それから“私”は精霊達に命令して回った。中には『面白そう』だと興味を持つ精霊もいたので“彼”には
精霊にとって女王の命令は絶対だ。弱い精霊ほど逆らったりしない。“私”が母のように振る舞えば振る舞うほど面白いくらいに言う事を聞いた。例えばその存在を危うくすることさえも……。
自由で気まぐれだからこそ、統一する唯一無二の存在が必要なのだと母が言っていたことを思い出したが、その時は意味を考えることなどなかった。
“彼”は、精霊達の精霊魔法はそれぞれが違う能力で魔法の力の強さも違っている事、みんなが“私”と同じような姿になれるわけではないのだと初めて知ったと言っていた。それは“私”が女王だからだ。女王であった母の姿を模しただけの“私”に個性などありはしない。
でも“私”は“彼”にとっての理想の精霊でいたかったので“彼”には内緒にしている。だって“彼”は“私”と対等か、それ以上の存在でありたいと願っているからだ。精霊の女王だとバレたらいけない。もちろん女王であった母に成り代わっていることもだ。なぜかそんな気がしていた。
そして“彼”は言った。
「この世界に生存する生き物の姿になって人間を驚かしてやってはどうか」と。もちろん精霊には承諾させた。“彼”の理想を崩すのは許さない。
全ては“彼”の望む世界にするために。
だが、他の精霊達が“私”と同じ形になる事は出来ない。もはやこれは、“私”だけの特別な形なのだから。
弱い精霊達は虫や小動物、せいぜいが大型動物などにしかなれなかったので“彼”か落胆しないか心配だったが、強い力を持つ精霊は人間の夢見る空想生物の形になれた。それを見て“彼”が喜んでくれたのでほっとした。
“彼”の前には『面白いから』と形を決めた精霊達を出しておく。その楽しそうな姿に安堵するも、“彼”が勝手に接触した精霊達は“彼”にあまり良い態度を取らなかったようだった。それは“私”と秘密を共有する仲間達だったようだが、そのせいで“私”は“彼”に責められてしまった。
精霊はある意味本能に忠実なのだと誤魔化し、説明してひたすら謝ったらなんとか許してもらえた。嫌われたらどうしようと悲しくなってしまう。仲間達にはキツく言っておかないと……。
今は“私”が女王なのだから言う通りにすべきなのに、酷い裏切りだと憤りを感じた。
そして“彼”は、“彼”の元へ訪れた人間と精霊を引き合わせるようになった。“私”から見たら相性はあまり良くなさそうな魂を持つ人間とばかりだったが、これ以上“彼”の機嫌を損ねたくない。さすがに強い精霊達は嫌がったので、弱い精霊達には我慢するように命令しておいた。
しばらくは、ひたすら人間達が「さすがは賢者だ」と“彼”に感謝しだした。それは、ほんのわずかな時間だけだったが。
「こんな姿の精霊では格好が悪い」
「こんな地味な魔法ではなく、違う魔法が使いたい。なぜもっと便利な精霊と引き合わせてくれないのか」
「あいつの精霊の方が欲しい。自分で選ばせろ!」
人間はいつしか、自分達が選ぶ側だと主張しだしたのだ。そんな弱い魂しか持っていないのに精霊を選ぼうだなんて、どこまで烏滸がましいのか。だから“彼”以外の人間は嫌いなのだ。
あまりの酷さに精霊達からも不満が出てきた。中には人間へ増悪を抱く精霊まで……さすがに“私”もその不満に目を背ける事は出来なかったのだ。その時に気付いたのは、森の一部が枯れかけていることだった。精霊が自由を奪われたせいだ。“私”は女王として早急にこの事態をどうにかしなければならなかった。
今、精霊達が本気で人間を排除する気になっては“私”が困る。なぜなら“私”は────。
仕方が無く、“私”は精霊達と共に“彼”の前から消えることにした。
そう、“私”は自分の体の異変に気付いてしまった。これは予感だが、きっと外れることはないだろう。
だから、せめて最後に“私”の出来ることを出来るだけやっておこうと思う。
“私”は精霊達に今までの傲慢な態度を謝った。私利私欲の為に利用したことを後悔していると。もう命令はしないから、どうか人間を嫌いにならないで欲しいと。精霊達は“私”の変化に気付き、許してくれた。
「これからは、精霊達が人間を選ぶのだ」
大切な事を伝える為に再び“彼”の元へ行くと、“彼”はそう言った。
こうして精霊達は気まぐれと自由の元、人間を選ぶようになった。例え強い魂でなくても精霊が気に入ればそれでいい。新しいおもちゃを手に入れたとはしゃぐ精霊もいれば興味本位で実験を繰り返す精霊もいたが、人間がそれを知るすべはない。
これでいい。とにかく