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第2話 蘇った記憶②

 神様はオタクというものらしく、漫画や小説と言う名の作られた物語が大好きなのだとか。特に今は乙女ゲームなるものにハマっていると目を輝かせてその楽しさを教えてくれた。時にはトランプと言うカードゲームやダンスも。さすがに光る棒を振り回して独特な動きをするオタ芸とやらは真似出来なかったがそれを眺めているのは楽しかった。


 よく考えれば生きている頃は友達なんていなかったから神様が初めての友達だ。天界では空腹にはならないし基本自由だったので、一緒に漫画を読み耽り思い切り遊んで疲れたら眠るを繰り返す生活は私のこれまでの概念を覆すには充分だったのだ。


 神様は全体的に白く輝いているので時々眩しかったし細かい表情は良くわからなかったが、楽しそうに笑っているのだけはわかった。それを見分けるのがまた楽しかったのをよく覚えている。


「これはボクの力作だよ!」


 そう言って見せてくれたのはひとつの世界だった。手のひらサイズの輝く玉に見えたが、その中に新しい世界が作られているのだとか。それは神様が趣味で作っている乙女ゲームを模した世界でまだ未完成だと言う。


「結末をまだ決めていないから完成はしていないんだけど、ボクの趣味満載な理想の乙女ゲーム的な世界を作りたいんだ!まだ途中だけど、お試しプレイしてみる?!君だけ特別ね!きっと楽しいよ〜っ!」


「へぇ、面白そうね。設定ってどうなってるの?」





 すっかり神様の趣味思考に毒されていた私はその乙女ゲームの話に華を咲かせたて毎日を楽しく過ごしていたのだが、とうとう転生する日がやってきてしまったのだ。しかも私の魂はとても強いらしく、天界の掟……転生マニュアルとやらの決まりで闘いのある世界へ転生しなければならないのだそうだ。 



 本当は少しだけ……ほんの少しだけだけど違う生き方をしてみたかったかもって考えてしまったが、申し訳無さそうに眉を下げる神様を見ていたらそんなこと言えなかった。


「ごめんね。実は魔王が世界を滅ぼそうとしている世界があるんだ。管理者は世界を見守るだけで手出しが出来ない……世界を救うにはこうやって強い魂を順番に転生させて救ってもらうしかないんだよ」


 しょんぼりとする神様に私は笑顔を作る。


「闘いなら慣れているし……その分、天界でいっぱい楽しんだから。私なら大丈夫!」


「あ、あの……お願い、ひとつだけ約束して!生きるのを諦めないって!自分で自分の事を諦めて死んでしまったらその魂がどんなに強い魂でも、もう天界に来れなくなっちゃうから……。また、君に会いたいから絶対に約束して!それまでにあの乙女ゲームを完成させておくから……っ」


 そうして差し出された小指に自分の小指を絡める。これは指切りというのだと神様が教えてくれた約束を守るための儀式だ。


「うん、絶対に諦めない。私もまた神様に会いたいし、ゲームも楽しみにしてるから約束する。だから……」




 世界を救ったら、また会いましょう。




 そう約束して、私の魂は転生の輪廻へと運ばれたはずだったのだが────。









「……魔王はいなさそうねぇ」




 前世での事、そして天界での事を思い出した私は頬に手を当て首を傾げる。確か神様からの事前情報ではその世界は闇に覆われていて魔王が魔物を操り人間と戦争をしているはずだった。アンデッドがいない分、前よりは少しはマシになるかもって言っていたっけ。そして生命力を削る聖なる力を使わなくていいように今度は聖女ではなく勇者として生まれ変わるのだと聞いていたのに……。


 どうやら勇者のはずが嫌われ者の悪役令嬢とやらに転生しているようだった。だって、ついさっき悪役令嬢だからって殺されそうになってたもの。


 この“設定”はよく知っていた。そして記憶にあるこの姿も。なんの手違いがあったのかは知らないが、もしかしなくても“ここ”ってあの神様が作っていた乙女ゲームの世界なのでは?そう思ったら妙にしっくりきたのだ。こうゆう時の私の勘はよく当たる。まだ未完成なはずなのにまさかあのゲームの悪役令嬢に転生するとはどうしたものか。


 そして、冷静になってよく見れば大きなシャボン玉のような球体が私を包んでいる。あんなに重くなっていた制服も濡れてすらいないし、呼吸が苦しくなることもない。そして、その大きなシャボン玉からはよく知っている気配がしていたのだ。



『やっと起きたね。聖女は強いのにお寝坊さんだなぁ』


「……ブルードラゴンなの?」


 姿は見えないが、確かにその気配は聖女の私が倒したはずのブルードラゴンだった。するとブルードラゴンはうきうきした口調でこれまでの事を語り出した。


 なんとこのブルードラゴンは私が転生する時に魂のまま一緒に付いてきてしまったのだそうだ。それも、私の守護精霊として……。しかし私の前世の記憶と共にブルードラゴンの魂も封印されていたとか。私とは違って僅かに意識はあったようだが。


『僕ね、聖女のおかげで魂が浄化されて精霊になったんだ!それで聖女の記憶が戻るまで魂を守ろうと思って僕の匂いをいっぱい付けておいたんだよ!それで、とにかく周りにいるのぜーんぶに威嚇しといたんだ!そこら辺の精霊よりドラゴンの方が強いからみぃーんな逃げて行ったはずだよ!』


 あんなに凶悪だったブルードラゴンが、姿は見えないのにまるで「褒めて!」と尻尾を振る犬のような雰囲気である。あの世界では邪気に当てられていただけで本来はこんな人格……いや、竜格?だったようだ。


「あぁ、なるほどわかったわ。つまりあなたが私にくっついていたから、この世界で私が産まれた時に精霊達が祝福に来なかったってことなのね」


『僕にびびってるような精霊なんかに聖女の守護精霊の座は渡せないよね!』


 今世の記憶が確かならば、この世界の精霊の中ではドラゴンは最上級に分類されるはずである。精霊はその力によって色々な姿をすると言われているが、大体が実際にいる昆虫や動物だ。しかし力の強い精霊ならば空想生物の姿を模るのも可能なのだ。その辺の精霊達からしたら自分達よりはるかに強いドラゴンの気配がしたら近寄るのは難しいだろう。











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