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第53話 その出会いは①


※ジュドー視点






「「あ」」





 樹の上のと目が合った瞬間。目前に降ってくるだろうその衝撃に無意識に構えながら、もしもこのまま死ぬのなら死因は圧死かな。なんて馬鹿な事を考えながらオレはその衝撃を受け止めたのだった。






***





 オレはずっと、生まれてきてはいけなかったのかもしれないと思っていた。


 アレスター国の第二王子という立場でありながら、命を狙われ行きたくもない隣の国に留学させられた。それもこれも全部、オレがこんなオッドアイなんかに生まれたせいだ。


 アレスター国の王族は、血筋からか必ず白いミルク色の髪をして生まれていた。少し異質だったが、この髪は王家の証だ。なんなら世界各国の王族の中でも一番目立つ王族として有名なくらいだ。だが、オレのこの……オッドアイだけは違っていた。


 アレスター国ではオッドアイの瞳は不吉だと言われている。おとぎ話のような言い伝えだがそれを信じる国民は多かった。


 だからオレが産まれた時もその瞳を確認した周りの大人達が思わず「はハズレだ」と呟いたのだとか。それからオレはオッドアイを嫌う人間達から隠れて嫌がらせを繰り返されていた。



 そんなオレには兄がひとりいる。兄上はオレよりも綺麗なミルク色の髪をしていてその瞳は両目とも輝く金色だった。強くて賢くて、オッドアイのオレにも優しくしてくれた自慢の兄上だ。兄上がオレに優しくしてくれると周りの大人達もオレへの嫌がらせを減らすのでオレは兄上が大好きだった。今から思えばあの頃のオレは兄上に依存していたのかもしれない。そのせいもあってオレがパーティーなどに出ることはほぼ無かった。オレがオッドアイだと知られたらきっと兄上が恥ずかしい思いをするかもしれなかったから。



 みんなはこぞって兄上を褒め称え「王太子の座は兄王子で決まりだな」と囁きあっていた。もちろんオレもそれがいいと思っていたんだ。だって兄上は、不吉なオッドアイのオレすらも認めてくれるから。



 だが、ある時父王が言ったひと言がオレの世界を変えてしまった。





 なんとオレの両親……国王とその王妃は「兄弟のどちらを王太子にするかはまだ決めていない」と、とんでもない事を言ったんだ。



「王太子になれるのは、王族としての品格や実力を備えた人間だ」


「ふたりとも、王太子に相応しくなれるよう精進しなさい」



 両親がそう言ったその瞬間から、兄上の態度は変わってしまった。あの時の兄上の驚きと憎悪に満ちた目を未だに忘れられない。


 今までオレに優しかったのは、王太子の座が自分で決まりだと思っていたからだと……でなければ不吉なオッドアイなんかに構うはずがないと。


「お前のような瞳を持つ人間が実の弟だなどと、反吐がでる」


 それからオレは、兄上にすっかり嫌われてしまったんだ。


 毎日のように嫌がらせをされ、食事には軽い毒を盛られるようになった。オレが食中毒になり苦しんでいると使用人達は助けるどころかそれを見てクスクスと笑い「王太子の座を狙うからこんな目に合うんだ」「不吉な目を持っているくせに」と耳元で囁いていった。


 兄上は使用人達に金を握らせて両親にはバレないようにオレを追い詰めていったんだ。オレがどんなに誤解だと言っても聞いてくれない。オレの守護精霊が守ってくれなければ、きっととっくに鬱になっていだろう。


 オレは本当に、王太子になりたいなんて思ったことなど無かったんだ。しかし誰に吹き込まれたのか、兄上はオレが王太子になりたいと父王にわがままを言ったからこんな事態になったのだと信じているのだ。もちろん周りの人間も。


 オレの気持ちなんて誰もわかってくれなかった。


 そのうち兄上は「王太子の座を奪おうとする卑しいオッドアイめ」とあからさまに悪態をつくようになり、父王はそれを知っても見て見ぬ振りをしていた。オレには父王が何を求めているのかさっぱりわからなかったんだ。


 だからオレは自分の身を守る為にわざとふざけた態度をとるようにした。


 相変わらずパーティーの場は避けていたが、王族なら行かないような場所を出歩くことにした。外を遊び回るような王子に品格など無いと思ってくれればいい。しかしこのオッドアイが嫌われている自国では派手な遊びは難しかった。女遊びをしようにも構ってくれる女がいない。それでも王子の立場と金を積めばくらいはしてくれる人間もいたが……にこやかな笑みの裏でどんな毒を吐かれているかと想像するだけで吐き気がした。




 だから次は実力が無いと思ってもらおうとしたが、勉強は下手に手を抜けば「オッドアイのくせに人様を馬鹿にして」と余計に恨みを買うし、剣さばきもオレの守護精霊が風の精霊魔法を使うせいか兄上の剣筋が見えてしまうようになっていた。もしも兄上の守護精霊よりオレの守護精霊の方が強いと思われたら、さらに恨まれるに決まっている。


 そうしてオレは、とうとう勉強も剣の稽古もやめることにした。やる気が無いと放り出せば、兄上が喜ぶとわかっていたから。


 それからはだいぶオレの悪い噂が広まってくれた。王族の誇りを捨てたハズレ王子だと……金の力で女を無理矢理侍らせる最低な王子だと……。後は父王が「ジュドーには王太子は任せられない。王太子は兄王子だ」と言ってくれればいい。そうすれば兄上はまたオレに優しくしてくれるはずだった。


 だが、父王はそれを許さなかった。とうとうオレには暗殺者が向けられるようになり……その頃にはもう誰も信じられなくなっていたんだ。











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