目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報
#075


 時刻は真夜中。

 まず、岸辺に火を焚いて。

 わたしと、魔王アリオクことあっちゃん、人馬一体のガミジンさんとで、その焚き火を囲んで、説明タイムとなった。

 ガミジンさんは例によって体育座り。それがまた変に板についてて困る。初見のときと違って見慣れちゃったせいか、違和感が仕事してくれない。

「余たちがここにいる理由? うん、それな」

 あっちゃんが口火を切った。

 聞けば。

 もともと魔王アリオクは、ここダネス湖の湖底ダンジョン……正式名称「湖底神殿」、その中層あたりに、居城への出入口を構えているのだという。

 ダンジョン内にお城があるの?

 ゲームに、そんなのは出てこなかったけど。

「余の城、シュヴァンガウの敷地は、ここの神殿遺跡の領域とは別の、ちょっと離れたとこにある地下空洞でな。遺跡側と、秘密のワープポータルで行き来できる仕組みになってる。ゆえに、これまで余の城に直接入り込んできた人間は、まだ誰もいないってわけ。あ、ワープポータルってわかる? ワープできるポータルのことでな」

 そうですね。ワープできるポータルですね。説明になってませんが、理解はできるので、それでいいです。

 神殿遺跡というのは、ここのダンジョンが、実は古代魔法文明の「神殿」の遺跡だからだね。

 で、シュヴァンガウとは……なぜにドイツの実在地名がここに出てくるのか。異界から来た魔王にいちいちツッコミ入れるだけ無駄ですかね。

 それはともかく、シュヴァンガウは、物理的には遺跡……つまりダンジョンとは繋がってない別の地下領域なので、ポータルの所在さえ知られなければ、誰もそこへ行くことはできない、と。

 そりゃゲームにも出てこないわけだ。

「ただ、問題があってなー」

 あっちゃんは、しげしげと溜め息をついた。

「事の起こりは、十年ほど前になるかな。余の部下が、勝手に、とある宝物を持って、城から逃げやがったんだ。ご丁寧に、置き手紙を残してな。退職金がわりにこの品を頂いていく、とか書いてあってなぁ」

 退職ってことは、その部下さんって魔王に雇われてたのか?

「たからものって?」

「旧魔法文明の産物のひとつ。それを持てば、誰でも空を飛べる、飛行の宝具。しかも現存しているのは、わが城にある、ただひとつだけでな」

 ほう、ほう。「宝具」ね。

 ゲームでは、「古代魔法を封じ込めた宝飾品の総称」が、「宝具」と呼ばれていたな。

 持てば誰でも火を噴けるようになるとか、持てば誰でもパンケーキ百二十個を五分で完食できるとか、様々な効果の「宝具」があった。役に立つかどうか微妙なものも多かったけど。

 形状は指輪、ブレスレット、ペンダントのいずれか。さすがにお店には売ってなくて、どれも上級ダンジョンと隠しダンジョンの宝箱に入ってる貴重品だった。

 でも、飛行の宝具は、「この世界のどこかにある」という情報だけは王都で聞けるものの、ゲームで実物を入手することはできなかった。そうか、あっちゃんの持ち物だったのか。

「で、その不埒なヤローを追っかけて、ガミジンと一緒に旅に出たんだ。この馬車でな。あれからもう十年になるんだな……」

 ほほう。つまり、あっちゃんと、こちらのガミジンさんとは、十年も一緒に旅をしてきた仲だと。

 ん?

 飛行の宝具を盗まれたから、馬車に乗って、十年、地上を走って追跡してた、と……。

「ねえ、あっちゃん、きいていい?」

 ふと、気になってしまった。わたしは話の腰を折って、あえて質問してみた。

「なにかな?」

「あっちゃん、おそら、とべないの?」

「そりゃー無理に決まってる」

 当たり前のように答える魔王アリオク。無理らしい。

「じゃあ、その、くろいはねは」

「ああ、これな。ニワトリだって、羽はあるけど、飛べないだろー?」

 立派な黒翼は、飛べない羽だったらしい。

 じゃあ、あっちゃんがゲームで空飛んでたの、翼じゃなくて、飛行宝具の効果だったってことか……。

 そりゃ、無くなったら困るよね。必死に追跡するのも道理か。

「いやーマジ、苦労したんだよ余。ついこないだ、やっとソイツをぶちのめして、宝具を取り返したんだけどな。そんときの追跡で、ガミジンに無理させすぎてなぁ。なんせ二十日ぐらいぶっ通しで、全力で走らせちまったからな。それで死にかけてたわけだ」

 ははあ。そんなタイミングで、たまたま、わたしが峠に通りかかったのか。

 にしても二十日間ノンストップで全力疾走って、どんな化け物馬なの。いえ化け物馬でしたわガミジンさん。

 いくら大事な宝具のためとはいえ、十年来の仲間……仲魔? が死にかけてるとなれば、魔王といえども取り乱すってことかな。

 わたしにDOGEZAしてまでガミジンさんの治癒を懇願するなんて、よほどのことだよね。

 そう考えると、なんだか尊みを感じられる間柄……かも。

「あのとき、お嬢様には、本当にお世話になりました。いまも感謝しております」

 ガミジンさんがおだやかに礼を述べる。いえいえそんなご丁寧に。

 見ためは怪馬だし、初対面のときは相当気が立ってたのか、なんか叱られちゃったけど。普段はこんなふうに穏やかな人……いや馬なんだな。

 あと、ガミジンさんって実は、声がちょっとハスキーで、可愛らしいんだよね。見ためはUMAなのにね。こういうのも、ギャップ萌えの範疇になるんだろうか?

「なんだかんだあったけど、レッデビちゃんのおかげで、ガミジンも元気になった。じゃあ久々に城に帰ろうと、ここまで来たんだけどな。そしたら問題が起きててな」

 ここで、さっきの話に戻るのね。問題ってなんだろ。

「シュヴァンガウ……いま、乗っ取られちまってるらしいんだわ。部下どもに」

 なんと?

「つまりあれだ、反乱ってやつな! これにはさすがの余もビックリだ! わははは」

 笑ってる場合かっ!





コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?