっていうあの女の事や王子サマたちの事もまるで最初からどんな人間なのか知っていたみたいだったわぁ。それとぉ……たまぁにだけどぉ、わたくしの事を確認するような……変な目で見てくるのよねぇ。それがなんだが、わたくしに何か言いたいけど言えない……それが隠し事をしてるって事なのかしらぁって思っちゃったりするのよねぇ……』
「…………」
それに対して私は特に返事をしなかったが、セイレーンは気にせず『でもねぇ』と話を続けた。
『でもぉ、ルルといるのはほんとぉにすっごく面白かったのよぉぅ。何かが変わっちゃってもやっぱりルルはルルだしぃ、わたくしに素敵な恋愛模様を見せてくれる大切な人間だものぉ。わたくしはルルをこの世界で1番誰からも愛される女の子にするのが夢なのよぉう!ルルはわたくしの事をよぉくわかってくれるしぃ、毎日とぉっても楽しいわぁ。ほーんとにぃ、ルルといると退屈しないしぃ全然飽きないんだからぁ。それにルルはわたくしをものすごぉく大切にしてくれるしぃ、わたくしだってほんとぉーにルルがとぉっても大好きよぉ……でもぉ、でもねぇぇぇぇぇ────────────
「え?今、なんて……」
最後の方が今にも泣きそうな小さな呟きだった為によく聞こえなかった。思わず聞き返すがセイレーンは『……なんでもないわぁ』と言葉を濁した。そしてまたもやにっこりと妖しい笑みを浮かべたのである。
『んふふ……あなたってぇ、思ってたより面白い人間よねぇ。ルルの邪魔をする悪役令嬢だって思ってたけど……わたくしは面白い人間が大好きよぉ。ルルもあなたの事そんなに嫌いじゃないみたいだしぃ、さっきのゲームぅ?でルルが負けちゃったから約束の対価を支払わないといけないわよねぇ。なんだっけぇ?……そうそう、あなたについてる“青くて変なオーラ”についてだったわよねぇ』
「教えてくれるの……?!」
セイレーンは『でもその前にぃ』と、羽で頬杖をついたまま反対側の羽先を私に向けると美しい唇を開いてこう言ったのだ。
『────“青い精霊”が怒り狂ってるからぁ、早くどうにかしないと大変な事が起こるわよぉう?』と。