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第54話 その出会いは②

兄上はオレさえいなくなればいいと真剣に思っているようで、兄上の視線が怖かった。


 そんな時に、父王から留学するように命令をされた。行きたくなんてない。自国ですらこれなのに、他国になんて行ったらどうなるか……。それよりも兄上と仲直りがしたいのに。


 しかし王命だと言われたら逆らえなかったし、暗殺者の数が増え始めた頃……オレは兄上から逃げるように留学することになった。


 護衛にと付いてきた男に兄上の息がかかっているのは知っていた。オレを常に監視しているが、決して護衛の仕事をするつもりはないようだ。


 だからオレは”留学して来た王族として相応しくない態度“を取るように心がけたのだ。そうすればこの監視者から兄上に報告が行くだろう。オレには王太子の座への興味がないようだ。と、そう伝わってくれれば万々歳だと思ったから。


 さすがに兄上も隣の国にまで暗殺者を送り込むのは諦めたのだろう。王族の留学生が死んだとなれば国際問題だ。この国でオレの髪色はとても目立つし、誰もがオレの事をすぐに「アレスター国の王子」だと知っていたが……幸か不幸かこの国ではオレのオッドアイはあまり嫌がられていないようだった。


 まず、学園では一歩踏み込んだ途端に金を積まなくてもなぜか女生徒が寄ってくる。その数の多さがなんだか逆に怖かったのだが、慣れているフリをするのは簡単だ。これでまた「王太子には相応しくない」と言ってもらえる機会が増えそうだと思った。


 ただ……なぜこの国の女達は圧が強いのか。これは学園だからなのか?


 オレを好意的に見てくれているのはわかるのだが……なんかこう、肉食獣に狙われている気分になり時折背筋がゾクッと寒くなる感覚に襲われるのだ。いや、暗殺者のそれとは違うので命を狙われているわけじゃないとはわかるのだが。まるで、上から下まで舐め回されているような……いや、そんなわけないか。


 それと、女生徒達はよくわからないことを口々に聞いてくる。


「受けですか?攻めでも大好物です」


「ジュドー様はどのようなタイプがお好みで?わたくしはやっぱり細マッチョです」


「どこまでなら腐っててもオッケーでしょうか」


「やっぱり毎夜片目が疼くんですよね?なんなら轟き叫びますか?」


「それは封印の証なんですよね?!」


「眼帯派ですか?包帯派ですか?」


 なぜ目をキラキラさせているのか全く意味がわからない。


 オッドアイを嫌っているわけではないようだが、やたらオッドアイについて聞いてくる女生徒がいるのも確かだ。やはり珍しいものではあるらしい。


 いつもならオレに悪意を持つ人間が近付くと、オレの守護精霊……ゲイルがその人間に牽制をしてくれるのでこの女達に悪意はないはず……だか邪な何かはありそうな気がしていた。


 そういえば、学園の中に入った途端にゲイルの姿が見えない。昨夜からソワソワしていたようだが大丈夫だろうか……と不安にかられていたがなんとかその場を乗り切る事が出来た。



 それからは授業の合間にも女生徒の集団に追われ、さすがに疲れたオレは昼休みになると逃げるように人気の無い場所へと駆け込むことにした。しかし監視者はいるしとりあえず不平不満を漏らしておく。留学生の態度としてはあまりに酷いはずだ。



 これで少しはオレの気持ちが兄上に伝わってくれれば……そう思っていた時だった。パタパタとわざとらしく音を立てた、いかにもな足音がこちらに向かって来ている事に気が付いたのだ。





「しくしくしく……」




 わざとらしく聞こえる泣き声に鳥肌が立ちそうになる。初めて暗殺者が送り込まれた時、こんな風にオレに近付いてきた事があったのを思い出してしまった。しかも、かなりのトラウマになった時の事をだ。


 見たことのないピンク色の髪をしたその女は制服を着ていてこの学園の女生徒だとはわかったが、さっきまでオレを追いかけてきていた女生徒達とは全然違っているように感じた。


 その手には無残にもボロボロに破れている教科書が握られていて、一見酷いイジメを受けて泣いているように見えるが……オレの本能が「違う」と告げているのだ。


「……お、お前は誰だ」


 しかし、まさか男のオレが女生徒に怯えているなんて悟られたくなくてつい声を尖らせてしまった。だが、破れた教科書を抱き締めて泣いているその姿がなんだか気持ち悪い。


「あ!ご、ごめんなさい……!ここなら誰もいないと思って」


 すると大きな瞳からは新たな涙がポロポロと零れ落ちたのだが、すぐにこれも演技だとわかってしまったのだ。


「……っ!」


 もしかしたら新たな暗殺者かもしれないとつい息を飲んでしまったが、今度は急に距離感を詰めてオレの顔を覗き込んてくると「あの、あたし────わぁっ、あなたとても綺麗な瞳をしているんですね!その髪色もミルク色で可愛いです!……あっ、男の人に可愛いなんて言っちゃった……ごめんなさい☆」と、まるで水道を閉めるように涙を止めて、にやぁと口元を歪めてくるのだ。


 一瞬本当に刺されるかもと思って身を固めてしまった。しかしここは隣の国の学園内だ。兄上だって国際問題を起こしたりはしないはず……。


「こ、この髪は……オレの、王家の特有の色で……。でも、オッドアイは不吉だって言われるのに……なのに、なんでこの国の女共はオレに寄ってくるんだ」





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