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#106


 ギャレと名乗る巨大な竜。

 見た目は威厳たっぷりで怖そうだけど、上機嫌みたい。敵意も感じない。

 それでホッとしてたら、いきなり火を噴いてきた。

 なんでー?

「お嬢様!」

 ガミジンさんの声。もうそれだけで、何をいわんとしているか、伝わってきた。

 以心伝心ってやつ? ツーといえばカー、みたいな。

『強化結界』

 わたしは、ほぼ一瞬で脳内に術式を組み上げ、無詠唱で魔法を発動させた。

 そうこれは、このフロアでさんざん解析して、ぶち壊してきた結界魔法。それをそっくりそのまま再現した。

 効果はわたしたちの周囲、ごく狭い範囲に限られるけれど、この急場を凌ぐには充分。

 目に見えざる結界が、迫る紅蓮の炎弾を、わたしたちの頭上にて受け止め……まっすぐ、弾き返した。ぼいんっと。

 跳ね返った炎弾が、ギャレさんの顔面へモロに直撃。

『ぶふぉっ』

 ちょっと変な声がギャレさんの口から洩れた。

 炎はすぐさま消え去った。ギャレさんは無傷。

 でも、ちょーっと焦げ臭い。鱗の表面を軽く炙る程度のダメージはあったみたい。

『……まいりました』

 あっさり負けを認めちゃったよ! 潔い!

 いや、わたしはただ咄嗟に身を守っただけで、もともと、やりあうつもりはなかったんだけどね。

『ふう。まさか、わたくしの天寿が尽きる前に、こんな強い子が来るなんて。せめて、ティンロンが動けるようになるまでは、誰もここを通さないつもりでしたが……仕方がありませんね』

 いかにも残念そうに呟くギャレさん。

 どうも、話が見えないのだけど。ティンロンって誰だろ?

『あなた……シャレアといいましたか? 小さな異邦人さん』

 と、問われて。

「はい」

 うなずくわたし。

『ごめんなさいね、いきなり攻撃したりして。あなた、大神の加護を受けているとはいえ、素性がわからなすぎて、あまりに怪しかったので、つい、ここで殺しといたほうがよいかなと思ってしまいました』

 なんか身も蓋もない話だった……。試すといっといて、実は殺意満々だったとかヒドい。

『けれど、所詮、亡霊に等しいわたくしの力では、とても殺せそうにありません。もう、どうでもいいです。どうぞ、勝手に通ってってくださいな』

 それはそれで、やっぱりひどい話だよね……。

 いや、うん、わたしの中身が正体不明すぎて怪しい、というギャレさんの感覚は、おそらく間違ってないけれど。

 自分でもどういう理屈でこうなってるのか、正確なことはわかんないし。

 このへん把握してるのって、あの天国のアナーヒター様くらいだろうしね。

 いやもう、この話はこれでおしまいにしよう。お互い、これ以上やりあうのは不毛だ。

 それよりも。

「あのー」

 と、今度はわたしのほうから訊ねることにした。

「ここのしたに、ほーもつこ、ありますよね? 入っていいですか?」

 ゲームでは、ここの最下層は、上層とはまるで異なる特殊なつくりになっていた。外観も構造も。

 通路を挟んで七つの部屋にわかれていて、そのうち、一番奥の部屋には、最重要アイテム「金竜の卵」が安置された祭壇があり、その手前右側の部屋が宝物庫になっていた。他の部屋は何もない空き部屋だったな。

 で、下層へ通してくれるのなら、きちんと宝物庫へ入る許可ももらっておきたい。念のために。

『ええ、もちろん。それが目的で、ここまで来たのでしょう? 欲しい物があれば、なんでも持って行ってかまいませんよ』

 やったー、なんと気前のいい!

『ただし』

 と、ギャレさんは、やや語気を強めて、告げた。

『一番奥の部屋には、わたしより遥かに強い竜……ティンロンが籠もっています。出産を控えて、たいへん気が立っています。あの部屋にだけは、決して近付かないようにしてください。本当に殺されてしまいますよ』

 ん?

 一番奥の部屋……。出産?

 おおー?

 なんか、話が繋がったかも!

「えっとー。ティンロンってー、なんか、金ぴかでー、うねうねした、ながーいカラダの?」

 と訊いてみると。

『ええ、そうよ。あなた、ティンロンを知っているの?』

「んー……あったことはないけど、しってる、かも」

 わたしは、正直に答えた。

 ギャレさんの反応からしても、間違いなさそう。

 ゲーム「ロマ星」に登場し、ルナちゃんと交渉を行うのは、その守護竜ティンロンのほうなんだな。ゲームでは名前はわからなかったけどね。

 そして、いまそのティンロンは、最下層の祭壇の間にいて、出産を控えているという。

 そのティンロンが産み落とすものこそ「金竜の卵」なのだろう。

 いや、なるほどなるほど。現在とゲームでは、十年のタイムラグがある。その間に、なんらかの理由で、ここの守護者がギャレさんから出産を済ませたティンロンに交代して、いずれルナちゃんと会うことになるわけだ。

 そうなると気になるのは、ギャレさんとティンロンの関係とか、そもそもティンロンって何者なのか、とか。

 ギャレさんは自ら、創世の因子を司る古竜と名乗った。あるいは、あのぴかぴか光る『因子』ちゃんの関係者なのかもしれない。

 一応、質問してみよう。絶対知らなきゃならない、ってわけでもないけど、ゲームに似た設定が関わってくるとすれば、そこは大いに興味があるので。

「あのっ、ティンロンについて、おしえてもらえますか?」

『あら……興味津々って顔。ティンロンも、わたくしと同じく、創世の因子を司る竜です』

 ギャレさんは、軽くうなずいてみせた。

『わたくしたちは、滅びと誕生を繰り返しながら、ずっと、この地を守ってきました。大神がそのようにお定めになったからです。今のわたくしは、もうじき滅び、ティンロンの子として再び生まれることになります。そして、また長い時が過ぎると、今度はティンロンが滅びの時を迎え、わたくしがティンロンを産む。そういうサイクルになっているのですよ』

 おお……。なんだか壮大なお話。

 あれ?

 ということは?

 ここにいるギャレさんは、もうじきいったん滅ぶ。

 で、ティンロンが、新たなギャレさんを産む。

 それが、金竜の卵、だと。

 ……十年後にルナちゃんが孵すことになる金竜「ソル」は、ギャレさんの転生体ってことかー!

 すべてが、しっかり繋がってしまった。

 ゲームでは絶対に知りえない裏設定を、ここで開示されたような気分。

 この世界、知れば知るほど……奥が深い。

 ギャレさんには、もっと色々聞きたいけれど、どうもギャレさんには、これ以上、何かを語るつもりはないみたいで。

『さ、もうお行きなさい』

 と告げるや、ゴゴゴ……と、フロア全体が震えるように振動し、石床の一部がスライドして、下への階段が現れた。

 道は開けた。ギャレさんも、もうわたしたちを阻まない。

 では、ちょっと名残惜しいけれど、ギャレさんとはお別れして、踏み込むとしましょう。

 いざ最下層へ!





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