「あなたはこの世界の精霊として転生したってことなの?よくあの神様が許してくれたわねぇ」
『前の世界では僕の居場所なかったし、僕を浄化してくれた聖女の事が大好きになったからこっそり付いてきたの!時間の流れがズレてたみたいで僕が精霊になったらすぐ聖女が転生しようとしてたし、その後は神様はオタ芸?を踊るのに夢中だったから気づかれなかったんだ!』
「え?居場所ってそんなの……ほら、確かレッドド『と、とにかく転生しちゃったからぁ!もう戻れないからぁ!!今更僕を捨てたりしないよね?!』え、あぁ、うん……まぁいっか」
あの神様、大好きなオタ芸をやり始めると夢中になり過ぎて周りが見えていなかったから仕方ないか。と、無理矢理納得することにした。どのみちもうこの世界にいるのだから今更どうしようもない。
そしてふと、私ってこんな風に考えられる性格だったっけ?と思った。自分で言うのもなんだが、もっと神経質で真面目な頑固って感じだったのにこんなにすんなり受け入れられるなんて不思議でならないが、たぶんこれも神様の影響だろう。記憶を思い出したことにより前世と今世の人格が混ざり合ってしまったようだし、あの天界で過ごした日々によってだいぶ感覚が変わってしまった自覚もある。しかも前世と天界での記憶の方が強かったみたいで元のフィレンツェアのネガティブな思考はほとんど感じなかった。なんていうか……私の中に小さなフィレンツェアがいるって感じ?しかしもう同じ人生を歩むと決まった以上は反論は認めない。まぁ、そのうち慣れるだろう。
だって“今の私”は、“私”を諦めていないもの。
神様との約束もあるし、人生に疲れている場合ではないのだ。それに、ある意味これは幸運だったのかもしれない。とも思ってしまった。
もちろん魔王の世界の方も気にならない訳では無いが私以外にも強い魂はいるだろうし、神様ならなんとか上手く調整してくれるだろう。
それにこのブルードラゴンが私の守護精霊だというのならば加護無し問題も解決するはずだ。
うん、これなら普通の人生いけるんじゃない?私が悪役令嬢だとしたらその先は破滅だ。神様には悪いが未完成なゲームの悪役令嬢は早々と退場させてもらうことにしよう。
それから私はブルードラゴンに頼み湖の外へと脱出した。落ちた元の場所である桟橋に戻り、周りに誰もいないことを確認してブルードラゴンに姿を現すようにお願いしてみる。すると目の前に、キラキラと輝くブルーサファイアのような美しい鱗を纏った小さなドラゴンが姿を現したのだ。懐かしい姿でもあるが、以前よりも鱗が輝いている気がする。
「あら?前よりずいぶん小さいのね。私の肩に乗れそうだわ」
『精霊になると、大きさは自由に変えられるんだよ。前の大きさじゃまた聖女を丸飲みしそうになるかもしれないもん!』
「ふふっ、確かにあの時のあなたはとても大きかったわ。あの時は痛かったわよね?ごめんなさい」
『いいんだよ。聖女のおかげで浄化されたって言ったでしょ?ねぇ、聖女。僕を聖女の守護精霊にしてくれる?』
可愛らしく、こてりと首を傾げるブルードラゴンに私は聖女だった頃には出来なかった笑顔を見せた。
「……私はもう聖女じゃないわ。“今の”私は────フィレンツェアよ。聖女でも勇者でもない。ただのひとりの女の子で、フィレンツェアって名前なの」
『……フィレンツェア!とっても素敵な名前だね!』
こうして私は倒したはずのブルードラゴンになぜか懐かれてしまい、前世の記憶と共に最強の守護精霊を手に入れたのだった。
***
〜その頃の天界〜
「えぇっ?!そろそろ覚醒する頃だと思って覗いて見たらあの子いないんだけど?!なんか、知らない勇者が魔王と闘ってる……誰これ、突然変異?!っていうか、あの子の魂どこいったのぉ?!」
魔王の世界を覗き込みながら、オタク(好きを極めた)神様……オタ神様が叫んでいた。
「え、あの子って何?どしたん?」
たまたま通りすがった別の神がそう言うと、オタ神様は「ドラセカ(※ドラゴンに侵略された世界の略)を救ってくれた聖女の魂だよ!この魔王の世界に勇者として転生してもらったはずなのにどこにもいないんだけど?!あの後すぐに他の世界でトラブルが起きてちゃんと確認出来てなかったんだよぉ!!」と明らかに焦った様子を見せる。転生させたはずの魂が行方不明などパラレルワールドを管理する神としては大失態だからだ。
すると、たまたまそれを聞いていた輪廻担当の神の顔色がサッと顔色を悪くした。
「えっ……、まさかその魂ってあの一緒に遊んでた魂じゃ……。あ、やべ。間違えた……」
なんと輪廻担当の神は、オタ神様が自作の乙女ゲームの世界をその魂にやたら自慢していたのでてっきりその世界へ転生させるのだと思い込み……確認もせずに実行していたのだ。
「いやいやいや、強い魂の特別転生マニュアルちゃんと読んでるよね?!この前のミューティングで全員に配ったでしょぉ!?」
「じ、自分新人でして……っ!まだ全部読んでないッス……!」
「読めよぉ!仕事だろぉ!?それにこれは趣味で作った世界でまだ未完成なんだ!そんな所にあんな強い魂が転生したらどんなバグが起こるかわからないじゃないか!
ん?なんかすでに違って来てるような…………んあぁっ!なんでかドラゴンの魂まで転生してるんですけどぉ?!いつの間に?!」
「それは知らないっスよぉぉぉ!?」
天界では大騒ぎになっていたとか。