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第34話 〈閑話〉神様の憂鬱②

「取り引きだって?」




 “その子”はにっこりと笑うと(魂のままの姿なのでそれこそ表情なんてないんだけど、笑ってるように見えるから怖いよね)とんでもないことを言い出したんだ。ボクはその内容に思わず息を呑んでしまったよ。




『────つまり、あたくしはあなた様のお役に立つ所存です。ならば、あなた様の憂いを晴らすお手伝いが出来るのではないでしょうか?』




「そ、それって本気なの……?もし失敗したら君だって無事じゃ済まないんだよ。それこそ魂が消滅する可能性だってあるし、消滅を免れたって二度と転生も出来ずブラックホールを彷徨う事になるかもしれないんだ。もしそうなったら、ボクにだってどうする事も出来ないよ」




『それはもちろんでございますわ。それにあたくしは“あの方”の為ならどんな覚悟もありますの。それにきっと、あたくしになら出来ますわ────“世界の修正”のお手伝いが。これでもあたくし、お約束したお仕事はちゃんと致しますのよ』




 突拍子もない提案だったけれど、確かにそのならば可能性はあるかもしれないと思ったよ。ただその分リスクはかなり大きいかな。なにせ、それはもう色んな〈神〉の目を掻い潜らなきゃいけないし、もちろん神々の法律なんて全部破っちゃうよね。




 もしもそれがバレたらボクだって無事じゃ済まないだろうし、それくらいヤバい事をしようと持ち掛けられてるって事さ。




『あら、何を悩んでおられますの?これは千載一遇の好機でございましてよ?それにあなた様とあたくしの被害は一致しているはずでございますわ。ただあなた様がほんの少し手を貸してくだされば────あたくしの魂を“あの世界”に転生させて下さればよいだけですのよ。ただ、現在ではなく時間を遡って過去へ……“あの方”の魂が転生した時間軸へあたくしを送り込んで下さいませ』




「……確かに、出来ない事はないけど。でもあの世界はすでにボクの手を離れたパラレルワールドなんだよ。時間操作が成功したとしても、君の魂が世界のどこに転生するかまではわからないんだ。必ず君の望み通りに転生出来るとは限らないんだよ」




『それはわかっておりましてよ。それでもあたくしの“強運”で、あたくしは願いを叶える自信がありますの……だってあたくしは“強運”の持ち主ですもの!』




 “この子”、自分で自分の事を強運だって言ってるよ?!しかもドヤ顔(の雰囲気)で二回も!




「な、なんでそこまでして……魂の生存の危険を冒してまで転生したいだなんて言うんだい?!確かに君の提案はボクには魅力的だけど、君のリスクが多すぎるよ!君の魂の強さなら、その内ちゃんと転生手続きがされるはずなのに……」




『そんなの、決まっておりますわ。あたくしは、あの方の為に存在しているのですもの。それなのにあの方はあたくしを置いて行ってしまいましたのよ、それならばあたくしはどんな手を使っても追いかけてみせると誓っていますので……こう見えてあたくし、とっても一途ですのよ?』




 そう言って魂の姿がさらに燃え上がると、自分で言って照れたのかモジモジと体をくねらせたんだ。(たぶん)




 でも、“この子”の必死さは伝わったよ。ふざけているわけでもなく、本気なんだって気持ちはよくわかったんだ。






 でも────。




『だってこれまでずっとお食事の時もおトイレの時も水浴びの時も戦闘の時も、いつもあの方の事を背後からこっそり見つめてテレパシーで愛を伝えて参りましたのに全然振り向いてくれませんでしたのよ!それなのに告白の答えもくれないまま違う世界に行ってしまわれるなんて酷いですわ!しかも転生なされたという事はこれまで記録してきた身長体重、爪の伸びる速度等の三百年分のデーターも全て最初から記録し直さなくてはいけませんもの!それにあたくし、死ぬ時はあの方の足の裏を全身で感じながら踏み潰されて死ぬと決めていますのに!!』




 ────こんな生粋のストーカーなんかを送り込んじゃって本当に大丈夫なのかな?しかも魂の形はこんなだけど、この魂の本来の姿は……。




 ボクがちょっとだけドン引きしたのは秘密だよ。




 すると、なにやらため息をついて首を傾げてからボクをジッと見てきたんだ。(たぶん)




『別に断っても構いませんけれど……あたくしとの取り引きに応じなければ、あなた様にはパラレルワールド内に顔だけの残念イケメンを量産する趣味があるって言いふらしますわ、変態神様の異名を広げますわよ』




「え、ちょっ、もしかしてボク脅されてる?!」




『さらにあなた様に取り憑いて、耳元で毎日悪口を呟きましてよ。うふふ、いつまで耐えられますかしら……?』




 ゴゴゴ……と笑顔の圧を感じ、ボクはがっくりと膝をつくしかなかったんだ。神様に取り憑こうだなんて本気なの?!とは思ったけれど、“この子”ならやりかねない気がするよ!




 ううっ、耳元で毎日悪口を言われるなんて耐えられないよ!




「もぉっ、わかったよ!それなら、について頼みたい事があるんだけど……。どの場所に転生しても君なら必ず会えると思うから……こうなったら一蓮托生だよ」




 そう言ってボクがとあるアイテムを託すと、『お任せ下さいませ』と魂が揺らめいた。









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