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#068


 ゲーム「ロマ星」のメインストーリーというのは。

 結局のところ、「月の聖女」である主人公ルナちゃんが、「北塔の魔女」の陰謀に振り回されるお話、という見方もできる。

 最後には、ルナちゃん一味が力を合わせ、魔女が演出した破滅的状況を、かろうじて回避する、という形で終わっている。

 最終決戦は、魔女に憑依されてラスボスと化したポーラの撃破。これにより、ポーラもろとも、魔女は滅びた。

 けれど。

 ルードビッヒが生きていれば、そもそもルナちゃんがそこまで苦労することはなかった。ポーラだって死ななかったはずだ。

 わたしの見立てでは、聖光教のバックアップがあれば、ルードビッヒの死亡パターンのうち半分くらいは、事前に阻止できる。

 それゆえに、いま目のまえにいるレオおじさんを、できうる限り納得させたうえで、協力を仰がねばならない。将来、枢機卿にまでのぼりつめる聖光教の大幹部サマを。

「わたしは、ゆめのなかで、みらいを、みたんです」

 そうして、わたしは語り始めた。悲壮なる出会いと別れ、絶望へと至る物語を。



 それは、かつてわたしが見た夢。

 その夢のなかで、成長したルードビッヒとポーラを、わたしは見た。

 たいそう素晴らしい紳士淑女。その美しくも幸福そうな二人の姿が、はっきりと見えた。

 しかし、このとき、おそるべき「北塔の魔女」の謀略が、すでに王国を侵食していた。

 その圧倒的な悪意によって、ルードビッヒは儚くも若き命を散らした。

 ひとり残されたポーラは、ルードビッヒの蘇生を願い、藁にもすがる思いで魔女のもとを訪れる。

 けれど、ああ、それこそが、魔女の仕掛けた最大の罠だった。ひとたび死んだ人間が蘇ることなど決してないのだから。

 ポーラは、魔女に騙され、肉体を乗っ取られ、おそるべき怪物へと変じて、王国へと襲いかかる。

 その先に待ち受けるは、世界の破滅……。



 ……という話を、臨場感たっぷりに語ってみせた。

 とりあえず、転生とかゲームとか、そういう説明困難な部分を誤魔化すために、導入部分だけ、夢のお話、ということにしておいた。

 でも、ギリギリ、嘘は言ってない、と思う。レオおじさんの『法の真眼』は、人の嘘を見抜くことができるというしね。

 前世のわたしが見ていたもの。ゲームの世界。今世のわたしにとっては、かつて見た夢にも等しい物語……ということで。

 それで。

 最後の部分は、ゲームのバッドエンド。

 ゲーム内で残念なプレイを続けていると辿り着く、残念な結末。

 ルナちゃんはラスボス「闇星の魔神」を迎え撃つも、力及ばず、攻略対象とともに国外へ逃れることになる。

 その後、フレイア王国は滅亡した。世界そのものも、いずれはラスボスによって滅ぼされるだろう……。

 という絶望的予測とともに、スタッフロールが流れる。

 バッドエンディング後にルナちゃんたちがどんな運命を辿るのか、一切説明はない。設定資料にすら記述がないのは、たぶんそこまでお話を考えてない、ってことだろうな。

 わたしが語り終えてしばし、レオおじさんは、なにやら呆然と、わたしを見ていた。

 すぐには感想も出てこないぐらい、レオおじさんにとっては意表をつく内容だったようだ。

「そういう夢を見た……か」

 ようやく、ぽそりと、そう言葉を発した。

「はい」

 うなずくわたし。

「ゆめは、ゆめです。ほんとにそうなるかは、わかりません。でも」

 わたしは、ぐっと語気を強めた。

「そうなったら、わたしは、いやです。ゆめのなかのルードビッヒさまと、ポーラさま。ほんとに、とっても、すてきで、だいすきになったんです。だから、わたしは、おふたりを守るんです」

「……おう」

 レオおじさんは、そんなわたしの顔を、あらためて見つめた。おそらく『法の真眼』を用いて、わたしの言葉や態度に嘘偽りがないものかどうか、確認したのだろう。

「きみは、その夢で見た、第三王子と侯爵令嬢の悲惨な結末を変えるために、いまも修行を続けている。それが結果として、悲劇の元凶である北の魔女を出し抜くことにもなる。そういうことなんだな?」

「そーいうことー。でも、ゆめのこと、ぜんぶ、しんじてもらうひつよーは、ないです。わたしが、なにをかんがえてるのかー、それだけ、りかい、してもらえればっ」

「いや、よくわかった」

 レオおじさんは、キリッと眉を引き締め、わたしを見据えた。

「昨日の……『鍵』のことがなければ、いまの話なんて、一笑に付していたかもな。シャレア、きみは聖女ではないにせよ、なにかしら、神様の加護を受けている存在のようだ。実際、きみの身には、奇跡が降ってきた。ならば、きみが見た『夢』だって、本当に未来を垣間見ていた可能性がある。認めざるをえない」

 はあ。そんなものでしょうかね。……因子ちゃんと思しき存在が「鍵」を落としてくれたのは、偶然だと思う。

 でもそれがレオおじさんの説得材料として働いたのなら、それは因子ちゃんのおかげだね。

 いつか因子ちゃんにお礼をしなくちゃ。邪神の串焼き、奢ってあげよう。

(タコ煮込みもね!)

 いまどこかから、知ってる声が聴こえた気がする。

 でも気のせいだ。気のせい。

 ということにしておきましょう。





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