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第25話 イベント場所①

「また君か、フィレンツェア・ブリュード嬢。学園内だけでなく、こんな神聖な場所でも騒動を起こすとはやはり問題児だな。君には第二王子殿下の婚約者としての……いや、公爵令嬢としての矜持はないのか?これまであれほど指導しても全く反省も学習もしていないとは……」



「────シュヴァリエ先生」



 私が思わず名前を呟くと、その攻略対象者……グラヴィス・シュヴァリエは私を見てあからさまに眉を顰めた。そしてこれはいつもの事なのだが、うんざりした表情で「これだから加護無しは」と大袈裟にため息をつくのだ。これも私が悪役令嬢だからこその態度なのだと思うが、学園では冷静沈着だと評判な教師であり実は腹黒。それがグラヴィス・シュヴァリエと言う男なのである。


 しかも教師の立場だからこそたちが悪い。この男はフィレンツェアが不正をしていると常に疑っていて事あるごとに突っかかってきては理不尽な嫌味を言ってくる暇人だ。


 例えば、今までのテストもフィレンツェアの点数は酷いものではあったが最下位はギリギリ免れるくらいだった。しかし普段のフィレンツェアの態度から「あんな、精霊の加護もやる気も無い人間が最下位でないのはおかしい。もしやカンニングをしているのでは?」と必ずと言ってもいいくらいに毎回疑ってくるのである。疑り深いにもほどがあるだろう。


 私としてはそんなやる気がない、さらに加護無しだったフィレンツェアよりも悪い点数を取っている生徒の方をどうにかするのが先ではないのかと言いたい。確かにこれまでのフィレンツェアの横暴な振る舞いには教師陣も手を焼いていて、それに加えて加護無しを嫌悪しているのも知っている。だが、どうにかしてフィレンツェアのありもしない不正を暴いて学園から追い出そうとしている魂胆が見え見えなのだ。それも全てはフィレンツェアが“加護無し”だから────。


 さらにフィレンツェアに至っては、容疑をかけられる度に悲しくなって「私が加護無しだから」と心を閉ざし、そのイライラを周りにぶつけてしまいさらに嫌われるという悪循環である。いくらフィレンツェアが悪役令嬢だと言っても、学園を追い出されるほどの悪行はしていないはずだ。ゲーム通りならする可能性はあるが、もちろん私はそんな事をするつもりはない。


 それに、フィレンツェアは良い点数を取りたいなんて思ってもいなかったのでもちろん不正などしていない。テストの結果など“加護無し”には意味がない……そう考えていたからだ。だから暴けるわけがないのだが、それすらも「公爵家の力で握り潰したのでは」とあらぬ疑いをかけてくる始末だ。本当にしつこい。


 記憶を共有した私からしたら、相手が教師でなければあの眼鏡を今すぐへし折ってやるところだが。


 確か、グラヴィス・シュヴァリエの守護精霊は防御系の精霊魔法が使えたはずだ。神様の「ほら、攻めと守りは表裏一体って言うでしょ?脳筋キャラと来たら次は頭脳派の眼鏡が乙女ゲームのお約束だよね!それに、“腐女子”っていうのも流行ってるらしくって、乙女ゲームの隠れ定番らしいんだ!幼馴染みは得点高いんだって!」とよくわからない理論興奮気味によって眼鏡が追加設定されたこの男はあの脳筋ば……ノーランドの幼馴染みだったはずだ。


 きっと神様は表裏一体の意味をよく考えずに使っていた気がする。乙女ゲームのお約束についてはよく知らないが、とにかく現実で目の当たりにすると「そうじゃない感」が酷い。


 いやどう考えても、あれとこれを裏と表にくっつけて何がプラスになるのか理解出来ないのだが……ん?腐女子ってなんだったっけ?隠れ定番??幼馴染みがなぜ得点?が高いのか……うーん、なぜかその辺の微妙な記憶がイマイチよく思い出せない。たぶん情報量が多かったとか私には刺激が強かったとか……そんな雰囲気だけは覚えているのだが。まぁ、今はいいか。


 ちなみにグラヴィスルートでの決め台詞は「俺がお前をどんな攻撃からも守ってやる」だそうだ。クールキャラのはずなのにキメ顔が受け入れられなかったのを思い出してしまった。神様は「ギャップ萌えってやつだよ!」と語っていたが私的には無理だったので好みの違いがありそうなキャラだったっけ。うん……こんな情報なら思い出さなくても良かった。


 さらにグラヴィスの裏設定には“無類の本好き”と言うものがあった。その裏設定は必要なのか聞いたら、なにかと疑り深い性格なのは「人間は嘘を付くが、本は真実しか語らない」と言うよくわからない拗らせ持論を掲げているからなのだと、神様が言っていた気がする。確かその場の思いつきでやたら本が関わる根暗な幼少期のエピソードを作り込んでいたはずだが今の私にその内容を思い出す余裕はない。とにかく、何かと「図書館」とか「本」がキーワードになっているルートなのだ。


 さっきからどうでもいい情報ばかり思い出す理由がふとわかってしまった。それを語っている神様が普段は光り輝いていて表情がわからないのに、その時は興奮気味ではしゃいでいるのがわかったから印象的だったせいだ。だって、子供みたいに楽しそうにしている神様を見ているのは楽しかったから。


 しかし今は感傷に浸っている場合ではない。私は必要な情報を思い出そうと集中することにした。


 そうだ、グラヴィスルートの場合はグラヴィスとヒロインの出会いは図書館だった。神様が「学園だけじゃ背景がつまらない」と捩じ込んだのは言うまでも無いだろう。しかし、図書館は他にもあるしゲームで見た背景は本棚だけだったからまさかこの図書館だとは思わなかったのだ。しかしグラヴィスとヒロインがここに揃っているという事は強制的にイベントに突入してしまったのだろう。まだセイレーンは出て来ていないようだが……。


『……っ』


 私の肩で大人しくしていたアオが牙を剥こうとしたが私はそれを手で制した。こんな所で下手に暴れたらそれこそこちらが悪人にされてしまうのは目に見えている。特に今のアオはペットとしてここにいるのだ。アオに何かされてはたまらない。




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