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第20話 第二王子のルーティーン①

※ジェスティードの守護精霊視点




 ここはガイスト国の中心にそびえ立つ王城。その日の早朝、事件?はそこにあるやたら豪華な一室で起きていた。





 ガイスト国の第ニ王子、ジェスティード・ガイストの朝は早い。やたら早い。鶏と競争でもしているのかと勘違いする程なのだが、それには(本人にとって)とても重要な秘密と理由があった。




『ジェス坊、早く起きねぇか!侍女が来ちまったら時間がなくなるぞ!全く休日だってのに忙しねぇな』


「んがっ!?」


 金色の鬣を持ったライオンが、未だ毛布に包まっているジェスティードの尻に爪を立てる。その痛みと衝撃で目を覚ましたジェスティードがジロリとライオンを睨んでいた。毎朝ほぼ同じやりとりをしているのだが、本人達はそれに気付いていない。





「お前は俺の守護精霊なのに、もっと優しく起こせないのか!パーフェクトファングクロー!」


『自分の守護精霊にそんなアホみたいな名前をつける奴に優しくする気はねぇと言っているだろう!俺様の事はせめてクロと呼べと言っているだろうが!』


「なんでだよ!鬣は金色だし全体的に黄色いのに呼び名が“クロ”なんて俺のネーミングセンスがおかしいと思われたらどうするんだ!?そんなの格好悪いだろうが!」


『“パーフェクトファングクロー”の方がよっぽどおかしいわい!どうしてもその名前じゃないと嫌だと駄々をこねるから仕方なく承知したが、普段の呼び名は“クロ”じゃないともう俺様の精霊魔法は使わせんぞ!!』


「パーフェクトファングクローのわからず屋め!今日はルルとデートなんだぞ!休日だからこそいつもより完璧な俺じゃないといけないんだから協力しろよ!」


 ルルの名前を聞いてパーフェクトファングクロー……いや、クロは顔を顰めた。「こんなに格好いい名前なのに何が不満なんだ!」とジェスティードも顔を顰める。気は合うはずなのに意見は合わない人間と守護精霊だった。


『……あぁ、あのお嬢ちゃんか。俺様がちょっと用事でジェス坊の側を離れていた時に出会ったんだろう?俺様はまだあのお嬢ちゃんの守護精霊を見たことがないんだが、本当に大丈夫なのか?もしジェス坊に何かされたら大事なんだぞ』


 クロが顔を顰めたままそう言うと、ジェスティードは心外だとばかりにベッドから飛び降りた。


「何を言っているんだ!大丈夫もなにも、ルルは天使なんだぞ?!この世に舞い降りた完璧な天使だ!その天使の守護精霊が悪い精霊なわけないだろう?!それにルルの守護精霊は恥ずかしがり屋の怖がり屋なんだってルルから言われたと教えたじゃないか。パーフェク……クロがそんな厳つい顔をしているから隠れてしまっているだけだ!精霊は気まぐれだってお前も言っていただろう!?」


 ジェスティードが夢中になっている少女、ルル・ハンダーソンについてクロはすんなり受け入れることが出来ないでいたのだ。自分がついていない隙を狙ったかのようにジェスティードに近付きその一瞬で心を鷲掴みにした男爵令嬢。その守護精霊については謎のままだった。炎の精霊魔法を使う自分に勝てる精霊は少ないだろうが……それでも、とクロはなぜか妙な胸騒ぎを感じていた。と言うか、普通は守護精霊に名前を付けると人間と守護精霊の絆が強くなりその人間は守護精霊の影響を受けるのだが、なぜかジェスティードはあまりクロの影響を受けていないように思える。ちゃんと自分の影響を受けていたらもうちょっとしっかりしそうなものなのにあまりに迂闊だからだ。婚約者であるフィレンツェアにはあんなに酷い態度を取る上に、よその女にうつつを抜かすのはオスとしてどうなのかと思うところもあった。


 いや、つい心配になって世話を焼くからいけないのかもしれないが……、変な親心が出てしまいクロはため息をつく。もはや気分は母親だ。出来の悪い子ほど可愛いとはよく言ったものである。


『それはそうだが……。なんにせよ、二人きりで会う回数が多くねぇか?ジェス坊には婚約者がいるってわかってるはずだろう。学園で会う時に毎回俺様を遠ざけるのも気に入らねぇ。ジェス坊の頼みだから仕方なく離れているが、一体こそこそと何を話しているんだ?というか、フィレンツェアお嬢ちゃんに悪いと思わねぇのか』


「ふん!あんなお飾りの婚約者がなんだと言うんだ!あの女は加護無しなんだぞ?!俺に金を貢ぐしか能が無い役立たずよりルルの方が何百倍も魅力的だろうが!なんと言っても俺とルルは真実の愛の相手同士なんだからな!それにお前も、フィレンツェアを初めて見た時に警戒していただろう?!」


 確かにクロは当初、フィレンツェアに警戒と言うか妙なざわめきを感じていた。加護無しの人間を見たのは初めてだったのでどう対処するのが正しいのかわからなかったのもあるが、なぜ精霊に祝福されないのかが理解が出来なかったのだ。しかも頭では理解は出来ないが、心では妙に納得してしまうという説明のつかない感情を覚えてしまう始末だ。それを上手くジェスティードに伝える事が出来ず、それからジェスティードはフィレンツェアを「俺の守護精霊に警戒されるような役立たずの加護無し」と蔑むようになった。


『しかし、フィレンツェアお嬢ちゃんと婚約したから王太子候補になれたんじゃねぇのか。でなけりゃ、ジェス坊はあの兄ちゃんに────』


 クロがため息混じりに口を滑らせた瞬間。ジェスティードの纏う空気が重くなる。




「うるさい!!」




『……わりぃ。言い過ぎた』




 クロは無意識にジェスティードのコンプレックスを刺激してしまったようだった。こうなるとジェスティードはクロの言葉に耳を貸さないだろう。












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