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#067


 レオおじさんは、純粋な善意だけで、わたしに協力を持ちかけるような甘い人じゃない。

 善人ではあるんだ。でも。

 大陸最大の宗教組織。その内部なんて、おそらく、魑魅魍魎うごめく魔境でしょう。

 そんな組織でトップに近い位置を確保し、さらに上を目指そうなんて、よほど政治力と権謀術数に長けた野心家でなければ無理だと思う。

 わたしが『鑑定』してしまったレオおじさんの経歴、血なまぐさいにもほどがあった。「そういうこと」なんだろうなって。

 能力だけでなく、性格的にも相当クレバーな人物だと感じる。

 わたしと出会ってから、これまでに見せてきた、様々な行動や言動も、決して素のものではない。

 多分に演技をして、親しみやすい雰囲気を演出していた。

 油断も隙もない、とは、まさにこの人のためにあるような言葉だ。

 ……そういう人だからこそ、信用できる、頼りになる、ともいえる。

 お互い利害が一致している限り、協力しあうことができるから。

 ……わたしとしては、人間関係というのは、もっとエモーショナルなものであってほしいのだけど、でもレオおじさん、わたしを全然そういう目で見てないんだよねえ。

 子供を見守り導く大人、という態度ではなく。

 初対面以来ずっと。

 さながら対等の取引相手を観察し、品定めしているような目線だった。

 それがわかっている以上、わたしとしては、こう持ちかけるしかない。

「えっと。わたしのことを、お話しするまえにー、レオおじさんに、きいておきます」

「……なんだ」

「わたしに、なにをのぞみますか?」

 唐突な質問ではない。

 おそらくレオおじさんのほうでも、想定の範囲内だろう。

「そうくるだろうと思った。まったく、可愛げのない子供だな、きみは」

 ですよねー……。中身は子供じゃないですからね、わたし。言えませんけど。

「その様子じゃ、おれがなんと答えるか、もうわかってるんだろ。だが一応、言っておく」

 きりっと眉を締めて、レオおじさんは答えた。

「おれの聖女探しに、できうる限り、協力してほしい。きみがこれまでに把握している、聖女にまつわる情報を聞かせてもらえるとありがたい。また、今後知りえた情報についても、都度、提供してもらいたい。それが、おれがシャレアに望むことだ」

 やっぱり、そうなりますよねー。

「いいですよー」

 わたしは、あっさり答えた。いい笑顔で。

「でもっ、これは、とりひき、ですっ。わたしにも、レオおじさんのおチカラ、かしてください」

「取引きときたか。……じゃあ、聞かせてもらおうか? シャレアが、いまなおも力を求めて、いったいどこの誰を守ろうとしているのか。おれに、何か協力できることがあるのか。そのへんを」

 わたしは、ぱっと席を立って、レオおじさんの前に、ふんす! と鼻息も荒く、仁王立ちした。

「ではっ、耳かっぽじって、よーくきくようにっ」

「う、うむ」

「わたしがまもりたい人たちはっ、だいさんおーじ、ルードビッヒ! こーしゃくれーじょー、ポーラ・スタンレー! このおふたりです!」

「……は」

 レオおじさんは、瞬時に、わたしの言葉が何を意味するか、悟ったようだ。

 あからさまに、その場に固まってしまった。







 現在、フレイアの王宮にいる王子は五人。

 第三王子ルードビッヒは、今年七歳。文武に優れた才能を示し、将来の大成間違いなしと、宮中での人気も高い。

 ルードビッヒと同日同時刻に誕生した幼馴染み、ポーラ・スタンレー侯爵令嬢との関係も良好。さながら、おしどり夫婦のように、息ぴったりで、仲睦まじいと評判である。

 同時に、危険な陰影も、まとわりつきはじめていた。

 王位継承争いの萌芽。

 五人の王子には、それぞれ別の支持基盤がある。

 次期王の擁立をめざす各派閥の暗闘は、既に王宮内外で、はじまっていた。

 そうした王宮の現状を踏まえたうえで、シャレア・アルカポーネが断言する。

 ルードビッヒとポーラを守る!

 ……と。

 それを、わたしは、はっきりレオおじさんに告げた。

 となれば。

「ええと、ようするに……おれに、第三王子の擁立派につけ、と?」

 さすがはレオおじさん。本当に即座に、わたしの意図するところを把握してくれた。

 普段からよほど政争とか暗闘とかに慣れてる人なんだな。ゆえに、その手の発想にも、ごく自然に至ってしまうわけだ。

 わたしに「協力」するというなら、当然そういうことになるわけで。

 でもまだ、レオおじさんは、納得いかないようだ。

「アルカポーネ子爵家といえば、王家とは縁のない田舎領主だろう。そのご令嬢が、いったいどんな事情で、遠く離れた王都にいる第三王子と侯爵令嬢を守りたい、なんてことになるんだ?」

 うん。そのへん聞かれると、説明が難しいんだけどねー……。

 ここで「それは秘密です」と突っぱねることも、できなくはない。

 けれど、できれば、ある程度は納得のうえで協力してもらいたい、とも思う。

 そうなると、どう説明したものか。

 いきなり転生者であることを明かすのは、さすがにどうかと思うし。

 さらに「推しカップル」なんて概念が通じるとも思えない。あくまでわたしの個人的趣味だしねえ。

 そこで、話の矛先を、少し変えることにした。

「北塔の魔女が、二人の命を狙っているからです」

 と、脳内ではビシッと決め顔で言ったつもりなんだけど。

 実際にはこうなる。

「きたの、わるいまじょがっ、おふたりを、ねらってるんですっ」

 でも、意図はちゃんと通じたようだ。

「……北の魔女、だとっ」

 レオおじさん、すっかり目の色が変わっていた。

「詳しく聞かせてくれ。頼む」

 どうやら聖光教にとっても、「北塔の魔女」は無視できない敵みたいだね。

 ええ、よろしい。北塔の魔女の陰謀。王宮を腐食してゆく邪教団。狙われるルードビッヒ。

 そして、もしルードビッヒが死ねば、何が起こるか。

 脚色マシマシで語ってしんぜましょう。ゲームの話だけどね!





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