やぁ、みんな久しぶりだね!ボクに会えなくて寂しかったかい……?さぁ、お待ちかねのボクだよ!
えっ、お前は誰だって?そんな……神様だよ?!やだなぁ、もう!ボクって個性的だとか浮いてるとかよく言われるのに……忘れないでよね!?
おっと、そんなことより大変なんだ!なんと事件が起きたんだよ!ボクってば驚いたのなんのって……そう、まさかまさかの大事件なんだよ!
その事件は、ボクがいつものようにボクの大事な友達……悪役令嬢に転生してしまったフィレンツェアのいる世界を見守る為に仕事をこなしている時に起きたんだけど────。
「あ!」
そうそう!そういえば、この世界が元はボクが趣味で作った乙女ゲームの世界だって事はもう知ってるよね?でも間違ってあの子が転生してしまったせいでひとつのパラレルワールドになってしまった所までは話したかな。未完成だった世界設定やキャラクター達の事もパラレルワールド自身が都合良く作り変えてしまったんだよ。それこそ歴史ごとね。
それでも、元となってるのはボクが作った設定のままのはずだったんだけど……守護精霊がいないはずの悪役令嬢に最強のドラゴンが守護精霊となって付いてきてるなんて、せっかくの基本設定をガン無視されてる気分なんだよぉ!
まぁ、そのおかげで悪役令嬢の死亡フラグを回避出来る可能性が出てきたから結果的には良かったんだけど……そりゃボクだってあの子が悪役令嬢に転生するってわかってたらもっとなんかこう、どうにかしてたよ!
それにしてもさ、確かに細かい設定を作ってなかった所もたくさんあったけど!まさか“世界”が勝手に補正するなんて思わなかったんだよ。おかげでバグだらけさ。
だってボク、守護精霊の歴史なんて全然作ってなかったんだもん!いやほんと、乙女ゲームにそんな暗い世界設定とかいる?!攻略対象者達の過去とかはまぁ……その場のノリと思い付きで色々したけどね。あの時はなんだかテンション上がっちゃってたからさ。あの子が止めてくれなかったらもっと酷い事になってたキャラクターもいるけど、ちゃんと参考資料も見ながら設定したからそんなに酷い事にはなってないはずなんだけどなぁ。ほら、参考にした本なんかはここに並べて……。
バサッ
おっと、手が当たって本が落ちちゃったよ。あ、これは乙女ゲームの攻略対象者の設定を作る時に悩んでいたら参考資料にしてって他の神がくれた大事な本じゃないか。貴重な本だからカバーは絶対に外すなって言われてて……あれ、落ちた拍子にカバーが取れちゃって中身が────。
【これからの男は顔じゃなくって中身で勝負しないとね!〜恋人にしたくない顔だけ男ランキング!こんな男はやめておけ!〜】
「・・・・・・?!」
ボクは【ときめき!素敵な乙女ゲームの世界♡〜理想の王子様特集〜】と書かれたカバーの下から出てきたその本の本当のタイトルに言葉を失ってしまった。顔は相変わらず見えないのになんかわかったって?そりゃそうだよ。それ位に衝撃的だったんだよ!
そしてボクにこの本をくれたとある神の事を思い出したんだ。
あんの……〈いたずらの神〉ぃぃぃぃぃ〜〜〜〜!!!
今から思えばなんだかニヤついていたような気がしたし、ふざけた態度だったような感じはあったんだけど(光ってて表情は見えないんだけど)あの時はボクの趣味に興味を持ってくれた〈神〉がいたんだと嬉しくなって疑いもせずにこの本を受け取ってしまったんだ!そういえばその後、〈いたずらの神〉はダークホールに左遷されてたな。何やらかしたんだ、あいつ。
って言うか、今はそれどころじゃないよ!
