ゲーム「ロマ星」の根幹をなす設定。
聖花セイクリッド・リリィによって、その誕生が告げられる、二人の聖女。
白い百合は、「星の聖女」の誕生を。紅い百合は「月の聖女」の誕生を、それぞれ世界に知らせるという。
聖女とは、やがて襲い来る破滅から世界を救う存在であり、さまざまな特別な力を、その身に秘めているのだという。
星の聖女は、絶大なる魔力と最高の魔法の才能を生まれながらに持っている。まさに魔法の女王。
月の聖女は、きわめて高度な浄化や癒しの力を備えていて、身体能力も常人より数段優れている。
やがて来る「破滅」がどのようなものかは、誰にもわからない。聖光教会の経典にも、その詳細までは記されていない。
けれど、星の聖女の魔力と、月の聖女の浄化の力で、あらゆる闇と悪を打ち払い、世界に平和と安寧をもたらすであろう……とか書かれている。らしい。
らしい、というのは、わたしも経典の実物はまだ読んだことがないので。ゲームでも、いかにもフレーバーっぽい説明しかなかったし。なんせ乙女恋愛ゲームだから、そのへんの設定まで深堀りして説明する必要はない、ということだろう。
肝心なのは、二人いる聖女の片方が、ゲームの主人公ルナちゃんであり、もう一人が実質ラスボス令嬢ポーラ・スタンレーである、ということ。
ゲームでポーラが聖光教会から「星の聖女」の認定を受けるのは、十歳の頃だ。いまポーラは六歳のはずなので、ゲームの通りであれば、それは四年後ということになる。
一方、ルナちゃんが「月の聖女」の認定を受けるのは、十四歳のとき。それから一年後に、特待生として王立学園へ入学するという設定になっている。ポーラより二年後輩、わたしより一年後輩、ということになる。
……おおう。思い出した。
いまカッコイイ会話をしている、白い貫頭衣のおじさんたち。その片方は、「ロマ星」のプロローグに登場する人。
田舎の農家の娘だったルナちゃんを、ある日、ほとんど拉致同然に地元の教会へ連れ去って、「月の聖女」の認定をする。そういう役どころの人だ。
プロローグの中ではとくに言及されないが、後に出版されたキャラクター設定資料によれば、聖光教会フレイア王国北管区長、レオノール・コープス枢機卿、という高位聖職者である。
枢機卿ってことは、だいたい教皇の次ぐらいに偉い人。聖光教会の大幹部ってことだよね。そんな地位の人が、じきじきにルナちゃんを探し回って、発見するやいきなり拉致監禁とか。そりゃルナちゃんのご家族も逆らえませんって。
ゲームに出てくるレオノール枢機卿は、『法の真眼』という、最高位聖職者専用の特殊技能の持ち主だという。具体的には『鑑定』『解析』のさらに上位版の常時発動型魔法、と設定資料には書いてあった。
その特殊技能によって、レオノール氏は聖光教会でも唯一、聖女の存在を感知し、真贋を見極めることができるのだとか。それでルナちゃんを発見したわけね。
外見はいかにもお人好しっぽい、やわらかい雰囲気を漂わせながらも、世界を破滅の運命から救いたい、という本気の使命感と情熱を内に秘めた、初老の好人物だった。
その情熱をもってルナちゃんを説得し、聖光教会による全面的バックアップを確約したうえで、聖女としての修行をルナちゃんに課してくる。
その一環が王立学園への入学と、冒険者活動。
結局ルナちゃんは素直にそれらを受け入れ、世界の破滅に立ち向かうことになる。でも結局は、学園で出会うイケメンたちとの恋愛のほうがメインで、ついでに世界も救っちゃおう、ってノリになっちゃうんだけどね。
プロローグにおいて、ルナちゃんはレオノール氏の印象を「真っ赤に焼けた石を、ふわふわの綿毛でくるんだような人」と表現していた。それ放っといたら発火するんじゃない? と、初見プレイ時のわたしは内心ツッコんでたけど。
いまこうやって、近くで仰ぎ見る、レオノール氏と思しき人物。
顔立ちはやっぱり、ゲームのレオノール氏の面影が強く出ている。でも随分若い印象。そりゃゲーム開始十年前だしね、今って。
身にまとう雰囲気とかも、ゲームとはかなり印象が違う。目元はぐっと精悍で、表情には、どこか不敵なものが滲んでいる。
まだ初老というには若い年齢。情熱と自信が全身に漲っている。肩で風を切って歩いてそうな、素敵なイケオジだ。
「星の聖女については、発見まで、さほど時間は掛からないだろう」
と、レオノール氏が言う。
「ほう。なぜだ?」
相方の、こちらもなかなかイケオジだけど、ゲームには出てきてないので名前を知らない人が、目を細めて訊ねる。
レオノール氏は、悠然と答えた。
「この国広しといえど、先天的に魔法の才に優れた子女というのは限られている。一人ずつ、じっくり調べていけばいいだけだ」
「なるほどな」
「問題は月の聖女か。まだ肝心の花も開いていないのではな」
「伝承では、同じ時期に咲くはずだった。そうなっていないのは、確かに気がかりだが、我々ではどうしようもない」
「咲いたら知らせてくれ。それまでは、星の聖女の探索。それでいいか?」
「ああ。頼むよ、レオ」
「任せておけ」
「ではな」
名前を知らない方のイケオジは、そう別れを告げ、フッと笑みを浮かべると同時に、足元に転移魔法陣を展開し、光ととともに、その場から消え去った。
すごい。わたしの『転移』魔法より展開が速いし、術式も違う。教会独自の魔法なのかな?
なんて感心していると……。
一人残った、ちょっとゲームよりお若いレオノール氏が、当たり前のように、わたしのほうへ顔を向けてきた。
「さて、小さなお嬢さん」
お腹に響くイケオジボイスとともに、渋いイケオジスマイルを浮かべるレオノール氏。
「こんな時間に、こんな場所で、何をしているのかな?」
え?
普通にバレちゃってる?
……あ。そういう特殊技能持ちだった、この人。最初から、わたしの姿は見えてたんだ。
えーと。どーしましょう。
実は大ピンチだったりしますか、これ?