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#071


 レオおじさんとの「取引」は完了した。

 翌日、わたしはルリマスの南門から出て、再び街道の旅に復帰した。

 ルリマスから出発するにあたっては、レオおじさんが門の外までわざわざ見送りに来てくれた。

「困ったことがあったら、いつでも最寄りの教会へ行くといい。王国内の教会なら、おれの名前を出せば、多少の無理も通るだろう。今後、聖光教は、きみの味方だ。それを忘れないでくれ」

 おお、それは頼もしい。

 レオおじさんと出会い、語れたことは、とても大きな収穫だった。

 わたしにとって、この人生最大の目標は、「わが最推しカップルの未来を守る」こと。

 レオおじさんと聖光教の支援があれば、わたしの手が届かない王宮内や地方でも、ルードビッヒとポーラを守るために動いてもらうことができるはず。

 ゲーム内におけるルードビッヒの死因について、わたしは全パターンを把握している。

 都度、先回りして、それらを阻止するのが、わたしの基本方針だけど、わたし一人ではカバーしきれない局面もあるはず。

 それに、ゲームには出てこなかった新手の死亡パターンだって、無いとはいいきれないし。

 そういうとき、第三者の協力は必要不可欠。そこを聖光教に担ってもらえるなら、万全だろう。

 ただ、それらとの交換条件である「聖女探索への協力」については、ちょっと問題が。

 ポーラが「星の聖女」であることは、レオおじさんなら、自力ですぐ探り当てちゃうだろうけど。

 ルナちゃんについては……実はですね。「ロマ星」主人公であるルナちゃんが、王国内のどのへんの出身なのか、不明なんですよ。

 設定資料にすら具体的な地名には触れられてなくて、ただ「村落で育った平民の少女」としか記載されてないという。主人公なのに。

 なので、ルナちゃんの探索については、こちらも真面目に協力する必要がありそう。修行と並行して、なるべく情報収集もやっておこうかな。ゲームの通りならば、いずれ、どこかでひょっこり見つかるだろうな、とも思うけどね。

 いずれにせよ、ルードビッヒの身が本格的な危険に晒されるのは、十年先の、未来のお話。それまでレオおじさんや聖光教との協調関係を維持できれば、「最推しカップル」の将来は、明るいものになるはずだ。

 ルリマスは良いところだったな。邪神はおいしかったし、豚さんたちは可愛かった。

 念願の「真実の乙女」像を見ることもできた。素晴らしい聖地巡礼でした。

 なんかオマケで不思議な「鍵」を貰ったりもしたけど。ほんと、どこの扉に使うんだろうな、これ。

「では、またな」

「はい! また、おあいしましょー!」

 笑顔で、最後の挨拶を交わす。

 レオおじさんの、穏やかな眼差しに見送られて、わたしは夜の街道を駆け出した。

 さらば宿場町ルリマス。そのうちまた、邪神の串焼き、食べに来るからねー。







 ルリマスから街道をまっすぐ南下すれば、王国南端、ペスカトーレ地方までは、あとわずか。

 わたしの足なら、夜だけの移動で、だいたい一週間くらいの道程になる。

 ひたすら駆け続けるうち、右手に大きな湖が広がっているのが見えた。カダマツ湖、というらしい。邪神やビワーマスは、あそこで獲れるそうで。

 街道は、湖畔に沿って大きくカーブを描きながら、さらに南へと伸びて、森林地帯へさしかかる。

 広々とした湖畔を抜けると、視界の左右は、次第に鬱蒼たる木々の連なりへと変わっていった。

 ここらへんから上り坂。ホーエム山という山岳地の麓にあたる盆地帯。

 街道は、このホーエム山の山肌を斜めに、さながら、たすきを掛けるような形で通っており、山頂付近をぐるり迂回して、南へと続いている。

 非常にアップダウンが激しく、「ホーエムの峠道」と呼ばれる有名な険路だ。

 ゲームでは、この峠道で、ちょっとした隠しイベントが発生する。

 この世界に存在する、二体の魔王。

 そのうちの一方、「剣の王」こと魔王アリオクと、街道上で遭遇する、というものだ。

 本当にただの顔出しだけのサブイベントなのだけど、隠しイベントというだけあって、発生条件がなかなかヒネくれている。

 その条件は、ルナちゃんがレベル80以上……ゲームクリア可能なレベルに達していること。攻略対象イケメンズ六人のうち三人を戦闘NPCとしてパーティーに引き連れていること。さらにその中の「本命」の好感度がMAXに達していること。

 この三点を満たしたうえで、ホーエムの峠道を「徒歩で」通過しようとすれば、魔王様が出現する。

 ただ、これらの条件を満たした頃には、ゲームはもう終盤にさしかかっている。普通に遊んでたら、飛行移動手段である金竜「ソル」くんを入手済みだし、なんなら『転移』魔法も使えるようになっている。今更フィールド上をとことこ徒歩で移動なんてしない。

 それゆえに、この隠しイベントはゲーム発売後もなかなか発見されなかった。

 もちろん攻略本にも記載されておらず、一年後に出版された公式設定資料でようやくイベント発生条件が公開されたほどである。

 わたし? 普通に自力で見つけました。はい。

 ですがー、いまはゲームスタートより十年前。

 もちろんパーティーNPCなんていないし、攻略対象と出会ってもいないというか、わたしルナちゃんじゃないですから。隠しイベントの条件なんてまったく満たしようもなく。当然、魔王と出くわすはずもなく。

 ……と、思ってたんですけどねえ。

 なんか、いるんですよ。

 上り坂の、はるか彼方。

 街道上に、でっかい馬車が一輌、停まっておりまして。

 その傍らに、黒い翼を背に広げた、すらりと長身な人型シルエットが、ぽつねんと佇んでおりまして。

 なんか微妙に、斜めに構えたポーズで、ビシィ! と、前髪をかきあげたりしてるんですよ。

 ……ゲームでたしかに見たおぼえのあるシルエット。あのポーズ。

 うん。

 剣の王こと、魔王アリオクさん、で間違いないみたいですね……。





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