ボクってばこの本に載ってるキャラクターデザインを思いっきり参考にしちゃったんだよ?!ついでに通りすがりの〈腐った神〉がゲームの世界を作ってるって言ったら「それならば是非、筋肉✕知性派眼鏡の組み合わせをオススメいたすでござる!これは今の腐女子に最先端で大人気なカップリングござるよ♡幼馴染みの関係なら尚良しですので!(ジュルッ)」って教えてくれたから「腐女子」が何かはよくわからなかったけど女の子に大人気だって言うなら乙女ゲームに絶対採用でしょ!とてんこ盛りにしたのに……だ、大丈夫だったのかな?!
え?〈腐った神〉は何者かって……もちろん神様だけど?どれかのパラレルワールドで“お腐り様”って神様として信仰されてるそうなんだ。そのパラレルワールドは〈腐ってる世界〉なんだって。ボクの管轄外だから何が腐ってるのかは知らないんだけど、そういえばいつも頭からすっぽり黒フードを被ってて見つけにくいし普段は引き籠もりだから滅多に出会わないんだよね。たまによくわからないワードを通りすがりに呟いていくようなちょっと変わり者だから他の神様とはあんまり仲良くないんだけどさ。ボクが「心が煌めいちゃうようなゲームの世界を作りたいんだ」って言ってるのを聞きつけてわざわざアドバイスしてくれたんだから悪い神ではないと思うんだけど……あぁ、でも今はそれどころでもないよ!
「あぁ〜!ど、どうしよう?!もうパラレルワールドとして認定されちゃったから今更キャラクター設定の変更とか出来ないし……フィレンツェアが困ってるかも『いつまであたくしをお待たせし続けたら気が済みますのぉぉぉ?!』ほぐぁっ?!」
おもわぬ展開に思わず慌ててしまっているボクの腹部に“この子”が突進してきた。実はさっきボクの前に突然現れたんだよね。
“この子”は赤く燃え盛る炎のような姿をしているんだ。これは魂の姿なんだけど、なんというかその魂の性質を表した姿なんだよ。“あの子”は天界にいる間は前世の聖女の姿をしていたけれど、それは魂が強いから出来たことなんだ。普通の魂なら意思のない小さな光の塊みたいな、そんな存在のまま次の転生を待ってたりするからね。無理をすれば消滅だってありうる。それが天界さ。魂が自分の意思や姿を保ったまま天界に居残るのはそれ位にすごいことなんだ。だからこそ強い魂は貴重なんだけど、まぁ、“あの子”はボクのお気に入りだったから特別待遇だったのは認めるけどね。
……つまり、魂の姿のままとはいえボクの許可もなく意思を持つどころか会話をしていてさらにボクに攻撃までしてくるなんてあり得ないんだよ。“あの子”程じゃなくても、それなりに強い魂でなければ無理な事なんだ。
ほら、大事件でしょ?
それにさっきから文句ばっかり言ってくるから困ってたんだけど……それにしても神様に対して酷くない?おかげでちょっと冷静にはなれたけどさ。
「いてて……、ちょっと忘れてただけなのに何するのさ。酷いなぁ」
『酷いのはあなた様の方でございますわ!忘れないで下さいませ!!あたくしにとっては命懸けの大切な事ですのよ!だいたいあなた様があたくしの“大切な方”の魂を
「だからそれはさっきも言ったけど、色々手違いがあって───『問答無用でございますわ!!』ぎゃふん!顔はやめてぇ?!」
思いっきりグーパンで殴っておいて“その子”は『あら、失礼致しましたわ。そこがお顔でしたのね。やたらピカピカしてらっしゃるからどこがどこやらわからなかったんですもの』と肩を竦めた。いや、光ってても顔がどこにあるかはわかるでしょ?!と言うか、魂のままの姿のはずなのになんでパンチ繰り出せるの?!そっちこそ手とかどこにあるのさ?!とにかく、神様に暴力とかダメ!絶対!
『とにかく、そんなことはどうでもよろしくてよ!「よくはないよ?!」まぁまぁ……落ち着いてくださいませ?なにも、あたくしも鬼ではございいませんわ。無理難題を押し付けてあなた様に言いなりになれだなんてそんな恐れ多い……。
実はご提案したい事があって馳せ参じましたの。ねぇ、あなた様……あたくしと取り引き致しませんこと?』