ゲーム「ロマ星」のメインストーリーというのは。
結局のところ、「月の聖女」である主人公ルナちゃんが、「北塔の魔女」の陰謀に振り回されるお話、という見方もできる。
最後には、ルナちゃん一味が力を合わせ、魔女が演出した破滅的状況を、かろうじて回避する、という形で終わっている。
最終決戦は、魔女に憑依されてラスボスと化したポーラの撃破。これにより、ポーラもろとも、魔女は滅びた。
けれど。
ルードビッヒが生きていれば、そもそもルナちゃんがそこまで苦労することはなかった。ポーラだって死ななかったはずだ。
わたしの見立てでは、聖光教のバックアップがあれば、ルードビッヒの死亡パターンのうち半分くらいは、事前に阻止できる。
それゆえに、いま目のまえにいるレオおじさんを、できうる限り納得させたうえで、協力を仰がねばならない。将来、枢機卿にまでのぼりつめる聖光教の大幹部サマを。
「わたしは、ゆめのなかで、みらいを、みたんです」
そうして、わたしは語り始めた。悲壮なる出会いと別れ、絶望へと至る物語を。
それは、かつてわたしが見た夢。
その夢のなかで、成長したルードビッヒとポーラを、わたしは見た。
たいそう素晴らしい紳士淑女。その美しくも幸福そうな二人の姿が、はっきりと見えた。
しかし、このとき、おそるべき「北塔の魔女」の謀略が、すでに王国を侵食していた。
その圧倒的な悪意によって、ルードビッヒは儚くも若き命を散らした。
ひとり残されたポーラは、ルードビッヒの蘇生を願い、藁にもすがる思いで魔女のもとを訪れる。
けれど、ああ、それこそが、魔女の仕掛けた最大の罠だった。ひとたび死んだ人間が蘇ることなど決してないのだから。
ポーラは、魔女に騙され、肉体を乗っ取られ、おそるべき怪物へと変じて、王国へと襲いかかる。
その先に待ち受けるは、世界の破滅……。
……という話を、臨場感たっぷりに語ってみせた。
とりあえず、転生とかゲームとか、そういう説明困難な部分を誤魔化すために、導入部分だけ、夢のお話、ということにしておいた。
でも、ギリギリ、嘘は言ってない、と思う。レオおじさんの『法の真眼』は、人の嘘を見抜くことができるというしね。
前世のわたしが見ていたもの。ゲームの世界。今世のわたしにとっては、かつて見た夢にも等しい物語……ということで。
それで。
最後の部分は、ゲームのバッドエンド。
ゲーム内で残念なプレイを続けていると辿り着く、残念な結末。
ルナちゃんはラスボス「闇星の魔神」を迎え撃つも、力及ばず、攻略対象とともに国外へ逃れることになる。
その後、フレイア王国は滅亡した。世界そのものも、いずれはラスボスによって滅ぼされるだろう……。
という絶望的予測とともに、スタッフロールが流れる。
バッドエンディング後にルナちゃんたちがどんな運命を辿るのか、一切説明はない。設定資料にすら記述がないのは、たぶんそこまでお話を考えてない、ってことだろうな。
わたしが語り終えてしばし、レオおじさんは、なにやら呆然と、わたしを見ていた。
すぐには感想も出てこないぐらい、レオおじさんにとっては意表をつく内容だったようだ。
「そういう夢を見た……か」
ようやく、ぽそりと、そう言葉を発した。
「はい」
うなずくわたし。
「ゆめは、ゆめです。ほんとにそうなるかは、わかりません。でも」
わたしは、ぐっと語気を強めた。
「そうなったら、わたしは、いやです。ゆめのなかのルードビッヒさまと、ポーラさま。ほんとに、とっても、すてきで、だいすきになったんです。だから、わたしは、おふたりを守るんです」
「……おう」
レオおじさんは、そんなわたしの顔を、あらためて見つめた。おそらく『法の真眼』を用いて、わたしの言葉や態度に嘘偽りがないものかどうか、確認したのだろう。
「きみは、その夢で見た、第三王子と侯爵令嬢の悲惨な結末を変えるために、いまも修行を続けている。それが結果として、悲劇の元凶である北の魔女を出し抜くことにもなる。そういうことなんだな?」
「そーいうことー。でも、ゆめのこと、ぜんぶ、しんじてもらうひつよーは、ないです。わたしが、なにをかんがえてるのかー、それだけ、りかい、してもらえればっ」
「いや、よくわかった」
レオおじさんは、キリッと眉を引き締め、わたしを見据えた。
「昨日の……『鍵』のことがなければ、いまの話なんて、一笑に付していたかもな。シャレア、きみは聖女ではないにせよ、なにかしら、神様の加護を受けている存在のようだ。実際、きみの身には、奇跡が降ってきた。ならば、きみが見た『夢』だって、本当に未来を垣間見ていた可能性がある。認めざるをえない」
はあ。そんなものでしょうかね。……因子ちゃんと思しき存在が「鍵」を落としてくれたのは、偶然だと思う。
でもそれがレオおじさんの説得材料として働いたのなら、それは因子ちゃんのおかげだね。
いつか因子ちゃんにお礼をしなくちゃ。邪神の串焼き、奢ってあげよう。
(タコ煮込みもね!)
いまどこかから、知ってる声が聴こえた気がする。
でも気のせいだ。気のせい。
ということにしておきましょう。